コラム

社会保険料の上限について|厚生年金はいつから引き上げ?等級と負担を解説

社会保険料の上限について|厚生年金はいつから引き上げ?等級と負担を解説

社会保険料は、給与や賞与の金額に応じて高くなりますが、一定の金額で上限が設定されています。
特に厚生年金保険料については、2025年6月に成立した年金制度改正法により上限額の段階的な引き上げが決定しており、2027年9月以降、企業と従業員双方の負担に影響が生じます。
経営者や労務担当者は、今後の負担増を見据え、厚生年金保険料の等級や月額の変更点を正確に把握し、計画的な準備を進めることが重要です。

給与や賞与で社会保険料が頭打ちになる「標準報酬月額」の上限とは

社会保険料の計算基礎となるのが「標準報酬月額」です。
標準報酬月額とは、従業員の給与などの報酬月額を一定の範囲で区分したもので、この区分ごとに等級が定められています。
健康保険や厚生年金保険の保険料は、この標準報酬月額に保険料率を乗じて算出されます。

報酬月額が非常に高額な場合でも、保険料は上限等級の標準報酬月額で計算されるため、負担額が青天井に増えることはありません。
この上限額が、給与や賞与における社会保険料の頭打ちの仕組みです。

【2026年】社会保険の種類ごとの上限額一覧

社会保険料には、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険など複数の種類があり、それぞれ保険料の計算方法や上限額が異なります。
特に、高所得者層の保険料に大きく影響するのは、健康保険と厚生年金保険の上限です。
健康保険については、賞与の年間累計額にも上限が設けられています。

ここでは、経営者や労務担当者が押さえておくべき主要な社会保険の種類ごとに、現在の保険料上限額について解説します。

健康保険料の上限:標準報酬月額は139万円(50等級)

健康保険料の計算に用いられる標準報酬月額には上限が定められています。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、上限は第50等級の139万円です。
これは、月収が139万円をどれだけ超えても、健康保険料の計算基礎は139万円として扱われることを意味します。

例えば、月収が200万円であっても139万円として保険料が計算されます。
ただし、健康保険組合によっては独自の上限額を設定している場合があるため、加入している組合の規約を確認する必要があります。

厚生年金保険料の上限:標準報酬月額は65万円(32等級)

現在の厚生年金保険料における標準報酬月額の上限は、第32等級の65万円です。
月給が63万5,000円以上の従業員は、一律でこの等級に該当し、実際の報酬額にかかわらず65万円を基に保険料が計算されます。
そのため、月収が100万円であっても200万円であっても、月々の厚生年金保険料は同額となります。

この上限額は、今後の法改正によって段階的に引き上げられることが決定しており、企業の社会保険料負担に影響を与える見込みです。

賞与(ボーナス)における社会保険料の上限額

賞与(ボーナス)から控除される社会保険料にも上限が設定されています。
これを「標準賞与額」の上限といいます。
健康保険の場合、年度内(4月1日から翌年3月31日まで)に支給される賞与の累計額が573万円を超えた分には保険料がかかりません。

一方、厚生年金保険では、1回の支給につき150万円が上限です。
同じ月に2回支給された場合は合算して判断されますが、150万円を超えた金額分については保険料の対象外となります。

【法改正】厚生年金保険料の上限はいつからどう変わる?

2025年の年金制度改正法により、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限が変更されることが決まりました。
この改正の背景には、高所得者層の実際の報酬と保険料負担の間に乖離があるという課題があります。
現行制度では、報酬が上限額を超えると実質的な保険料負担率が低下するため、収入に応じた負担を求める観点から見直しがされました。

年金制度の持続可能性を高め、給付と負担の公平性を確保する目的があります。

2027年9月から段階的に上限が75万円まで引き上げられる

厚生年金保険料の標準報酬月額の上限は、2027年9月から3段階で引き上げられる予定です。
まず2027年9月に現行の65万円から68万円に、翌2028年9月に71万円、そして2029年9月に最終的に75万円となります。
この変更は、毎年4月から6月の報酬を基に決定される標準報酬月額が適用される9月のタイミングで実施されます。

したがって、企業はそれぞれの年の算定基礎届の提出時から、新しい上限額を意識した対応が必要です。

上限引き上げによる企業と従業員の負担額シミュレーション

厚生年金保険料の上限引き上げは、企業と高所得の従業員双方の負担増に直結します。
例えば、標準報酬月額が最終的に75万円まで引き上げられた場合、現行の65万円の上限と比較して、従業員1人あたりの月額保険料(労使合計)は約18,300円増加します(保険料率18.3%で計算)。
労使折半であるため、企業と従業員の負担はそれぞれ月額約9,150円ずつ増える計算です。

社会保険料は所得控除の対象となるため、従業員の実質的な手取り減少額はこれより少なくなりますが、企業にとっては人件費の増加要因となります。

上限引き上げが将来の年金受給額に与える影響

厚生年金保険料の負担が増える一方で、将来受け取る年金額が増加するという側面もあります。
老齢厚生年金の受給額は、現役時代の報酬(標準報酬月額)に基づいて計算されるため、上限が引き上げられることで、これまで上限を超えていた分の報酬も年金額に反映されるようになります。
厚生労働省の試算によると、標準報酬月額が75万円の状態で10年間加入した場合、将来の年金受給額は月額で約5,100円増加するとされています。

