コラム

【給与設計】退職金制度④選択型確定拠出年金のメリットデメリット

【給与設計】退職金制度④選択型確定拠出年金のメリットデメリット

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第56回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

はじめに:「老後2000万円問題」で注目される企業の退職金制度

「うちの会社、退職金制度がないから優秀な人材が定着しない…」 「経営者の老後保障も考えたいけど、何から始めればいいのか分からない」

こんな悩みを抱える経営者の方も多いのではないでしょうか。

近年話題となった「老後2000万円問題」を背景に、将来の資産形成への関心が高まっています。公的年金だけでは豊かな老後生活を送ることが難しい現状で、企業が従業員の将来を支える仕組みを整備することは、人材確保の観点からも重要な経営戦略となっています。

そこで注目されているのが「選択型確定拠出年金」です。従業員の自主性を尊重しながら老後資産形成を支援でき、さらに経営者自身も加入できる制度として、多くの企業で導入が進んでいます。

選択型確定拠出年金とは?従業員の選択を重視する柔軟な制度設計

基本的な仕組み

選択型確定拠出年金の最大の特徴は、従業員自身が資産形成の方法を選択できることです。

具体的には、既存の給与の一部を「生涯設計手当」や「ライフプラン手当」といった名称で振り分けます。たとえば月給30万円の従業員の場合、「基本給24万5千円」と「生涯設計手当5万5千円」という構成に変更します。この場合、支給総額は変わらないため、従業員に不利益はありません。

その上で従業員は、この手当分を:

  • これまで通り現金で受け取る
  • 全額または一部を確定拠出年金の掛金として拠出する

このいずれかを自由に選択できます。

従来の退職金制度との違い

一般的な退職金制度では企業が一方的に制度内容を決定しますが、選択型確定拠出年金は従業員の価値観やライフプランに合わせて柔軟に対応できます。現在の収入を重視したい人は現金受取を、将来の資産形成を優先したい人は拠出を選ぶなど、多様な働き方や人生設計にフィットする制度です。

企業にとってのメリット|経営者も加入可能で採用力向上にも効果

経営者自身の老後保障が可能

選択型確定拠出年金の大きな特徴として、中小企業退職金共済などとは異なり、経営者自身も加入できる点があります。

中小企業の経営者は自身の老後保障が手薄になりがちですが、この制度を活用すれば従業員と同様に将来の資産を築けます。さらに、万が一の企業倒産や経営者個人の破産時にも、年金資産は差し押さえ対象外として保護されるため、確実なセーフティネットとしても機能します。

採用競争力の強化

確定拠出年金制度の導入は、従業員の長期的な資産形成を支援する企業姿勢の表れとして、採用市場での差別化要因になります。特に将来への不安を抱える若い世代にとって、老後資産形成を支援する企業は魅力的に映ります。

財務面でのメリット

従業員が掛金として拠出した部分は給与として扱われないため、企業及び従業員ともに社会保険料が下がります。また、企業の退職給付債務を発生させない点も、財務上のメリットといえるでしょう。

導入前に知っておくべき重要なデメリット

選択型確定拠出年金には魅力的なメリットがある一方で、導入前に十分検討すべき重大なデメリットも存在します。

企業が直面する継続的な負担

年間を通じた管理業務の増加: 制度導入後、企業には継続的な管理業務が発生します。新入社員の加入手続き、掛金変更対応、従業員からの問い合わせ対応など、人事担当者の業務量は確実に増加します。

投資教育の法的義務:企業には従業員に対する継続的な「投資教育」を行う法的責任があります。年1回以上の研修実施、資料作成、個別相談対応など、専門知識を要する業務が継続的に発生します。金融知識に乏しい人事担当者にとっては大きな負担となる可能性があります。

制度理解の困難さによる社内混乱: 制度の仕組みは複雑で、従業員への説明が不十分だと「給与が減った」「騙された」といった誤解や不満を招くリスクがあります。特に導入初期は、従業員からの質問や苦情が集中する可能性があります。

