
このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第142回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
時間単位の年次有給休暇制度とは
年次有給休暇とは、簡単に言えば、入社半年後に10日付与され、その権利を使うことで会社を合法的に休むことができる制度です。しかし、この制度は原則として1日単位での取得が基本となっており、実際の運用においては使いづらさがあります。
例えば、数時間だけ休みたい場合でも丸1日休まなければならず、結果として仕事が終わらず休日出勤することになるなど、非効率な状況が生じることがあります。このような問題に対応するため、半日単位での取得も認められるようになりましたが、それでも「午前中、子供を少し病院に連れて行くために1時間だけ遅刻したい」というケースでは、半日休まなければならず不便さが残ります。
こうした労働者の声を反映して導入されたのが「時間単位の年次有給休暇制度」です。この制度では、1時間ごとに有給休暇を取得できるようになります。所定労働時間が8時間の人であれば、1日の有給休暇の権利を8分割して、1時間単位で取得できるようになりました。
時間単位の年次有給休暇導入の手順と注意点
時間単位の年次有給休暇制度を導入するには、就業規則の作成と労使協定書の作成が必要になります。ここで注意すべきは、就業規則だけでは認められないという点です。半日単位の有給休暇は就業規則に定めれば導入できますが、時間単位まで認める場合は労使協定の締結が必須となります。
記載内容については、一般的な書き方があるため、社会保険労務士などの専門家と相談しながら決めるとよいでしょう。
時間単位の年次有給休暇には、法律で定められた制限があります。最も重要な制限は、1年で40時間分(5日分)までしか時間単位の有給休暇は使えないということです。これは例外なく適用され、特約があっても上限を超えることはできません。
この制限がある理由は、厚生労働省の考えとして、年次有給休暇は本来、丸1日休んでリフレッシュしてもらい、健康管理の観点からも休息をとってほしいという意図があるためです。時間単位の取得を無制限に認めると、本来の趣旨から外れてしまうという懸念から上限が設けられています。
時間単位の年次有給休暇の管理と実務的な課題
時間単位の年次有給休暇の導入を検討する企業に対して、私はまず「管理が面倒なので避けた方が後悔しない」とアドバイスします。特に中小企業など管理能力に限りがある会社では、時間単位の有給休暇の残時間管理は非常に煩雑です。
多くの中小企業では、1日単位の残日数ですら正確に把握できていないケースが珍しくありません。そのような状況で、さらに細かい「40時間のうち何時間使ったのか」をスタッフ全員ごとに管理していくのは大変な負担となります。
実際に管理する場合は、管理専用のソフトウェアや勤怠システムに付属する機能を利用するか、Excelなどで独自に管理表を作成して、一つ一つ消化時間を記録していく必要があります。
時間単位の年次有給休暇の繰り越しに関する誤解
時間単位の年次有給休暇に関して、繰り越しについてよくある誤解があります。例えば、ある年に10日の有給休暇が付与され、3日使用し、時間単位で5時間使った場合、残りは6日と3時間となります。これが翌年に繰り越されるわけですが、この時「繰り越された3時間があるから、翌年は40時間ではなく43時間使える」と考える方がいます。
しかし、これは誤りです。どの年でも時間単位で取得できる上限は40時間(5日分)と決まっています。この誤解が生じる原因として、「10日付与されたうちの5日は丸1日単位の有給で、残りの5日分が時間単位で40時間付与されている」という誤った理解があるようです。
実際には、年次有給休暇は使い方の自由度が高く、1日単位でも半日単位でも1時間単位でも、労働者が自由に選択できます。例えるなら、1000円札をもらって500円玉2枚に両替して使うか、100円玉10枚に両替して使うかは自由なのと同じです。ただし、時間単位での取得には年間40時間という上限があるということです。
まとめ
時間単位の年次有給休暇制度は、労働者にとって柔軟な働き方を実現する有効な手段ですが、企業側にとっては管理の煩雑さというデメリットもあります。特に中小企業では導入に慎重になるケースが多いものの、大企業を中心に徐々に普及しつつあります。
正しい理解と適切な管理体制を構築することで、労働者の利便性向上と企業の生産性維持の両立が可能となります。制度設計や運用に関してご不明点がある場合は、社会保険労務士法人ONE HEARTにご相談ください。
社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。