このコラムは、Podcastラジオ “社労士 吉田優一の「給与設計相談室」” 第29回の配信をもとに書かれた記事です。
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初めて就業規則を作成する時、何を記載すれば良いのか、わからない方も多いと思います。インターネット上にあるサンプルや他社の就業規則をコピーして使用したら何か問題があるのでしょうか?今回は就業規則の重要性と、コピペで作成した就業規則によって、実際に起こってしまったトラブルを紹介します!
就業規則とは
就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関することや、職場内の規律などについて定めた文書です。雇用契約の一部でもあり、記載されている内容に基づいて裁判を起こすことができるくらい重要なものでもあります。
しかし、自分の勤めている会社の就業規則をきちんと確認したことがない人もいるのではないでしょうか。自分にどのような権利があるのか、どのようなことをしたら処分の対象になるかという罰則規定などが記載されているため、従業員の立場であれば、確認しておく必要があります。
経営者にとっても就業規則は大切です。問題を起こしてしまうトラブル社員がいた際に、就業規則にきちんと解雇事由を記載していないと、それに則って退職させることができません。また懲戒事由を記載していないと、明確な理由によって懲戒処分することができず、トラブル従業員に対して反省を促す機会を与えることができません。トラブル防止や再発を回避するという意味でも、就業規則の整備は必要ですね。
見直しの頻度
就業規則を初めて作成する際は、内容を念入りに確認して作成されることが多いと思います。では、見直しをする頻度はどのくらいが適切でしょうか。一般的には、法改正ごとにその都度行うことが望ましいとされます。年に1、2回見直しを行うイメージですね。大企業や上場企業は、法改正のたびに最新の就業規則にアップデートをしています。
就業規則はアップデートをしないと、法律に違反している可能性があります。例えば、介護休暇の記載がない就業規則を使用している場合です。従業員から休暇の申請があったにも関わらず、就業規則に記載がないからと主張をはねのけてしまったとします。そうすると、法律で決まっている休暇も取ることができない会社と認識されてしまい、従業員との間にマイナスの影響が出てきてしまいます。中小企業で年に1回見直すことは難しいですが、このようなことが起こらないためにも、少なくとも2、3年に1度は見直しすることをおすすめします。
法改正以外にも、内的な理由で就業規則を変更することがあります。例えば、正社員しかいなかった会社でアルバイトを雇用した場合です。正社員と異なる条件で労働する場合は、アルバイトの方に向けた就業規則を作成する必要があります。いずれの理由にせよ、定期的なアップデートは必要になってきますね。
就業規則の作成はコピペでも問題ない?
就業規則を作成する際、インターネットで記載例を検索すると、サンプルが出てくると思います。そこで出てきたサンプルは、そのまま使用しても良いのでしょうか。
結論から言うと、お勧めしません。他社の就業規則をコピーして使用していたところ、トラブルが起こってしまった事例をいくつも見たことがあるためです。そのトラブルの一例を紹介いたします。
A社はB社の就業規則をコピーして使用していました。B社の就業規則には、退職金の記載がありますが、A社は退職金の支給を行わない方針です。A社はよく確認していなかったため、支給予定のない退職金について規定されている就業規則をそのまま使用してしまっていました。
そしてA社は、実際に退職者が出た際に、退職金の支給を要求されてしまいます。就業規則に記載があるため、支給するほかありません。結局、A社は退職者に対して支払う予定のなかった退職金を支払うことになってしまいました。
その退職者に関しては、退職金を支払うことで解決しましたが、現在働いている従業員への対応も必要になります。経営者は退職金がないものとして給与設計しているため、同じように退職金を請求されてしまうと、想定の人件費をオーバーしてしまいます。そのため、従業員一人一人に就業規則の記載に誤りがあった旨を説明して、全員から同意書をもらい、就業規則から退職金の記載を無くすという対応を迫られてしまいました。
B社の就業規則をそのまま使用したことによって、余計な費用と大きな手間が発生してしまった事例です。完成しているものがあるからといって、確認せずに使用するのは絶対に避けましょう。
まとめ
- 就業規則は労働条件や職場規律を定める重要な文書
- 法改正に応じた定期的な更新が必要
- サンプルや他社規則のコピーは避け、自社オリジナルで作成を
インターネット上にある就業規則に、何も手を加えないまま使用すると、経営上大きなリスクがあります。実は会社にとって不利な条文が入っていたり、法律違反の条文が入っていたりして、想定外の損害を被る可能性があります。就業規則を作成する場合は、法律に違反している記載がないか、自社の実態に合っているかを確認しながら作成し、定期的なアップデートを行いましょう。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。