コラム

【労使協定】その従業員代表選出方法、本当に有効ですか?

【労使協定】その従業員代表選出方法、本当に有効ですか?

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第77回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

「形だけ」の選出が招く、予想外のリスク

「毎年やっている恒例行事だから、今年も適当に誰か選んでおいて」

総務担当者のAさんは、上司からそう言われて従業員代表の選出手続きを進めました。特に深く考えることもなく、前年と同じように「この方にお願いします」と社長が指名した社員に書類へのサインをもらい、労働基準監督署への届出も完了。

ところが半年後、退職した元社員から「未払い残業代がある」という内容証明郵便が届きます。弁護士の名前で送られてきたその書面には、「貴社の労使協定(例:1年単位の変形労働時間制の労使協定)は無効である」という指摘が含まれていました。

なぜこんなことになったのでしょうか。

実は、従業員代表の選出手続きに不備があると、労使協定そのものが無効になってしまうことがあります。そして協定が無効になれば、変形労働時間制を導入している場合、変則的な残業時間の測定方法の法的根拠が失われ、過去に遡って未払い賃金が発生する可能性があるのです。

今回は、多くの企業が「形式的なもの」として軽視しがちな従業員代表の選出について、そのリスクと正しい対応方法を解説します。

なぜ従業員代表の選出が重要なのか

従業員代表を選出する主な目的は、会社と労働者の間で労使協定を締結することです。その代表例が、時間外労働や休日労働を可能にする「36協定」です。

多くの方がご存じの通り、労働基準法では1日8時間、週40時間を超える労働は原則として認められていません。この法定労働時間を超えて従業員に働いてもらうためには、労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出る手続きが求められます。

つまり、36協定がなければ、会社は従業員に1分たりとも残業を命じることができないのです。

では、この協定を締結するために選ばれた従業員代表の選出手続きに不備があったら、どうなるでしょうか。協定自体が法的な効力を失い、残業させる根拠がなくなってしまいます。

これは単なる「書類の不備」ではありません。会社の事業運営そのものを揺るがすリスクなのです。

多くの会社が陥る3つの落とし穴

従業員代表を選出する際、多くの企業が気づかないうちに手続き上の誤りを犯しています。特に注意すべき3つのポイントを見ていきましょう。

1. 会社側が候補者を指名してしまう

「この人なら信頼できるから」と、社長や人事担当者が特定の従業員を指名して代表にしてしまうケースは非常に多く見られます。あるいは、「Bさんでいいですか?」と会社側が候補者を提示し、他の従業員に承認を求める形式も同様です。

しかし、これは明確なルール違反です。

従業員代表は、会社側の意向や介入なしに、労働者自身が民主的な手続き(投票や話し合いなど)で選ぶことが法律で求められています。経営者が推薦した候補者は、どれほど適任であったとしても、正当な代表とは認められません。

会社の役割は、公正な選出ができる環境を整えることであって、選出そのものに関与してはいけないのです。

2. 選出の目的を明確に伝えていない

「そろそろ従業員代表を選ぶ時期になりました」といった曖昧な告知だけで選出を進めてしまうケースも問題です。

従業員代表は、どの労使協定に署名する権限を持つのか、その目的を明確にした上で選ばれる必要があります。たとえば、36協定のためなのか、変形労働時間制の協定のためなのか、複数の協定を締結する予定があるなら、それらすべてを具体的に示さなければなりません。

投票する労働者には、代表者が署名する内容(つまり自分たちの労働条件に関わる事項)を把握している必要があります。目的が不明確なまま選出された代表者が締結した協定は、後から「正しい手順を経ていない」と判断されるリスクがあるのです。

3. 管理監督者を代表者にしてしまう

「部長だから責任感があるし、代表にふさわしい」と考えて、管理職を従業員代表に選んでしまうケースがあります。しかし、これも誤りです。

経営者と一体的な立場にある管理監督者は、労使協定を締結する従業員代表にはなれません。なぜなら、管理監督者は会社側の立場にあるため、労働者全体の利益を公正に代表することができないからです。

ただし、ここで注意が必要なのは、管理監督者の判断基準です。単に「部長」や「課長」という役職名だけで判断されるわけではなく、実際の職務内容、権限、待遇などを総合的に見て判断します。

