このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第93回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
はじめに:人材定着の課題と向き合う
「また辞めたいって言われちゃって…」
労務相談の現場で、経営者の方からよく聞く言葉です。せっかく育ってきたと思った矢先に退職を告げられる。採用にかけたコストも時間も水の泡になり、また一から採用活動を始める。こうした繰り返しに悩む経営者は少なくありません。
顧問社労士として多くの企業を見てきた経験から言えるのは、退職者が多い会社には明確な共通点があるということです。ただ、これを率直にお伝えするのは、私たちにとっても勇気がいります。愛情を注いで築いてきた会社の体制を否定するように聞こえるかもしれないからです。
しかし、人材定着は企業の持続的成長に直結する重要な経営課題です。今回は、あえて遠慮せずに退職者が多い会社に共通する4つの問題をお話しします。耳の痛い内容もあるかもしれませんが、改善のヒントとしてぜひご一読ください。
人材定着を阻む問題1:経営者が「ケチすぎる」という盲点
退職が多い会社の1つ目の共通点は、経営者がケチすぎることです。厄介なのは、多くの場合ご本人に自覚がないという点です。払うものを払わないと、最終的に損するのは会社や経営者です。
典型例が、労働時間を15分単位で丸めて処理している会社です。このような処理は、未払い賃金が生じているため違法です。
IT化が進んでいなかった時代の名残かもしれませんが、今はデジタル勤怠システムで1分単位の集計が簡単にできます。数分の切り捨てには未払い賃金という法的問題もありますが、それ以前に、その数分を削ったところで経営にほとんど影響はないはずです。
それなのに労働時間の切り捨てにこだわる経営者が一定数いらっしゃいます。しかし、人の採用や育成には多額の費用がかかります。こうした細かいケチにこだわった結果、スタッフが辞めてしまえば、切り捨てた数分の賃金よりも遥かに大きな損失を被ることになるのです。
有給休暇も同様です。申請を受け付けなかったり、嫌な顔をする経営者が稀にいらっしゃいます。「自分は有給もなく働いているのに」という思いがあるのかもしれません。しかし、経営者とスタッフでは立場も報酬も異なります。有休申請に難色を示す姿勢は、結果的に信頼や定着率という、もっと大切なものを失うことにつながります。

人材定着を阻む問題2:会社としての「ルールがない」ことの弊害
2つ目の共通点は、会社としてのルールがないことです。ルールがない会社では、経営者の指示やルールが頻繁に変わります。いわゆる朝令暮改が起こるのです。
これは中小企業の経営者が特に気を付けなければならない点です。ルールがないと、それに従って会社を運営していく人が最も困ります。「社長は前にこう言っていたのに、今は違うことを言っている」という状況が生まれると、スタッフ間で不満が広がり、「社長は信用できない」という形で退職につながります。
よくあるのが経費決済の例です。ある時は「頑張っているから自由に経費を使っていい」と言っていたのに、後日同じような経費精算で「事前に話を通してもらわないと困る」と急に言い出す。スタッフからすれば理不尽に感じますが、経営者は多くのことを考えているため、自分の言動が矛盾していることに気づいていないケースがあります。
だからこそ、就業規則や経費のルール、つまり誰がいくらまでどのような条件で使えるかを明文化しておくことが重要です。これはスタッフのためだけでなく、経営者自身を守る安全装置にもなります。
明文化されたルールがあれば、経営者も安心して判断でき、スタッフも納得して働けます。人材定着において、この透明性と一貫性は極めて重要な要素です。

人材定着を阻む問題3:スタッフが「成長を実感できない」環境
中小企業でありがちな3つ目の共通点は、スタッフが成長を実感できないことです。
やる気のあるスタッフもそうでないスタッフもいますが、毎日同じことの繰り返しで成長を実感できない状態が続けば、誰でも飽きてしまいます。「この会社で10年も20年も同じことをやり続けるのか」と感じた瞬間、「私の人生ここで終わりじゃない」という気持ちが芽生え、転職を検討し始めます。
会社としては、スタッフが成長を実感できるように次の仕事を与えたり、キャリアステップを進める仕掛けを用意することが求められます。これは容易ではありませんが、株式会社の宿命です。成長実感のある環境を作るには、会社自身も成長し、役職や仕事の選択肢を増やしていく必要があります。ひたすら前進し続けなければならないのが、資本主義で経営する宿命と言えるでしょう。
重要なのは、意図的に成長実感を持てる体制を作ることです。スタッフのモチベーションを維持し能力を引き出すため、計画的なキャリア開発や業務のローテーションを設計しましょう。
たとえば、ある製造業では入社3年目のスタッフに新プロジェクトのリーダーを任せる制度を導入しました。最初は不安そうだったスタッフも、責任ある仕事を任されることで自信を持ち始め、「この会社で成長できる」と実感するようになったのです。こうした小さな工夫の積み重ねが、人材定着につながります。

人材定着を阻む問題4:入社前と入社後の「期待値のギャップ」
最後の共通点は、入社前と入社後の期待値のギャップが大きいことです。
営業が得意な社長が「うちの会社はこんなに良い会社です」と熱心に語り、入社してもらったとしましょう。しかし実際には、労働時間が切り捨てられ、ルールがなく経営者の言動が変わり、周りのスタッフは会社の不満ばかり言っている。こうした現実に直面したらどうでしょうか。
入社前後で全く違う現実を目の当たりにすると、スタッフは「こんな状態なら最初から教えてほしかった」と感じ、早期退職を検討します。最悪の場合、「経営者の言っていることは嘘だ」という不信感につながります。
以前は「会社がスタッフを雇ってあげている」という感覚で経営している人が多かったかもしれません。しかし今は、労働者が会社を選ぶ時代です。他社と比較して自社がどれくらい魅力的な労働条件なのか、何が強みなのかを意識することが経営者に求められています。
これからは、自社で働くメリットを明確にしながら労働条件や働き方を設計していく視点が欠かせません。採用活動でも、実態とかけ離れた誇大な表現は避け、正直かつ魅力的な情報を発信することが、結果的に人材定着率の向上につながります。

まとめ:人材定着は「経営者の姿勢」と「仕組み」で決まる
今回は、退職者が多い会社に共通する4つの問題をお話ししました。
経営者のケチすぎる姿勢、会社としてのルールの不在、スタッフが成長を実感できない環境、そして入社前後の期待値の大きなギャップ。これらの根底にあるのは、「人材定着は未来への投資である」という意識の欠如と、経営者の一貫した姿勢を支える明確なルールの欠如です。
労働者が会社を選ぶ時代において、人材定着率の向上は企業の持続的成長に直結する重要な経営課題です。社会保険労務士法人ONE HEARTでは、本記事でお話しした人材定着の課題に対し、貴社に合った就業規則の策定、評価制度の構築、そして働きがいを感じられる労働環境の設計を支援しています。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


