このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第127回および第128回の配信をもとに書かれた記事です。
第127回【給与計算】<前編>給与計算ミスを防ぐ6つの方法
第128回【給与計算】<後編>給与計算ミスを防ぐ6つの方法
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毎月やってくる給与計算。膨大な数字を扱い、締め切りに追われながらも、絶対にミスが許されないこの業務に、多くの労務担当者がプレッシャーを感じているのではないでしょうか。私自身、社会保険労務士として給与計算の現場に10年以上携わっていますが、どれほど慣れた処理であっても、緊張感を覚えます。
給与計算のミスは、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、未払い残業代の発生や社会保険料の徴収漏れといった経営リスクに直結します。今回は、実務経験を通じて培ってきた「給与計算ミスを防ぐための6つの実践方法」をご紹介します。
まず給与計算スケジュールを組む
給与計算ミスを防ぐには、余裕を持ったスケジュールを設定する必要があります。意外かもしれませんが、勤怠データや経費精算が揃ってから慌てて着手する、いわゆる行き当たりばったりの運用を続けている企業は少なくありません。これでは急なトラブルに対応できず、ミスが生じる温床となってしまいます。
勤怠データの締め切り、有給休暇の申請期限、経費精算の提出期限を明確に定め、一次作業者がいつまでに計算を終え、点検者がいつまでに確認を完了させるかという内部フローを明確化します。締め切りをあらかじめ設定しておくことで、計算作業に余裕が生まれ、確認作業の時間も確保できるのです。
特に注意が必要なのが銀行振込の期限です。手数料が安価な給与振込を利用する場合、多くの金融機関では支給日の3営業日前までにデータを送信する必要があります。25日が支給日なら、土日を除いた数日前には全作業を終えないと間に合いません。この期限から逆算してスケジュールを組んでおく必要があります。
また、締め日から支払日までの期間が短すぎるのも危険です。従業員数が増えると物理的に対応が難しくなるため、最低でも15日間程度の猶予を持ったスケジュールの設定をおすすめします。
属人的な例外ルールを廃止し給与体系をシンプルにする
給与計算を複雑にし、ミスを誘発する最大の要因が、属人的な例外ルール、いわゆるローカルルールの存在です。
創業メンバーだからという理由での特別手当、社長のお気に入りだからという理由での有給休暇の優遇。こうした例外は小規模な組織では珍しくありませんが、10件、20件と積み重なると管理の限界を超え、肝心な場面で計算ミスを招きます。
給与計算のミスを減らすには、賃金規程に基づいたシンプルな給与体系に整えることが不可欠です。これから制度を作る企業はもちろん、既存の制度がある企業でも、簡素化の余地がないか検討する価値があります。
ただし、手当の廃止などは労働条件の不利益変更に該当する可能性があるため、独断での実施は危険です。法的な整合性を保ちながら運用しやすいシンプルな制度に落とし込むには、社会保険労務士などの専門家と相談しながら進めることをトラブル防止の観点から推奨します。
担当者の労務知識を継続的にアップデートする
給与計算は単なる事務作業ではなく、高度な専門知識を要するプロフェッショナルな仕事です。労働基準法はもちろん、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法といった社会保険諸法令への深い理解が求められます。
さらに、所得税の計算における甲欄・乙欄の区分といった税務知識、自社の就業規則に対する詳細な理解も必要です。歩合給を採用している場合の残業代計算や、有給休暇取得時の賃金算出などは、非常に専門的な知識が必要な分野であり、正しく対応できている企業は実のところそれほど多くありません。
こうした知識が不足していると、システムの設定ミスに気づけず、法改正に伴う変更も反映し損ねてしまいます。担当者への教育を怠らず、常に最新の労務知識をアップデートできる環境を整えることが、組織としての給与計算精度を高める鍵となります。
業務フローを洗練させ転記の回数を最小限にする
実務における業務フローの最適化も、給与計算ミス防止には欠かせません。ミスが起こりやすい現場の特徴として、データの手入力、いわゆる転記の回数が多いことが挙げられます。
履歴書から従業員名簿へ、名簿から労務管理ソフトへ、さらに給与計算ソフトへ。同じ情報を何度も手打ちしていると、伝言ゲームのようにどこかで間違いが紛れ込むリスクが高まります。
理想は、データがシームレスに連動する仕組みです。SmartHRのような労務管理システムをマスターデータとし、API連携で給与計算ソフトに直接流し込むフローを構築すれば、転記によるミスは劇的に減少します。
生年月日の入力ミス一つで、40歳から徴収が始まる介護保険料の処理が漏れる事態も起こり得ます。ダブルチェックやチェックリストの活用も大切ですが、それ以前にミスが起こらない仕組みを業務フローに組み込むことが大切です。
他部署や従業員の協力を仰ぎ組織全体で取り組む
給与計算は労務担当者だけで完結するものではありません。正確な計算には、現場からの正確なデータの提供が不可欠です。
従業員が期限までに必要な情報を提出しないために、勤怠の締め作業が遅れる。こうした状況では担当者は常に時間に追われ、確認作業が疎かになってしまいます。それを防ぐには、他部署や従業員に対し、なぜ正確な給与計算が必要なのかという意識付けを行う必要があります。
勤怠情報をスケジュールどおりに提供しないと自分の給与が正しく支払われないこと、IPOを目指す企業であれば計算の不備が審査に大きく影響することなど、具体的な影響を共有することが効果的です。こうした重要性を組織全体で理解し協力体制を敷くことで、データの精度と提出にかかるスピードが向上します。
組織全体で給与計算の重要性を共有することが、ミス防止の強力な武器となるのです。
高機能なデジタルツールにこだわりBCP対策を講じる
最後はツールの選定です。どのような給与計算ソフトを使うかで、作業効率と正確性は大きく変わります。
操作が難解なソフトは担当者の精神力を削り、肝心な点検作業での集中力を奪います。直感的に操作でき、自動化機能が充実しているプロダクトがおすすめです。生年月日を登録しておくだけで介護保険料の徴収開始・終了を自動判定してくれる機能があれば、毎月の手動点検による漏れを防ぐことができます。
また、ツールの簡略化はBCP、すなわち事業継続計画の観点からも重要です。給与計算が特定の人にしかわからないブラックボックス状態では、その担当者が退職した際に業務が停滞し、大きなリスクとなります。誰でも触れる使い勝手の良いツールを導入しておくことで、引き継ぎや教育のコストを下げ、万が一の際にも給与支払いを継続できる体制を維持できます。
まとめ
給与計算のミスを防ぐには、スケジュール管理、制度のシンプル化、担当者の教育、業務フローの改善、組織全体での協力体制、そして適切なツール活用という多角的なアプローチが必要です。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、本記事でご紹介したような給与計算の体制構築はもちろん、複雑な賃金制度の整理や、最新のクラウドツールを活用した業務効率化の支援を得意としています。
毎月の給与計算に不安を感じている、担当者の属人化を解消したい、適切な給与体系にアップデートしたい。そんなお悩みをお持ちの経営者・人事担当者の方は、ぜひ一度お問い合わせください。急成長する貴社にふさわしい設計を共に創り上げましょう。
初回相談は無料です。当社のホームページよりお気軽にお問い合わせください。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


