このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第3回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
会社設立後、初めて従業員を雇うことになったとき一番悩むのが給与設計ではないでしょうか?他の会社ではどのように設計しているのか、気になる部分もあると思います。
今回は「想定年収の設計」について解説していきます。
キケン!想定年収を12で割った月給設定は後で困る可能性があります。
皆さんは月給設定を行うとき、安易に想定年収を12で割った金額で設定していませんか?実はこれ、2つの理由によって後々困ったことになる可能性があります。
理由1:経営者が一方的に月次給与を下げることはできない。
理由2:経営が苦しいとき、高額な月次給与は資金繰りリスクを高める。
原則として、経営者が一方的に月次給与を下げることはできません。法律で禁止されているためです。なんらかの理由で月次給与を下げたい場合、スタッフの同意を得る必要があります。またたとえ同意を得たとしても、スタッフは給与の減額に対して悪い印象を持つでしょう。
また、給与は毎月支払う必要があります。会社の経営が苦しい時でも、それは同じです。高額な月次給与は資金繰りに影響を与え、経営のリスクを高めます。
給与設計には「賞与」を活用せよ!
想定年収を12で割った金額を月次給与にするリスクを説明しました。ではどのように設計するべきか。それは「賞与」を使って、想定年収を設計することです。
経営者が一方的に月次給与を変更できません。しかし、一般的な就業規則の記載内容であれば、賞与は従業員の評価や会社の業績を踏まえて、経営者が比較的自由にアップダウンさせることができます。業績が良ければ賞与をアップし、業績が悪ければダウンさせることもできます。賞与の金額をコントロールすることで、会社経営の安定につながります。
▼就業規則の賞与記載例
※出典:厚生労働省配布『【全体版】モデル就業規則(令和3年4月)』
想定年収が同じでも、賞与比率が違うと経営の自由度が異なる!
同じ想定年収でも、賞与比率が違うと経営の自由度が異なります。
例を挙げましょう。
年収500万円の求人を出すとします。
まず、賞与の比率を0%とするケースを考えます。具体的には、500万円÷12≒41.6万円を月次給与とするケースです。この場合、経営者は基本的に想定年収の500万円を毎年支払う必要があります。
次に、賞与比率を30%程度に設定したケースを考えます。例えば、月次給与を30万円に、賞与原資として140万円とするケースです。この場合でも想定年収の500万円を毎年支払うことが前提となりますが、一般的な就業規則(給与規程)の記載内容であれば、会社の業績や本人の成果に応じて増減させることができ、経営の自由度を確保することができます。
賞与の金額を自由に設定できることは、会社の業績や本人の成果に応じて、スタッフに会社の利益を還元できるため、公平公正な処遇が可能です。
万が一、経営状態が悪化した場合、賞与金額を調整することで、会社経営に対する影響を減らすことができます。
想定年収を提示することで優秀人材を獲得!
想定年収を提示することは、求人応募者にとって入社を前向きに考える大きな判断材料となります。
スタートアップなど創業初期の企業に入社を検討している場合、採用を考えている本人の不安に加え、家族の反対など思わぬハードルも存在します。転職後の生活水準をイメージできないと家族から「今の会社を続けた方がいいんじゃない?」と言われてしまう可能性があります。
賞与を組み込んだ想定年収を提示することで、生活水準を想像しやすくなります。そうなると、家族など周囲の人からの理解を得やすくなり、入社を後押ししやすい環境ができます。結果として優秀な人材が入社する可能性が高まり、会社を成長させることに繋がります。
一般的な賞与の金額設定は給与の1ヶ月から3ヶ月分
従業員の年齢や職種、会社にもよりますが、賞与の設定金額は一般的に給与の1〜3ヶ月分が目安になるでしょう。
賞与比率について注意点があります。それは賞与比率を極端に高くしてしまうことです。そうなると、従業員の不安が大きくなり、かえって優秀な人材を集めることが難しくなります。
一部の営業職など成果が給与に強く連動することがモチベーションに繋がるケースを除き、賞与比率を極端に高めることはおすすめできません。自社の実態や業界慣例、採用のハードルなどを考慮し、総合的に判断しましょう。
まとめ
労働基準法では賞与の支払いは義務化されていません。なので賞与なしの企業も珍しくありません。しかし、賞与を想定年収に組み込むことで、入社後の生活水準をイメージしやすくなり、従業員の安心やモチベーションアップ、優秀な人材確保につながります。
ぜひ、給与設計の際には賞与の活用をご検討ください。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。