このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第155回の配信をもとに書かれた記事です。
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育休から復帰した時短社員から「休んでいたときより手取りが減るのはおかしくないですか?」という疑問が会社に寄せられることがあります。
こうした声を、労務相談の現場で耳にします。育児休業中は雇用保険から給付金を受け取れるのに、いざ職場に戻って時短勤務を始めた途端、国からのサポートがなくなってしまう。頑張って働いているのに、手取りが減ってしまうという矛盾は、これまで制度的な空白として残されてきました。
その不公平感を解消するために2025年4月から新たに始まったのが「育児時短就業給付金」です。時短勤務中の従業員を経済面から支える制度として、企業の労務担当者や経営者にとって、把握しておくべき重要な改正です。本記事では、制度の背景から支給要件、実務上の注意点まで整理します。
育児時短就業給付金が生まれた背景|時短復帰後の「手取り減少」問題
育児休業給付金は、休業中の収入を補うための雇用保険給付として広く知られています。しかし、育休を終えて職場復帰し、時短勤務を選択した途端にその給付は打ち切られます。
時短勤務を選べば労働時間が減るため、多くの企業では給与が比例して下がります。一方で育休中の給付はそれなりの水準が保たれているため、「職場に戻って働いている人の方が、休んでいた頃より手取りが少ない」という逆転現象が起きやすい状況がありました。
この構造的な問題に対応するために設けられたのが育児時短就業給付金です。時短勤務中の給与の一定割合を雇用保険から補填することで、育児と仕事の両立を経済面から後押しする狙いがあります。育児休業の取得促進にとどまらず、復帰後の就労継続を支える仕組みとして注目されています。
育児時短就業給付金の支給要件|対象になるのはどんなケース?
給付を受けるためには、大きく「育てている子の年齢」と「雇用保険の加入状況」という二つの条件を満たす必要があります。
まず、対象となるのは2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている方です。子どもが2歳を超えると対象外になるため、該当する従業員がいる場合は年齢の管理を丁寧に行うことが求められます。
次に、雇用保険の被保険者期間について要件があります。時短勤務を開始した日を基準に、過去一定期間の被保険者期間があることが条件です。育休明けで復帰するケースでは、この要件を満たしていることがほとんどですが、中途採用や非正規から正規への転換など、雇用形態が変わった場合には個別に確認が必要です。
また、月単位での判定も重要です。その月の初日から末日を通じて継続して雇用保険の被保険者であることが求められるため、月の途中で入退社した月は給付の対象外となります。育児休業給付金や介護休業給付金と同じ月に重複して受け取ることも認められていません。
複数の条件が絡み合う制度であるため、「うちの従業員は対象になるのか」という判断は、ケースバイケースで慎重に確認することが大切です。制度が始まったばかりであることもあり、今後も運用上のQ&Aや通達が順次公表される可能性があります。最新の公式情報を定期的に確認しながら対応を進めることをお勧めします。
支給額の計算で注意したい「時短後の賃金」が基準になるポイント
給付額のイメージとして押さえておいてほしいのは、計算の基準が「時短前の給与」ではなく「時短中の(下がった後の)給与」であるという点です。
給付割合は時短勤務中に支払われた賃金に対して一定の率が乗じられる仕組みです。時短により給与が下がった分に対して補填されるという発想が制度の根本にあるため、給与が時短前と変わらない場合は支給対象になりません。育児支援として時短中も給与を据え置く企業では、「経済的な補填の必要がない」と判断されるためです。
また、時短中の賃金と給付金の合計が時短前の賃金水準を超えないよう調整される仕組みも組み込まれています。制度の公平性を保つためのルールですが、計算がやや複雑になるため、正確な受給額の見通しを立てるには専門家への確認が有効です。
さらに、会社側の給与計算にも影響が出るケースがあります。給付金の受給状況によって、社会保険料の標準報酬月額との関係を整理する必要が生じることもあるため、給与担当者と社会保険手続きの担当者が情報を共有しながら対応することが求められます。
申請漏れを防ぐために|労務担当者がいま動くべき理由
新しい制度が始まるとき、現場で最も多いトラブルが「申請漏れ」です。担当者が制度の存在を知らないまま時間が経過し、後から従業員に指摘されて初めて気づく、というケースは決して珍しくありません。
育児に関わる給付金は、従業員の生活設計に直結するデリケートなテーマです。後から「知らなかった」という状況になれば、会社への信頼を損ねる原因になりかねません。対象になり得る従業員には、制度の概要をあらかじめ周知しておくことがトラブル防止につながります。
まず確認すべきは、自社に「2歳未満の子を養育しながら時短勤務をしている、またはこれから復帰予定の従業員」がいるかどうかです。育休復帰のタイミングで必ず制度の説明を行う運用フローを整えておくことを、実務の観点からお勧めします。
また、給付金の手続きは会社と従業員が連携して進める必要があります。ハローワークへの申請を含む一連の流れを把握し、社内の担当窓口を明確にしておくことが大切です。育休取得者が複数いる職場では、復帰スケジュールを一覧で管理し、時短開始のタイミングで自動的に確認が入るような仕組みを整えておくと、申請漏れのリスクをぐっと下げることができます。新制度への対応は、社内ルールの整備とセットで取り組むことが理想的です。
まとめ|育児時短就業給付金の対応はONE HEARTにご相談ください
育児時短就業給付金は、時短復帰後の手取り減少という構造的な問題に応える制度として、2025年4月に新設されました。給付要件の確認や賃金計算との兼ね合い、月単位での判定ルールなど、実務上の論点は細かく、個別の状況によって対応が異なります。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、育児時短就業給付金をはじめとした新制度への実務対応から、育休・時短勤務に関する社内規程の整備、従業員への制度周知のサポートまで、幅広くお手伝いしています。「自社の従業員が対象になるか確認したい」「申請の手順を一緒に整理してほしい」といったご相談は、まずは無料相談をご利用ください。貴社の状況に合わせて、具体的なサポートをご提案します。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


