コラム

【変形時間労働制】サービス業には高確率で未払い賃金がある

【変形時間労働制】サービス業には高確率で未払い賃金がある

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第49回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

あのマクドナルドも失敗した1か月単位の変形労働時間制の罠

「1か月単位の変形労働時間制を導入したのに、まだ残業代を請求されるの?」 先日、飲食チェーンを展開する経営者の方からこんな相談を受けました。1か月単位の変形労働時間制さえ導入すれば残業代が不要になると思い込んでいる企業が意外に多いのですが、実はこれ、誤解なんです。

実際、大手外食チェーンのマクドナルドでも、1か月単位の変形労働時間制の不適切な運用により未払い残業代約61万円の支払いを命じられる判決が出ています(名古屋地裁令和4年10月26日判決)。この事例からは、サービス業で1か月単位の変形労働時間制を運用する際の重要な教訓が見えてきます。

1か月単位の変形労働時間制は確かに便利な制度ですが、正しい制度設計と適切な勤怠管理なしでは、かえって法的リスクを高めてしまいます。今回は、マクドナルドの事例を踏まえながら、サービス業での1か月単位の変形労働時間制の正しい活用法について解説していきます。

変形労働時間制の基本と経営者が陥る誤解

まず、変形労働時間制について正しく理解しておきましょう。これは労働基準法第32条の2〜5に規定された制度で、業務の繁閑に応じて一定期間内で労働時間を柔軟に配分できる仕組みです。

制度の種類と特徴

  • 1ヶ月単位:月末・月初などの月内の繁閑に対応、最も導入しやすい
  • 1年単位:季節的な業務変動に対応。制約が多い
  • 1週間単位:30人未満の小売業・飲食店等に限定
  • フレックスタイム制:労働者が始業・終業の時刻を決定

重要なのは、変形労働時間制を導入しても残業代が不要になるわけではないということです。制度の目的は「残業代の削減」ではなく「労働時間の弾力化」にあります。

多くの経営者が「繁忙期は10時間働いても、閑散期で6時間にすれば相殺できる」と考えがちですが、これは大きな間違い。所定労働時間を事前に具体的に定め、その通りに運用しなければ制度として成立しません。

マクドナルドの裁判が明かした運用上の落とし穴

令和4年のマクドナルドの裁判では、1か月単位の変形労働時間制そのものが無効と判断されました。裁判所が指摘した問題点は、サービス業の多くが抱える課題と重複しています。

就業規則の致命的な不備

マクドナルドは全国864店で共通の就業規則を使用していましたが、「原則として」4つの勤務シフトを規定するだけで、現場では独自のシフトを使用していました。

裁判所の厳しい判断

  • 労働時間の「具体的特定」が不十分
  • 使用者の都合による任意の変更を許容する余地あり
  • 労働者の生活設計を損なう恐れあり

この判決は、形式的な制度導入では法的保護が得られないことを示しています。

サービス業に共通する構造的問題

マクドナルドの事例で浮き彫りになった問題は、多くのサービス業が直面している課題でもあります。

  • 多店舗展開での統一管理の困難
  • 営業現場と本社ルールの乖離
  • シフト制による複雑な労働時間パターン
  • 顧客都合による突発的な労働時間変更

これらの問題を放置したまま1か月単位の変形労働時間制を導入すれば、マクドナルドと同じ結果を招きかねません。

サービス業での未払い残業はなぜ頻発するのか

サービス業は他業種と比べて未払い残業が発生しやすい構造的要因を抱えています。

典型的な未払い残業のパターン

①タイムカードと実労働時間の乖離

  • 開店前の準備時間
  • シフト間の引き継ぎ時間
  • 営業終了後の片付け作業

②名ばかり管理職による残業代未払い

  • 店長職への昇格による残業代カット
  • 管理監督者の要件を満たさない役職者
  • 権限と処遇の不釣り合い

③1か月単位の変形労働時間制の誤用

  • 事前の労働時間特定なし
  • 事後的な労働時間の相殺
  • 「定額働かせ放題」との誤解

これらの問題は、適切な勤怠管理システムの導入と制度理解によって予防可能です。

残業代計算の複雑さという落とし穴

1か月単位の変形労働時間制では、残業代の計算方法が通常と異なります。日単位、週単位、期間単位の3段階で計算を行う必要があり、この複雑な計算を重複排除しながら行う必要があるため、手計算では困難です。一部の企業では、計算を諦めて「固定残業手当」で済ませようとしますが、これも法的リスクがあります。

勤怠管理システムで1か月単位の変形労働時間制を成功させる

1か月単位の変形労働時間制を適切に運用するには、制度対応の勤怠管理システムが不可欠です。システム選定では以下の機能を重視しましょう。

必須の機能要件

変形労働時間制対応機能

  • 自社が導入予定の変形労働時間制に対応しているか?
  • 複雑な残業計算の自動化
  • シフト管理との連携機能

アラート・チェック機能

  • 残業上限超過前の通知
  • 労働時間の不整合検出
  • 法定労働時間超過の自動判定

給与計算システム連携

  • 勤怠データのAPI連携(もしくはcsv出力)
  • 残業代計算の自動化
  • 各種手当との連携処理

システム導入による効果

適切なシステム導入により:

  • 計算ミスの防止:複雑な1か月単位の変形労働時間制の残業計算を自動化
  • 管理負担の軽減:リアルタイムでの労働時間管理
  • 法的リスクの削減:適正な労働時間記録と計算

特に、客観的な労働時間記録の維持は、労働基準監督署の調査や労働紛争への対応で威力を発揮します。

運用成功のための3つのポイント

  1. 事前の制度設計:業務分析に基づく適切な労働時間設定
  2. 継続的な監視:月次での制度運用状況チェック
  3. 教育研修の実施:管理者向けの制度理解促進

これらを怠ると、せっかくのシステム投資も無駄になってしまいます。

まとめ:適切な1か月単位の変形労働時間制で企業リスクを最小化

1か月単位の変形労働時間制は、サービス業の働き方改革に有効な制度です。しかし、マクドナルドの事例が示すように、不適切な運用は深刻な法的リスクを招きます

成功のカギは:

  • 労働基準法の要件を満たす制度設計
  • 客観的で正確な勤怠管理システム
  • 継続的な運用チェック体制

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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