コラム

ウッカリ?コッソリ?経営者が見落とす「労災」の落とし穴 

ウッカリ?コッソリ?経営者が見落とす「労災」の落とし穴 

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第7回の配信をもとに書かれた記事です。

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「労働災害」とは、業務や通勤によって起こる、労働者のケガや病気、障害、死亡のことをいいます。労災保険とは、そのような業務や通勤のケガや病気を補償する保険です。従業員を1人でも雇っている経営者は、労災保険に加入する義務があります。

今回は「労災」について、注意点も踏まえて解説していきます。

目次

従業員の不注意によって起こったものでも「労災」

「労災」でイメージしやすいのは、製造工場などで機械に巻き込まれてケガをするケースや仕事道具を誤って使用しケガをしてしまうケースではないでしょうか。

例えば、仕事で使う道具を手に持っていて、本人の不注意で落としてしまい足をケガしたとします。このように従業員の不注意が原因であっても、業務時間中にケガをした場合は「労災」になります。

従業員の中には、自分の不注意なので「上司に報告したら怒られそう、恥ずかしい」という気持ちから、ケガを隠してしまう方がいるようです。

しかし、これは会社側の報告義務違反、いわゆる「労災かくし」を誘発してしまっており、会社にとって困る行動になってしまっています。

労災によって従業員が会社を休む場合、会社は労働基準監督署へその事実を報告しなければなりません。しかし、従業員がケガを隠してしまうことによって会社がその事象を把握できなくなってしまうのです。

※ 業務時間内に起こったケガでも、労災とならないこともあります。判断に迷う場合、労働基準監督署にご相談ください。

「労災保険」と「健康保険」は自由に選べない!

本来は労災にもかかわらず、「上司に報告しづらい」などの理由で従業員が報告しなかった場合、よくある間違いとしては健康保険証を使ってケガや病気の治療を受けることです。なぜ間違いとなるかというと、法律の世界で、労災保険と健康保険で役割分担が決まっているためです。

仕事でのケガや病気は「労災保険」によって治療などが受けられます。一方、仕事以外のケガや病気は「健康保険」によって治療などが受けられます。したがって、仕事でのケガや病気は、健康保険で治療することは原則できません。(万が一、健康保険で治療してしまっても、一定の手続きによって後から労災保険に切り替えが可能です。)

本来労災として扱われるケガや病気を上司に報告せず、従業員が自分の健康保険で通院することは、極端にいうと健康保険証を不正に使用しているとも考えられます。

また別の角度から考えてみたいと思います。「労災保険」と「健康保険」を比較した場合の、単純な損得の観点です。基本的に労災保険のほうが健康保険よりも補償が手厚いので、労災保険を使った方が従業員自身にとってもメリットがあります。

小さなケガや病気であれば、労災保険を使って治療しても健康保険を使って治療しても、大きな差はないかもしれません。

しかし、最初は小さなケガや病気だと思っても、あとから悪化するケースもあります。そのような場合、労災保険の補償と健康保険の補償を比較すると大きな差になります。そのような単純な損得という観点からも、仕事でのケガや病気には労災保険を使うことをおすすめします。

労災はパートやアルバイト、契約社員、派遣社員、日雇い労働者など、雇用形態にかかわらずすべての従業員が労災保険の加入対象者です。

業務中のケガはどのような理由でも会社に報告するよう従業員に周知しましょう。

労災認定するのは労働基準監督署!

労災は、従業員が報告しなければどうしても見過ごしてしまうものです。仕事によるケガなのか、プライベートでのケガなのか判断しにくい事例もあります。

例えば腰痛。重いものを持って仕事をしていたことが原因なのか、年齢や持病によるものなのかわかりにくいケースが多いです。

このようなケースで一番避けたい対応は、会社が「今回のケースは労災ではない」などと決めつけてしまうことです。労災か否かを決める主体は、労働基準監督署となるためです。なので判断が難しい時は、管轄の労働基準監督署に相談しましょう。

労働基準監督署、いわゆる労基署について、経営者の中には「ちょっと怖いところ」というイメージを持っている方もいると思います。ですが、労働基準監督署に相談することは会社のメリットにも繋がります。


上の例であげた「腰痛」に当てはめてみましょう。

労働基準監督署に相談した結果、年齢や持病によるものと判断され労災認定されなかったとします。

その腰痛持ちの従業員さんから、やっぱり「腰痛は会社の仕事が原因だ」と会社にクレームが来ても、労働基準監督署の判断を根拠として労災ではないと説明ができるのです。労働基準監督署の判断をもって、会社の責任がすべてなくなるわけではありませんが、トラブルが大きくなる可能性が減ります。

仕事中のケガや仕事が原因であろうケガが起こった場合、まずは顧問社労士に相談することも有効です。

決してやってはいけないことは、従業員から受けたケガの報告を、会社が「労災ではない」と決めつけてしまったり、無視することです。

まとめ

今回のコラムでは「労災」について解説しました。健康保険は仕事でのケガには使えないこと、知っていましたか?

業務中のケガは、どのような理由でも必ず報告してもらいましょう。

そしてケガをしてしまった従業員やその家族のためにも、正しく「労災保険」を活用しましょう。

対処や判断に困った時は顧問社労士へ相談を!

社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。

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