
このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第37回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
社員の給与公開は本当に必要?経営者が知るべき「透明性」のリスクと効果的な解決策
「会社の透明性を高めるために、人事評価と給与を全社員に公開したいのですが、どう思われますか?」
最近、このようなご相談をいただく機会が増えました。オープンな組織文化を目指す経営者の方々にとって、給与の透明化は魅力的な選択肢に見えるかもしれません。しかし、この「透明性」という響きの良い言葉の裏には、組織運営に深刻なリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。
結論から申し上げますと、よほどの覚悟と準備がない限り、給与の全面公開はお勧めできません。今回は、なぜ給与公開が危険なのか、そして本当に必要な「透明性」とは何かについてお話しします。
給与公開が従業員の不満を招く心理的な理由
避けられない同僚比較と感情的反発
給与が公開されると、社員は必然的に同僚との比較を始めます。その結果、「なぜ同僚の○○さんより私の給料が低いのか」という不満が生まれがちです。
この問題の根本は、自己評価と他者評価の認識ズレにあります。人は自分の働きぶりを客観視することが非常に困難で、多くの場合、実際の評価より高く自己評価する傾向があります。
例えば、夜遅くまで残業している社員がいるとします。本人は「会社のために頑張っている」と考えていても、経営側からは「段取りが悪く、生産性が低い」と評価されているかもしれません。この認識のギャップに気づかないまま他者の給与を知ると、強い不満につながってしまうのです。
給与額だけでは伝わらない評価の背景
給与という単一の数字を公開することは、公平性を担保するどころか、評価の複雑な背景(実績、スキル、経験、市場価値など)を無視した比較を生み出します。これは組織内に不信と不満の種を蒔く結果となるでしょう。
成功事例から学ぶ透明化の条件
GMOの事例が示す本質
給与情報の透明化に成功している企業の代表例として、GMOインターネットグループがあります。ただし、GMOは個々人の給与額ではなく、**役職や等級ごとの給与レンジ(上限・下限)**を公開しています。
これにより社員は「同僚がいくら貰っているか」ではなく、「次のグレードに昇格すれば給与はどの範囲になるのか」という前向きな視点を持てるのです。
成功のための絶対条件
この「仕組みの透明化」が機能するには、以下の条件が必要です:
- 精緻な評価制度: 誰が見ても公平だと納得できる客観的な評価制度
- 十分な経営資源: 制度設計・導入・運用・メンテナンスのための人材・時間・資金
- 経営陣の覚悟: 導入時の混乱を乗り越える強いリーダーシップ
評価制度は「設計が2割、運用が8割」と言われるほど、継続的な運用が成否を分けます。
推奨する解決策:評価プロセスの透明化
社員が本当に求めているもの
社員が本当に求めているのは他人の給与額ではなく、「自分の頑張りが公正なプロセスで正しく評価されているか」という納得感です。
この要求に応える最も効果的で安全な方法が、評価プロセスの透明化です。
具体的な取り組み方法
1. 評価基準の明確化と公開
- どのような行動や成果が評価されるのかを具体的に示す
- 社員が日々の業務で何を目標とすべきかを明確にする
2. 丁寧な評価フィードバック
- 結果だけでなく「なぜその評価になったのか」を説明
- 一方的な査定から成長促進のための対話へ転換
3. 説明責任の徹底
- 同一労働同一賃金の法改正でも求められる「説明義務」の考え方を全社員に適用
- 評価と処遇の理由を明確に説明できる体制を構築
この方法により、社員の不満をキャリア開発への意欲に転換させ、組織全体の成長を促すことができます。
まとめ:本質的な透明性を目指して
企業の透明性向上は素晴らしい目標ですが、給与の全面公開という手段は大きなリスクを伴います。
真に目指すべきは、給与額という「結果」の公開ではなく、そこに至る「プロセス」の透明化です。
実践すべき3つのステップ:
- 明確で公平な評価基準の策定・周知
- 成長につながる評価フィードバックの実施
- 報酬哲学とキャリアパスの明確化
これらにより「この会社は公正な物差しで評価してくれる」という信頼感を醸成することが、本質的な透明性の実現であり、健全な組織文化の礎となります。
公正で透明性の高い人事評価・給与制度は、企業の持続的成長に不可欠です。しかし、その設計と運用には専門的な知識と経験が必要です。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、法的要件を満たしながら社員のモチベーションを高める人事制度の構築をサポートしています。評価制度や給与体系の見直しをご検討の際は、お気軽に無料相談をご利用ください。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。