コラム

【法律】もっともよくある有給休暇の相談

【法律】もっともよくある有給休暇の相談

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第92回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

はじめに

「入社したばかりの社員がインフルエンザで休んでしまった。有給はまだないけれど、給与を引くのはかわいそう。将来発生する有給を前借りできないだろうか?」

このようなご相談を、私は社会保険労務士としてよく受けます。社員を想う経営者の温かいお気持ちから生まれる質問なのですが、実は法的な観点からも実務的な観点からも、有給休暇の前借りは避けるべきです。

今回は、なぜ前借りが推奨されないのか、その法的背景とリスク、そして社員の不利益にならない代替案としての制度設計について解説します。

有給休暇の前借りが認められない法的理由

労働基準法では、年次有給休暇は雇い入れの日から6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して付与される権利と定められています。

つまり、入社から半年間は法律上、有給休暇が存在しない期間となります。存在しない権利を行使することはできませんし、関連する通達を見ても前借りを認める根拠はありません。

入社して3ヶ月の社員が、風邪やご家族の事情などやむを得ない理由で休まざるを得ないケースは多々あります。この場合、会社としての通常の対応は欠勤控除、つまり休んだ分の給与を差し引く処理となります。

しかし、ここで多くの経営者様はこう考えます。「本人のせいではないのに給料を減らすのは忍びない。半年後にどうせ10日付与されるのだから、そこから数日分を先に使わせてあげられないか」と。

お気持ちはよく分かります。しかし、ここで前借りという処理をしてしまうと、後々の労務管理において取り返しのつかない複雑さを招くことになります。

前借りを強行した場合に起きる管理上の混乱

もし無理に前借りを行った場合、実務上どのような問題が発生するのでしょうか。

例えば、入社半年後に10日付与される予定の社員が、入社3ヶ月目に5日分を前借りしたと仮定しましょう。

通常であれば、入社半年後が基準日となり、そこから1年ごとに新たな有給が付与されます。しかし、前借りを行うということは、有給休暇を与えた日が基準日として再設定されることを意味します。

入社3ヶ月目で5日分を前借りした場合、その社員の次回の有給付与は、そこから1年後、つまり入社1年3ヶ月時点で行わなければならなくなります。本来であれば入社1年6ヶ月時点で来るはずの2回目の付与日が、前借りをした社員だけ3ヶ月前倒しになってしまうのです。

これは何を意味するかというと、社員一人ひとりによって有給の付与サイクルが完全に異なってしまうということです。

Aさんは通常通り、Bさんは3ヶ月前倒し、Cさんは1ヶ月前倒しといったように、有給付与のルールが個別化してしまうと管理コストが膨大になるだけでなく、通常のルールで働いている他の社員との間で不公平感が生じます。特定の社員だけが早く有給をもらえるという状況は、組織運営上好ましくありません。

特別休暇の導入が最適な解決策

前借りができないと、欠勤控除するしかない。これでは、せっかく専門家に相談いただいた意味がありません。法律の壁を越えられなくとも、会社の制度を工夫することで社員を守ることは十分に可能です。

私がお勧めしているのは、入社直後から使える特別休暇の導入です。法定の年次有給休暇とは別に、会社が独自に設ける福利厚生としての休暇制度です。スタートアップ企業などではウェルカム休暇といった親しみやすい名称で導入されているケースもあります。

例えば、名称は傷病休暇やウェルカム休暇、付与日数は3日から5日程度、利用条件は病気や看護などやむを得ない理由がある場合に限定、有効期限は入社から半年間といった設計が可能です。

この制度の強みは、法律の縛りを受けないため自由設計ができる点です。年次有給休暇には時効は2年というルールがありますが、この特別休暇であれば入社半年が経過したら消滅させるといった設計も可能です。

もしくは、試用期間中の退職リスクを考慮し、試用期間終了後から有給発生までの3ヶ月間だけ使えるという形にしても良いでしょう。これなら管理の手間を最小限に抑えつつ、入社直後の病欠で給与が減るという社員の不安を解消できます。

一斉付与は中小企業に向いているか

有給休暇の管理を簡素化するために、全社員の有給付与日を4月1日に統一できないか、というご提案をいただくこともあります。

これについては、中小企業においてはあまりお勧めできません。

確かに、4月1日に全社員へ一斉に有給を付与すれば、4月から翌年3月までというサイクルが明確になり、社員にとっても分かりやすいというメリットはあります。新卒一括採用がメインの大企業であれば、この方法は合理的です。

しかし、中途採用が中心の中小企業の場合、デメリットの方が大きくなる傾向があります。

同じ日に休暇を付与するためには、法律の基準日よりも前倒しで付与する必要があります。入社時期によっては、本来半年待つべきところを入社直後に付与するケースも出てきます。これは間接的な人件費の増加につながります。

勤怠管理システムや有給管理ソフトは、複雑な分割付与や調整付与に対応しきれていないケースがあります。結果として、システムで管理しきれない部分は手作業での管理となり、煩雑な業務に逆戻りしてしまいます。

まとめ

有給休暇の制度設計において重要なのは、法律の原則を守りつつ、会社独自のプラスアルファで社員をケアするという視点です。

無理な前借りや実態に合わない一斉付与は、管理部門の疲弊を招き、結果として正確な労務管理を阻害する要因となります。

私の推奨する最適解は、年次有給休暇は法律通り入社半年後に付与して管理をシンプルに保ち、入社半年間の有給がない期間については、会社独自の特別休暇を数日付与してカバーするという方法です。

このように、法律で定められた土台は崩さず、その上に会社としての思いやりを制度として乗せる形が、リスクが少なく社員満足度の高い運用となります。

自社に合った特別休暇を作りたいが就業規則にどう記載すればいいか分からない、今の有給管理が限界にきている、そのようなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ一度私たちにご相談ください。

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、法律に則りつつも柔軟で温かみのある働き方の設計をサポートしています。初回相談は無料ですので、貴社の状況に合わせた最適なプランを一緒に考えましょう。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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