このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第174回の配信をもとに書かれた記事です。
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「うちの社員に、まさか訴えられるとは思っていませんでした」
そう打ち明ける経営者の方に、これまで幾度となく出会ってきました。しかし社労士として12年以上、多くの会社の労務に向き合ってきた立場から見ると、労使紛争はほとんどの場合、偶然に起こるものではありません。
未払い残業の請求、ハラスメントをめぐる争い、懲戒処分の有効性を問う訴訟。問題の性質はさまざまでも、紛争に至る会社には一定の共通点があります。その構造を理解することが、労務トラブルを未然に防ぐための出発点となります。
労使紛争は「長期にわたる不満の蓄積」から生まれる
労働者が弁護士に相談し、内容証明を送り、場合によっては訴訟という手段を選ぶ。それは決して軽い決断ではありません。時間も費用も、そして相当な精神的エネルギーも伴います。それでもその一歩を踏み出すということは、もはや看過できないほどの怒りや不満が蓄積されているということです。
経営者の側からすれば「突然、争いを仕掛けられた」と感じることもあるかもしれません。しかし労働者の視点に立てば、長い我慢の末にやむを得ず選んだ行動であることが多いのです。労使紛争が起きているということは、それだけの原因が存在するということ。裏を返せば、その原因を把握し、改善できれば、紛争のリスクは着実に低減できます。労務トラブルへの備えは、起きてから対処するのではなく、起きない環境をつくることから始まります。そしてその環境は、制度の整備以上に、経営者の日々の姿勢によってつくられるものです。
労使紛争に発展しやすい会社に共通する3つの特徴
長年の経験をもとに整理すると、労使紛争を引き起こしやすい会社には、次の3つの特徴が一貫して見られます。
特徴1:経営者自身の姿勢にだらしなさがある
これは率直な表現ですが、実態として多くみてきたパターンです。社労士から書類の提出を求めても何日も応答がない、期日を設定しても資料が届かない。そうした対応が常態化している会社は、労務トラブルに発展しやすい傾向があります。
契約形態を問わず、人に仕事を依頼する立場であれば、期日を守り、必要な対応を誠実に行うことは経営者としての基本です。それが社外の専門家に対してできていないということは、社員に対しても同様の姿勢で接している可能性が高い。小さなだらしなさが積み重なることで、「この経営者のもとでは働けない」という感情が育ち、些細な出来事が紛争の引き金になることがあります。
特徴2:従業員への関心が薄い
就業規則や雇用契約書が整備されていない会社は、労務リスクが格段に高まります。これらは単なる書式ではなく、会社と社員のあいだで交わす「約束の言語化」です。入社時に期待する成果を明示し、会社のルールを丁寧に共有し、互いの役割を明確にしておくことが、健全な雇用関係の土台となります。
それを後回しにするということは、社員のことを真剣に考えていない姿勢の表れでもあります。定期的な面談がなく、経営者の意図が社員に届いていない。そういった会社では、従業員が疎外感や不満を抱えやすく、それが静かに積み重なって紛争の温床となります。労使紛争に発展するほどの怒りは、一日にして生まれるものではありません。関心の薄さが日々の積み重ねとなり、いつしか取り返しのつかない溝をつくるのです。
特徴3:経営者としての当事者意識が欠けている
「うちのスタッフは使えない」と口にする経営者がいます。明らかに問題のある行動があれば話は別ですが、そうでもないのに社員への不満を陰で言い続けているとしたら、立ち止まって考える必要があります。
その社員を採用したのは、ほかでもなく経営者自身です。期待成果も明示せず、育成の仕組みも整えず、それでいて成果が上がらないことに不満を抱くのは、経営者としての責任を十分に果たしているとは言えません。会社の現状は、経営者の姿勢を映す鏡です。組織に問題を感じるとき、原因を外に求めるより、まず自らの行動と判断を振り返ること。その姿勢の有無が、長期的な組織の健全性を大きく左右します。当事者意識を持ち続けることは、経営者に課せられた最も根本的な責任の一つです。
労働基準法の遵守は「経営参加の最低条件」である
「労働基準法を守っていたら会社経営ができない」という声を、ときに耳にします。しかし、その考え方は根本から見直す必要があります。
労働基準法は、働く人の最低限の権利を守るための基準であり、その遵守はビジネスを営む上での前提条件です。残業代や社会保険料を適切に負担した上で事業が成立するかどうかは、経営計画や収支計画の段階で見極めるべきことです。適切な人件費を試算しないまま事業を始め、後になって「払えない」と言うのであれば、問題は計画の段階にあったということです。法令を守ることはコストではなく、会社の信頼と持続性を支える経営の基盤です。優れた経営者ほど、こうした人件費の設計を事業計画の中核に据えています。労務管理の精度が、そのまま会社の土台の強さに直結するからです。
まとめ
労使紛争に巻き込まれる会社に共通するのは、経営者自身のだらしなさ、従業員への無関心、そして当事者意識の欠如という3つの特徴です。これらは一朝一夕に生じるものではなく、日々の経営姿勢の積み重ねが形となって現れます。思い当たる部分があるとすれば、就業規則や雇用契約書の整備、社員との定期的な対話の場をつくることから、着実に見直していくことが労務リスクの低減につながります。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、労務トラブルの予防から、万一紛争が生じた際の対応方針の整理まで、幅広くご支援しています。「自社の労務管理に不安がある」「何から着手すればよいかわからない」という段階からでも、ご相談いただけます。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にホームページからご連絡ください。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


