このコラムは、Podcastラジオ “社労士 吉田優一の「給与設計相談室」” 第28回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
今回のテーマはPodcastのリスナーさんからの質問です。
「リモートワークの光熱費は手当として払った方がいいという放送回を聞いたことがあります。他に手当として便利なものはありますか。」
便利な手当というと難しいですが、そもそもどのように手当を支給するのが良いか、手当を設計する際の私の考え方を皆さんにお伝えさせていただきます!
手当の目的
まず初めに皆さんにお伝えしたいことは、「手当を支払う目的は、しっかり決めておくべき」ということです。目的がはっきりしていない手当は、不満のもとになってしまうからです。
例えば、営業手当で考えてみましょう。ある会社には営業の方と事務の方がいらっしゃり、営業の方には営業手当が支給されています。営業手当は暑かったり寒かったりと、大変な思いをして外で働く営業の方に対して支払われるものです。この話だけを聞くと、何の問題もありませんね。
しかし、実はその会社では、そもそも営業の方と事務の方で基本給が異なっており、支給額に差があります。この場合、すでに基本給に職務内容の差が反映されているにもかかわらず、営業手当をさらに支給しているため、事務の方から不平等だという声が上がってきてしまいます。
このように、支払う目的が基本給の設計と被っていたり、何に対して支払っているのかわからないものがあったりすると支払いを受けていない方が不満を持ってしまいます。
手当構成は少ない方がおすすめ
手当を設計する際は、種類を極力減らしておくことも重要です。
なぜなら、手当の内容を聞かれたら説明をする法的な義務が発生する場面があるからです。手当があればあるほどそれに対する説明を行わなくてはなります。そのため、役職手当、通勤手当など本当に必要な手当のみに絞り、その他は人事評価制度など基本給でコントロールすることを推奨しています。
同一労働同一賃金
先程、手当の内容を聞かれたら説明をする義務がある、とお伝えしましたが、その背景には同一労働同一賃金の考え方があります。同一労働同一賃金とは、同じ企業で働いている正社員とパートタイム労働者、派遣労働者との間の不合理な待遇差の解消を目指すもので、同じ仕事の内容であれば雇用形態に関わらず、同じ給与を支払わなくてはならないというものです。もしくはバランスのとれた待遇を用意しなければならないです。
こちらは、パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日より全面施行)、労働者派遣法(2020年4月1より施行)によって規定されております。
この考え方は手当に関しても同様で、例えば、皆勤手当を支給する場合、正社員に支給する場合、その他スタッフも含めて全スタッフに支給する必要があります。皆勤手当とは、多くの場合、1か月間遅刻、欠勤、早退が無ければ、一律で〇〇円支給するという設計になっています。すべて出勤したことに対して支払われる手当のため、正社員と契約社員によって支払うか、支払わないかを決定していると不平等になってしまいます。
法令が施行される以前は、正社員にだけ支払うことも可能でした。しかし、現在は裁判の判例でも出ているように、手当を支給する対象者を雇用形態の違いによって変えることに一定の制限があります。
目的が決まっていると不平等感を無くすことができる
手当の目的が決まっていると不平等感を無くすこともできます。大変な仕事を行っている方に対して専用の手当をつけると、給与金額に反映されるため、その方のモチベーションを上げることができます。
例えば、病院において排泄物を取り扱う仕事の手当で、1件〇〇円という金額を設定したとします。その仕事にかかわる方全員に一律の手当を付けるのではなく、件数に応じて手当を支給しているため、大変な仕事を避ける方には還元されず、きちんと仕事を行ってくれる方の給与に反映させることができます。
絶対に払ってはいけない手当
一方で、絶対払ってはいけない手当があります。それは、「その他手当」です。社長に確認しても何に対して支払っているかよくわからない、その会社独自ルールのような手当は従業員の不満の対象になってしまうので、やめた方がよいと考えます。どういったことに対して支払っているかある程度内容が整理されているものでも、他の方がやりたがらない仕事を行っていたり、その方の頑張りを認めてあげたりするものであれば、職責手当など、きちんと手当の名前を付けて何に対して支払っているか明確にしましょう。
まとめ
- 手当の目的を明確にし不満の原因を避ける
- 手当の種類を必要最低限にして説明義務の負担を減らす
- 同一労働同一賃金の原則に基づき全従業員に公平な待遇を保証する
今回は手当の目的の明確化についてお話しさせていただきました。目的に沿った手当を設計し、支給していれば従業員間の不満を解消することができます。社内に独自のルールがある場合は手当が多くなる傾向にあるので、一度整理することもおすすめです。極力シンプルな手当構成にして、支払われるべき方に手当が渡るように設計していきましょう。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。