
このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第53回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
退職金制度導入の超基本|採用競争力向上と税制メリットを活かす制度設計のポイント
「そろそろ退職金制度を検討したいのですが、どこから手をつけていいかわからない…」
こんなご相談を企業の労務担当者の方からいただくことが最近増えています。人材獲得競争が激化する中で、退職金制度への関心が高まっているのを実感しています。
中小零細企業では退職金制度がない会社も多くあります。だからこそ、定年退職時に数百万円、あるいは数千万円というまとまった資金が手に入る退職金制度には、従業員の生活を支える大きな価値があると感じています。
今回は、退職金制度を検討中の経営者や労務担当者の皆さんに向けて、その基本的なメリット・デメリットから準備方法まで、実務に役立つポイントを詳しくお伝えします。
退職金制度で差別化|採用競争力と税制優遇の両面効果
人材採用での明確なアピールポイント
退職金制度導入の最大のメリットは、人材採用の場面で強力な武器になることです。求人票に「退職金制度あり」と記載できるだけで、求職者に「従業員を大切にする安定した会社」という印象を与えられます。
中途採用市場では特に、転職先選びで福利厚生の充実度を重視する求職者が増えています。同業他社との差別化が難しい業界でも、退職金制度の有無は明確な訴求ポイントになります。
会社にも従業員にもメリットがある税制の仕組み
注目すべきは、税金や社会保険料の負担です。同じ金額を、賞与と退職金で支払う場合を比較してみると、次の差異があります。
- 賞与として支給:税金は給与所得となり、退職所得よりも税金が高くなるケースが多い。また賞与は社会保険料の対象となり、会社と従業員双方に負担が発生
- 退職金として支給:退職金は、賞与よりも税金の負担が少ない可能性が高い。また社会保険料はかからない。
つまり、同じ原資でも会社と従業員双方にとって手取り額が増える効果があります。これは退職金制度特有の大きなメリットといえるでしょう。

制度導入前の重要な注意点|後戻りできない制度設計
一度導入したら廃止や変更は困難
退職金制度の導入は慎重に進める必要があります。一度、退職金制度を導入すると、それは従業員の労働条件の一部となるため、後から業績悪化などを理由に一方的な制度廃止や変更は極めて難しくなります。
理論上、従業員の同意があれば、変更や廃止は可能ですが、現実性がありません。このため制度設計の段階で、将来にわたって持続可能な内容にしておくことが重要です。
資金繰りへの影響を事前に検討
退職時一時金制度の場合、特定の年に定年退職者が集中すると、一度に多額の現金が必要になります。会社のキャッシュフローを圧迫し、借入れが必要になる可能性もあります。
また、退職金に原資を配分することで、月々の給与や賞与を抑制的に設計する必要が生じるかもしれません。このバランスをどう取るかは、企業の報酬戦略全体に関わる重要な課題です。

退職金の相場感|企業規模による支給額の違い
公的統計データから見る退職金の相場感をご紹介します。厚生労働省や東京都の調査では次のとおりとされています。
大企業の退職金相場
- 定年退職者(大学卒):約2,200万円程度
- 勤続年数や職種により大きく変動
中小企業の退職金相場
- 定年退職者(大学卒):約1,100万円程度
- 大企業との格差は依然として大きい
このように企業規模によって退職金水準には大きな差があります。ただし近年は、従来の年功序列的な退職金制度から確定拠出年金などを導入する企業が増えており、制度全体が多様化している傾向にあります。
退職金準備方法の選択肢|4つの手法とその特徴
退職金の原資を準備する方法として、主に4つの選択肢があります:
1. 社内現預金での準備(内部留保)
一見シンプルですが、税務上の効率性に問題があります。会社の利益に法人税が課税され、その税引き後資金から退職金を支払い、さらに従業員に所得税がかかる「二重課税」の構造になってしまいます。
2. 中小企業退職金共済制度(中退共)
国が運営する退職金制度で、掛金が損金算入できる外部積立制度です。
3. 生命保険商品の活用
養老保険などを活用した準備方法で、こちらも掛金の損金算入が可能です。
4. 確定拠出年金(DC)・確定給付年金(DB)
確定拠出年金は、拠出する金額が決まっている年金制度。確定給付年金は給付金額決まっている年金制度です。近年、確定拠出年金(DC)への注目が高まっています。
どの制度が最適かは企業ごとに異なる
重要なのは、どの制度にも一長一短があることです。会社の規模、従業員構成、経営方針によって最適な選択肢は全く異なります。そのため、自社の状況を十分に分析した上で制度選択を行うことが欠かせません。

まとめ|持続可能な退職金制度で人材戦略を強化
退職金制度は採用力強化や従業員定着率向上に寄与する有効な人事戦略ツールです。しかし一方で、一度導入すると簡単には後戻りできない性質や、将来にわたる財務負担も伴います。
導入を検討される際は、メリット・デメリットを十分に理解し、自社の体力や将来像に合った持続可能な制度設計を行うことが何より重要です。特に以下の点は必ず検討してください:
- 自社の財務状況と将来予測
- 従業員構成と退職予測
- 他の福利厚生制度とのバランス
- 税制優遇措置の活用方法
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、各企業様の状況やビジョンを丁寧にヒアリングし、退職金制度の新規導入から既存制度の見直しまで、最適なプランニングをサポートしています。どの制度が自社に適しているか、具体的なシミュレーションをご希望の経営者様・担当者様は、ぜひ一度無料相談をご活用ください。貴社に最適な退職金制度設計について、専門家の視点からご提案いたします。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。