このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第94回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
はじめに
「うちの会社、休憩時間の運用がこれでいいのか不安で……」
労務担当者の方から、こんな相談をよく受けます。休憩時間は一見シンプルなルールに思えますが、実際には奥が深く、知らず知らずのうちに違法状態になっているケースが少なくありません。特に成長企業では、創業期の運用をそのまま続けた結果、気づけば大きなリスクを抱えていたということもあります。
今回は、休憩時間にまつわる「闇」と呼べる部分に焦点を当て、企業が陥りやすい落とし穴と、そのリスクについてお話しします。
休憩時間の基本ルールと「少なくとも」の意味
休憩時間は、労働基準法によって明確に定められています。労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければなりません。
ここで注目していただきたいのが、「少なくとも」という表現です。多くの会社では8時間労働に対して1時間の休憩を与えていますが、残業が想定されない職場では8時間労働でも45分しか休憩を設定していないケースも存在します。法律上は問題ありませんが、この「最低ライン」の運用が後々トラブルの火種になることもあります。
また、休憩は労働時間の途中に与える必要があります。私自身、アルバイト時代に「休憩はいらないから、その分働いて給料が欲しい」とか「シフトを短縮して、ぶっ通しで働いて早く帰りたい」と相談したことがありますが、これは認められませんでした。9時間働いた後の最後の1時間を休憩にする、といった実質的な早退のような運用は、法律上認められていないのです。

自由利用の原則に反する休憩は労働時間とみなされる
休憩時間には「自由利用の原則」という重要なルールがあります。これは、休憩時間中に労働者が自由に時間を使えるという原則です。この原則に反している場合、会社が「休憩時間」として扱っていても、法的には休憩とは認められません。
例えば、こんな状況を想像してください。会社が「11時から13時まで休憩にしてください」と指示しているものの、会社の外に出る自由がない。いつ電話が鳴るか分からず、電話が鳴ったら対応しなければならない。来客があれば応対しなければならない。
このような状況では、労働者はいつ業務が発生するか分からないため、常に待機している状態と変わりません。これは、飲食店でレジに立って、いつお客様が来るか分からない状態と同じです。法律上、休憩時間としては認められない可能性が高いでしょう。
特に注意が必要なのは、電話番や来客対応を命じている時間です。このような時間は、実際には休憩として扱われず、後から「その時間も労働時間なので賃金を支払ってください」と言われた場合、会社側が反論することは極めて難しくなります。休憩時間は、従業員が自由に使えるような状態で与える必要があるのです。

休憩の一斉付与の原則と労使協定の整備
休憩時間の運用でもう一つ重要なのが、「一斉付与の原則」です。実は、労働基準法上、休憩時間は原則として全員で一斉に取らなければならないというルールが存在します。
都心部のオフィスなどでは、昼前後に「いつでも好きな時にランチに行っていいよ」という形で、社員がバラバラに休憩を取っている会社が多いのではないでしょうか。しかし、これは原則論に当てはめると違法な状態になってしまう可能性があります。業種や職種によって例外はありますが、あくまで原則は一斉付与なのです。
では、バラバラに休憩を取る会社はすべて違法かというと、そうではありません。この原則を回避するためには、労使協定や就業規則を適切に整備することで、みんなで一緒に休憩を取らなくても良いという状態を合法的に作ることができます。
もし、こうした整備をせずに社員がバラバラに休憩を取っている会社があれば、早めの見直しをお勧めします。特に新規株式公開準備中の企業などでは、労働基準監督署の指導対象となり、上場スケジュールに悪影響を及ぼす可能性もあります。

管理職の意識が部下の休憩取得を左右する
休憩の取得には、職場の人間関係、特に上司と部下の関係性も深く関わってきます。部下の立場からすると、「上司が休憩に行かないと、自分も休憩に行きづらい」という心理が働くことは、よくある話です。12時になったからといって、上司より先に休憩を取りに行くことに抵抗を感じる部下もいるでしょう。
管理職として、スタッフにしっかりと休憩を取らせたいと考えるのであれば、まずは管理職自身が率先して休憩を取ることが大切です。上司が先に休憩を取りに行くことで、その後に部下が気兼ねなく休憩に入りやすくなります。
このように、従業員がちゃんと休憩を取れるような環境を整えておかないと、先述した「電話番をさせている」といった論外なケースだけでなく、より見えにくい問題が生じます。例えば、1日1時間の休憩が与えられていても、実際には業務対応などで30分程度しか休憩が取れていなかったというケースは頻繁に起こり得るのです。
休憩時間の未取得がもたらす未払い賃金リスク
休憩が適切に取得できていないという時点で法律違反の論点がありますが、さらに深刻なのが「未払い賃金」の問題です。
勤怠記録上は「1時間休憩を取った」となっていても、実際には30分しか休憩できていなかったとしましょう。この差分の30分は、本来であれば労働時間として賃金が支払われるべきです。これが「賃金の未払い」と判定されてしまうのです。
仮に、1日30分程度の未払い賃金であれば、1人あたりの金額は大きくならないかもしれません。しかし、これがスタッフ100人いて、時効期間である3年分となると、その金額は数百万円といった大きな問題に発展しかねません。
休憩は、管理者や会社からすると「そこまで重要ではない」と思われがちな部分かもしれませんが、ずさんな運用をしていると、後で取り返しのつかない大きな経済的リスクや信頼の失墜につながります。休憩時間の適切な運用は、従業員の健康を守るだけでなく、会社を守るためにも極めて重要なのです。

まとめ:休憩時間の適正な運用で会社のリスクを最小化
今回は、休憩時間にまつわる「自由利用の原則」や「一斉付与の原則」、そして不適切な運用がもたらす未払い賃金リスクについてお話ししました。
休憩は労働基準法で定められた従業員の権利であり、会社が「与えれば良い」というものではありません。従業員が心身を休め、次の労働に備えるという本来の目的を果たせるよう、自由に時間を使える状態を確保することが求められます。特に、電話番や来客対応といった「待機時間」は、休憩とは認められないリスクが極めて高いことをご理解いただけたかと思います。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、本コラムで挙げたような、御社の労働時間や休憩時間の運用に潜むリスクを洗い出し、合法かつ従業員にとって働きやすい労務設計を提供しています。休憩の一斉付与の原則を回避するための労使協定の整備や、管理職の皆様の意識改革サポートなど、具体的な対策でお悩みでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
ONE HEARTに労務のご相談をしたい方、ONE HEARTでのお仕事に興味がある方、吉田とお話ししてみたい方など、ホームページの問い合わせフォームやtwitterのDMからお気軽にご連絡いただけると幸いです!
オンラインで完結

個別無料相談を
ご利用ください
執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