従業員にとっての深刻なデメリット

60歳まで一切引き出せない資産凍結:拠出した資産は原則として60歳まで完全に引き出し不可です。子どもの教育費、住宅購入など、ライフイベントで資金需要があっても現金化できません。この流動性の完全な喪失は、従業員の家計にとって重大なリスクとなります。

将来の公的保障が確実に減少:掛金拠出により社会保険料の算定基礎額が下がるため、以下の給付が減少します:

  • 将来受け取る老齢厚生年金の減額
  • 傷病手当金の支給額減少
  • 雇用保険給付額の減少

運用損失のリスクを個人が負担:従業員が選択した運用商品で損失が発生した場合、そのリスクはすべて個人が負います。退職時に元本を下回っていても、企業に補償義務はありません。投資に不慣れな従業員にとって、これは重大な経済的リスクです。

最低賃金制約による拠出制限:給与水準が低い従業員の場合、拠出により算定上の給与が最低賃金を下回ってしまい、拠出額に制限がかかります。結果的に制度のメリットを享受できない従業員が生じる可能性があります。

制度設計上の根本的な問題

本当に退職金制度を導入したと言えるのか? 選択型確定拠出年金を導入した場合、退職金制度が「有」の会社となります。しかし、退職金一時金制度が新規導入される場合は、これまでの給与に加えて新たに退職金が設定されるケースが多いです。このようなケースと比較すると、選択型確定拠出年金の場合、スタッフにとってみれば退職金制度が導入されたという実感がわかない声も聞きます。

制度からの脱退が困難: 一度制度に加入すると、脱退が難しく、会社の状況に柔軟に対応できない場合があります。

制度導入を成功させるポイント|丁寧な説明と継続的なサポート

導入時の従業員説明

制度の仕組みは複雑で、金融知識に馴染みのない従業員には理解が困難です。導入時には:

  • 制度の目的とメリット・デメリットの明確な説明
  • 個別相談の機会提供
  • 段階的な制度理解を促すための資料作成

これらを通じて、従業員の不安を解消し、制度への理解と信頼を得ることが重要です。

継続的な投資教育の実施

年1回以上の研修会開催により:

  • 資産運用の基本的な考え方
  • 各運用商品の特徴とリスク
  • ライフステージに応じた運用戦略

これらの知識を継続的に提供し、従業員が適切な投資判断を行えるようサポートします。

まとめ|従業員満足度向上と企業価値向上の両立を実現

選択型確定拠出年金は、従業員の資産形成を強力に支援し、企業の魅力を高める効果的な制度です。経営者自身も加入できる点や、従業員の多様な価値観に対応できる柔軟性は、他の退職金制度にはない大きな特徴といえるでしょう。

ただし、制度の導入と運用には相応の労力とコスト、そして何より経営者の「やり遂げる覚悟」が求められます。従業員一人ひとりの人生設計に深く関わる制度だからこそ、導入検討時にはメリットとデメリットの両面を正しく理解し、自社にとって本当に最適な選択肢なのかを慎重に見極めることが重要です。

主なメリット

  • 経営者・役員も加入可能で老後資産を形成できる
  • 企業の採用力・定着率向上に寄与
  • 企業倒産時も個人の年金資産は保全される

主な注意点

  • 拠出した資産は原則60歳まで引き出し不可
  • 継続的な投資教育と管理業務が必要
  • 社会保険料算定基礎額の変動による影響

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、選択型確定拠出年金をはじめとする退職金制度の設計から導入、運用サポートまで、企業の状況に合わせた最適なご提案を行っています。制度導入に関するお悩みや既存制度の見直しをご検討の経営者様・労務担当者様は、ぜひ当法人の無料相談をご活用ください。専門家が貴社の課題に寄り添い、共に最適な解決策を見つけてまいります。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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