このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第98回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
はじめに
「体調が悪く出社は無理なので、自宅でリモートワークをさせてください」
コロナ禍以降、このような申し出を受けた経営者や労務担当者の方は少なくないのではないでしょうか。
リモートワークが当たり前の選択肢となった今、働く場所の自由度が増した一方で、新たな悩みも生まれています。本人の意欲を尊重したいという気持ちと、体調不良で働かせることへの不安が交錯し、どう判断すべきか迷うケースが増えているのです。
今回は、体調不良時のリモートワーク申し出に対し、会社としてどのように考え、どう対応すべきかについて、安全配慮義務とのバランスを踏まえながら考えていきます。
リモートワーク時代の新たな悩み:体調不良時の勤務をどう扱うか
リモートワークの普及は、場所を選ばずに働けるという大きな利便性をもたらしました。その一方で、オフィスという共通の空間にいないからこそ、誰がどこで、どのような状態で働いているのかが見えにくいという課題も浮き彫りになっています。
特に判断が難しいのが、従業員からの「体調が悪いので出社できませんが、リモートワークに切り替えたい」という申し出です。会社側としては、本人のやる気を尊重したい反面、仕事のパフォーマンスが落ちるのではないか、あるいは本当に体調が悪いのか疑念を抱くケースもあるでしょう。
しかし、この問題の核心は単なる効率性の話ではありません。体調不良を知りながら就業させることには、会社が負うべき重大な法的責任が関わってくるのです。
会社が負う安全配慮義務のリスクを知る
会社として最も注意すべきなのは、体調不良を知りながら就業させることに伴うリスクです。会社には従業員の健康と安全を確保する安全配慮義務があります。これはオフィス勤務だけでなく、リモートワーク下であっても同じです。
もし体調が悪い従業員を無理に働かせ、その結果として病状が悪化したり、重大な健康被害が生じたりした場合、会社は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。「本人が働きたいと言ったから」という理由は、免責の理由にはなりません。
健康な状態で業務を開始した人を、健康な状態で業務を終えさせることは、経営において守るべき大原則です。リモートワークという働き方が普及した今こそ、この原則をあらためて確認する必要があります。

従業員の本音:なぜ「休みたくない」のか
一方で、従業員がなぜ休まずにリモートワークをしたいと申し出るのか、その背景にある心理にも目を向ける必要があります。特に小規模な組織では、「自分が休むと周囲に迷惑がかかる」「仕事が溜まって、復帰後がさらに大変になる」という強い責任感やプレッシャーを感じているスタッフが少なくありません。
例えば、「軽い発熱はあるけれど、自宅でメール対応をする程度ならこなせる」「電車に乗って出社するのは辛いが、自宅なら所定の時間は働ける」といったケースです。休むことで生じる精神的な負担よりも、自宅で少しでも業務を進めることで安心感を得たいというニーズは、現場に確実に存在します。
この従業員側の負担感を汲み取ることも、マネジメントにおいては重要な視点となります。
小規模組織なら柔軟な対応も選択肢の一つ
私の考えとしては、社長が全従業員の顔と名前、そして人柄を把握できているような小規模な会社であれば、体調不良時のリモートワークを認める運用はありだと思っています。信頼関係に基づいた柔軟な対応は、スタッフのエンゲージメントを高めることにも繋がるからです。
「今日は無理に出社しなくていいから、家でできる範囲で進めて、しんどくなったらすぐに横になりなさい」といった、個別の状況に応じた配慮ができるのは小規模組織の強みです。本人の体調を正確に把握し、無理をさせない範囲で業務を任せることは、現代的な働き方のデザインと言えるでしょう。
ただし、これが成り立つのは、経営者と従業員の間に十分なコミュニケーションがあり、本人の状態を正確に把握できる環境があることが前提です。

大企業におけるリスクと「ルール化」の重要性
しかし、組織が大きくなると話は変わってきます。上司と部下の距離が遠くなると、悪意はなくても「体調が悪くてもリモートでなら働けるだろう」という同調圧力が生じたり、パワーハラスメントに近い形で業務が強制されたりするリスクが高まります。
規模の大きい企業や、管理の目が行き届きにくい環境では、「体調不良時は原則として休養に専念する」という明確なルールを設ける方が賢明です。回復を遅らせることは結果として会社全体の生産性を損なうことにもなります。
また、リモートワークへの切り替えが頻発する場合、それは退職の予兆やメンタルヘルスの不調のサインである可能性も否定できません。変化にいち早く気づき、適切な産業医面談や休暇を促す体制を整えることが、企業防衛にも繋がります。

まとめ
体調不良時のリモートワークは、一概に是か非かだけで割り切れるものではありません。会社の規模、従業員との信頼関係、そして何より本人の健康状態を総合的に判断し、ケースバイケースで最適解を見出していく必要があります。
小規模な組織であれば、信頼関係に基づいた柔軟な対応が従業員の満足度向上につながることもあります。一方、組織が大きくなれば、安全配慮義務のリスクを考慮し、明確なルールを設けることが重要になってきます。
いずれの場合も忘れてはならないのは、会社には従業員の健康と安全を守る責任があるということです。リモートワークという新しい働き方が定着した今、この責任をどう果たしていくかが問われています。
私たち社会保険労務士法人ONE HEARTでは、リモートワークの運用ルール作りや、安全配慮義務を遵守した労務管理体制の構築など、貴社の実情に合わせたサポートを提供しています。今の自社のルールで本当にリスクがないのか不安だとお感じの経営者様、現場に即した就業規則に見直したいとお考えの労務担当者様は、ぜひ一度当社のホームページからお問い合わせください。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


