コラム

【残業代】従業員全員管理職にしたら残業代はいらないのか

【残業代】従業員全員管理職にしたら残業代はいらないのか

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第33回の配信をもとに書かれた記事です。

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会社経営を行う上で、人件費の管理は避けては通れません。特に、残業代の支払いは企業の利益に直接影響します。従業員を管理職扱いにして残業代の削減を考える経営者もいます。会社によって、スタッフが全員管理監督者扱いにされていることも…。今回のコラムでは、この方法が法的に認められるか、また実際に運用したらどのようなリスクがあるのかを解説します!

目次

管理職と残業代の誤解

多くの経営者が持つ誤解に、「管理職には残業代を支払う必要がない」というものがあります。確かに、労働基準法では、管理監督者は残業代の支払い対象外とされています。しかし、単に役職名を管理職にするだけで残業代の支払いをしなくてもいいわけではありません。

管理監督者の条件

管理監督者は、以下の条件を満たしている必要があります。

・重要な職務内容、責任及び権限を有していること                       労働条件等の労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している必要があります。また、経営者から労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を委ねられている必要があります。

・勤務形態が労働時間等の規制になじまないものであること                   管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要があります。労働時間について厳格な管理をされているような場合は、管理監督者とは言えません。

・賃金等について相当の待遇がなされていること                        管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較してその地位にふさわしい待遇がなされていなければなりません。 管理監督者に当てはまるかどうかは、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。企業内で管理職とされていても、上記の判断基準に基づき総合的に判断した結果、労働基準法上の管理監督者に該当しない場合には、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払が必要となります。

あと単純な話ですが、文字通り「管理監督」を行うことが必要です。要するに部下を持つことですね。残業代を支払わないために全員を管理監督者にすると、誰も部下を持つことができません。したがって、スタッフ全員を管理監督者にして、残業代を支払わないというのは無理があります。

過去の判例から見るリスク

「名ばかり管理職」で有名な判例があります。全国に展開するハンバーガーチェーン店の判例ですが、店長が労働基準法上の管理監督者には当たらないとして、残業代等約750万円の支払いが命じられています。

この判決のポイントは3つあります。 

1.重要な職務内容、責任及び権限を有しているか                       店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、従業員の勤務シフトの決定、販売促進活動の企画、実施等を行う立場にあるから、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかです。しかし、その権限は店舗内の事項に限られるため、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務と権限を付与されているとは認められませんでした。

2.勤務形態                                        60日以上の連続勤務を余儀なくされ、時間外労働が月100時間を超える場合もあるなど、店長の労働時間は相当長時間に及んでいました。自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して、上司の許可を得る必要はないなど、形式的には労働時間に裁量があるものの、実際には、固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ、勤務態勢上の必要性から、自ら勤務しなくてはならないことなどにより、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められませんでした。 

3.待遇                                          評価によって変動しますが、最低評価を受ける全体の10%の店長の年収は、その下位の役職の平均年収より低額でした。また、全体の40%の評価を受けた店長の年収は、その下位の役職の平均年収を上回るものの、差は年額で44万にとどまっており、その地位にふさわしい待遇がなされていると言うことはできません。

以上のことから、店長は管理監督者に当たるとは認められず、時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである、という判決が下ったのでした。

まとめ

従業員を名ばかりの管理職にして残業代を削減しようとすると、未払い残業代の請求を受けるなど、大きなリスクを伴います。残業代を支払わないということは、企業の利益が増加するため、とても魅力的です。しかし、経営者としては、短期的なコスト削減のために法的なリスクを冒すよりも、適正な人事管理と労働基準法の遵守を心がけることが重要です。

管理監督者は、会社の中に一定数いないと、従業員の突然の退職に対応できないなど問題が出てきてしまいます。そのため、管理職の方には、管理職の定義や権限、給与体系を明確にしたうえで、経営者と同等の地位と権利を付与することが必要です。自社の管理職が管理監督者に該当するか不安な方は、一度専門家に相談することをおすすめします。正しい知識と対応策をもって、従業員と企業双方にとって公正な職場環境を築いていきましょう。

社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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