保険料負担と将来の年金給付の両面を理解することが重要です。

社会保険料の負担増に備えるために企業が検討すべきこと

厚生年金保険料の上限引き上げに伴う社会保険料の負担増は、特に高所得の役員や従業員を多く抱える企業にとって、人件費予算に大きな影響を与えます。
法改正のスケジュールを見据え、事前に影響額を試算し、対策を検討することが不可欠です。
具体的には、役員報酬や給与体系の見直し、福利厚生制度の活用などが挙げられます。

増加する社会保険料控除額を考慮しつつ、従業員の手取り額や企業の財務状況のバランスを取るための戦略的なアプローチが求められます。

役員報酬や高所得者層の給与体系の見直し

厚生年金保険料の上限引き上げは、月収が63万5,000円を超える役員や従業員に直接影響します。
企業は、対象となる従業員のリストアップと、段階的な引き上げに伴う年額の負担増加額を早期に試算しておくべきです。
その上で、影響が大きい場合には、役員報酬や給与体系の見直しを検討する必要が生じるかもしれません。

単に月収を引き下げるのではなく、業績連動型の報酬や退職金制度なども含め、中長期的な視点で報酬制度全体を最適化するアプローチが重要です。

賞与の上限を活用した保険料の最適化は有効か?

厚生年金の標準賞与額の上限を利用し、月給を抑えて賞与の割合を増やすことで社会保険料を最適化する方法が知られています。
しかし、この手法には注意が必要です。
賞与の比率を極端に高くするなどの不自然な報酬設計は、年金事務所の調査で否認されるリスクがあります。

また、賞与の累計額の上限が大きい健康保険料の負担は増加する可能性があります。
今後の法改正で、厚生年金の賞与上限が撤廃または引き上げられる可能性もゼロではないため、短期的な節約策に頼るのではなく、あくまで適切な報酬配分を心掛けるべきです。

企業型確定拠出年金など福利厚生制度の活用

社会保険料の負担増への対策として、福利厚生制度の活用も有効な選択肢です。
特に、企業型確定拠出年金(企業型DC)は、掛金が社会保険料の算定基礎から除外されるため、企業と従業員双方の保険料負担を軽減する効果があります。
また、掛金は全額所得控除の対象となるため、従業員の所得税や住民税の負担も軽くなります。

通勤手当などの非課税手当とは異なり、資産形成を支援しながら社会保険料負担の最適化を図れるため、従業員の満足度向上にも繋がります。

社会保険料の上限に関するよくある質問

社会保険料の上限、特に厚生年金保険料の引き上げに関しては、経営者や労務担当者から多くの質問が寄せられます。
ここでは、法改正による手取り額への具体的な影響、健康保険料の今後の見通し、そして実務上の注意点など、特に問い合わせの多い項目について回答します。
正しい知識を身につけ、適切な労務管理を行うための参考にしてください。

高所得の役員や従業員の手取りは具体的にいくら減りますか?

厚生年金保険料の上限が75万円になった場合、本人負担分は月額約9,100円増加します。
ただし、社会保険料は全額が所得控除の対象となるため、所得税・住民税が軽減されます。
厚生労働省の試算では、これを考慮した実質的な手取り減少額は月額約6,100円、年間にすると約73,200円程度と見込まれています。

健康保険料の上限も引き上げられる予定はありますか?

今回の法改正は厚生年金保険の標準報酬月額に関するものであり、現時点で健康保険料の上限(協会けんぽの場合139万円)が引き上げられる予定はありません。
ただし、健康保険料の基準額も見直される可能性は常に存在するため、今後の動向については継続的に情報を確認することが重要です。

算定基礎届や月額変更届など、労務手続きで注意すべき点はありますか?

上限引き上げが適用される2027年9月以降は、算定基礎届や月額変更届の際に新しい上限等級を基に手続きを行う必要があります。
特に、7月に提出する算定基礎届では、9月からの新しい保険料額を正確に反映させなければなりません。
給与計算システムが新しい等級に速やかに対応できるか、事前に確認しておくことが重要です。

社会保険料の上限引き上げの対応にお困りの際は社労士へご相談ください

社会保険料の上限引き上げは、企業の人件費増大に直結する重大な経営リスクです。
当法人では、法改正に伴う負担増の試算から報酬体系の再設計まで、実務経験豊富な社労士が貴社の状況に即して的確にアドバイスいたします。

事態を静観したり、場当たり的な報酬変更を行ったりすることは、従業員の離職や将来的な年金給付に関する紛争を招く恐れがあります。
コスト増を最小限に抑えつつ、企業の健全な運営を維持するためにも、専門家の視点を取り入れることが重要です。

問題解決の第一歩として、まずは無料相談フォームよりお気軽にお問い合わせください。
貴社のリスクを最小限に抑え、安心できる経営環境づくりを誠心誠意サポートいたします。

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まとめ

社会保険料には、健康保険と厚生年金保険を中心に上限額が設定されており、従業員の報酬が一定額を超えると保険料の負担は頭打ちになります。
現在の厚生年金保険料の標準報酬月額の上限は65万円ですが、2025年の法改正により2027年9月から段階的に75万円まで引き上げられることが決定しました。
この変更は、高所得の従業員を抱える企業の保険料負担増に直結するため、経営者や労務担当者は、影響額を試算し、役員報酬の見直しや福利厚生制度の活用といった対策を早期に検討する必要があります。


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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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