意外と知られていない「過半数」の計算方法

従業員代表を選ぶ際、もう一つ重要なポイントがあります。それは「過半数」の計算方法です。

従業員代表は、事業場の労働者の過半数を代表する者でなければなりません。ここで多くの企業が誤解しているのが、管理監督者の扱いです。

管理監督者は代表者にはなれませんが、選挙の母数(分母)からは除外されません。つまり、過半数を計算する際には、管理監督者も含めた全従業員を基準にする必要があるのです。

たとえば、総従業員数が9名で、そのうち2名が管理監督者だったとします。この場合、管理監督者ではない7名だけを分母として考え、その過半数である4票で代表者を決めてしまうと、これは不適切です。正しくは、全従業員9名を基準とし、その過半数(5票以上)が必要になります。

このような計算ミスにより、代表権を持たない者が協定に署名した場合、労使協定は無効となってしまいます。

協定が無効になると何が起こるのか

では、従業員代表の選出に不備があり、労使協定が無効と判断された場合、具体的にどのようなリスクが生じるのでしょうか。

複雑な労働時間制度が機能しなくなる

特に大きな影響を受けるのが、変形労働時間制やフレックスタイム制といった、柔軟な労働時間制度を導入している企業です。

これらの制度は、労使協定の締結が法的な適用要件となっています。協定が無効になれば、制度そのものが遡って適用できなくなる可能性があるのです。

たとえば、1年単位の変形労働時間制を導入していた企業が、繁忙期に週48時間の勤務をさせていたとします。協定が無効化されると、法定労働時間である週40時間を超えた部分(この例では8時間分)が、すべて時間外労働として扱われることになります。

過去に遡った未払い賃金が発生する

制度の適用を前提に賃金を支払っていた場合、適切な割増賃金が支払われていなかったことになり、過去に遡って未払い賃金が発生します。

現在、賃金請求権の消滅時効は3年間です。つまり、過去3年分の未払い賃金債務が一気に顕在化する可能性があるのです。従業員数や勤務状況によっては、その金額は企業にとって大きな負担となるでしょう。

労働組合や労働者側の弁護士は、労働紛争が発生した際に、まず労使協定の有効性を確認してきます。多くの企業がこの基礎的な手続きを軽視していることを知っているからです。

従業員代表の選出という「形式的な手続き」の不備が、財務的なリスクに直結する構造を理解しておく必要があります。

リスクを避けるために今すぐできる4つの対策

それでは、どのようにすれば適切な従業員代表選出を実現できるのでしょうか。具体的なチェックポイントをご紹介します。

  1. 選出目的を文書化して周知する

代表者がどの労使協定に署名する権限を持つのかを明記した文書を作成し、全従業員に事前に周知します。複数の協定を締結する予定がある場合は、それらすべてを具体的に列挙しましょう。この周知記録は必ず保管しておくことが重要です。

  1. 会社側の介入を排除する

候補者の選出に、経営者や管理監督者が一切関与しないルールを明確にします。労働者が主体的に選出を行える環境を提供することが求められます。

  1. 過半数の計算を厳密に行う

管理監督者を含めた全従業員を分母とし、得票数がその過半数を超えていることを確認します。選出方法(投票、挙手など)、結果、得票数を詳細に記録し、民主的な選出が行われた証明として保管しましょう。

  1. 専門家による定期的な点検を受ける

特に変形労働時間制やフレックスタイム制などの複雑な制度を運用している場合は、定期的に社会保険労務士による監査を受けることをお勧めします。協定の基礎となる代表者選出が法的に適正であることを確認することで、将来のリスクを大幅に軽減できます。

まとめ:「形だけ」が命取りになる前に

従業員代表の選出は、多くの企業で「毎年の恒例行事」として扱われがちですが、その手続きの正確性が、企業の労務管理全体の法的基盤を支えています。

選出手続きの不備は、残業管理や労働時間制度を根底から揺るがし、巨額の未払い賃金リスクを招く可能性があります。「これまで問題なかったから大丈夫」という考え方は、労働紛争が顕在化した瞬間に通用しなくなるのです。

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、労使協定の適正な締結手続きから、複雑な労働時間制度の設計・運用まで、企業の労務管理を総合的にサポートしています。

「うちの従業員代表選出、本当に大丈夫だろうか」と少しでも不安を感じられた方は、ぜひ一度無料相談をご利用ください。現状の手続きを専門家の視点で確認し、将来のリスクを回避するための具体的なアドバイスをご提供いたします。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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