このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第5回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
長い通勤時間。この時間に頼まれていた仕事をこなしてしまおうと考える従業員は少なからずいるのではないでしょうか。電車に乗っているとPCを開いて作業をしている方もちらほら見かけます。しかし経営者としては、この時間が労働時間に該当し、その分残業代を支払わなくてはならないのか?気になるところだと思います。
今回は通勤時間に従業員が自主的に労働した場合、残業代を支払う必要があるのかについて解説します。
通勤時間は労働時間ではない!
まずは「労働時間」と「通勤時間」そしてそれらに関連する「指揮命令下」という言葉の定義について説明します。
「労働時間」とは会社の「指揮命令下」に従業員が置かれている状況のことを言います。
そして「指揮命令下」とは従業員が会社の指示に従って仕事をしている状態のことです。
例えば、「9時から12時の間にこの工場でネジを作ってくださいと会社が指示をだし、それに従って従業員がネジを作るという状況」というのは、従業員は会社の指揮命令下におかれていることになり、9-12時が労働時間に該当します。
「通勤時間」とは、会社へ働きに行くための移動時間ですが、音楽を聴いたり読書をしたり、基本的に自由に過ごす時間です。始業時刻に間に合うように家を出る方もいれば、早めに出て会社の近くで朝食を食べてから出勤する方もいると思います。通勤時間中は何をするにも自由です。
以上を踏まえると、通勤時間は上司から仕事の指示があるわけではなく、自由に過ごせるので労働時間に該当しないとするのが一般的な考え方です。
通勤時間に自主的に労働するリスク
通勤時間は自由に過ごして良いと書きましたが、電車の中でPCで仕事する方を見かけます。メールの返信、書類の確認、資料作成など行っているのでしょう。こういったケースは「本人の判断で自主的に」仕事をしているので原則として労働時間には含まれません。当然残業代も発生しません。
ですが、通勤時間に作業を行うことには、2つの問題があります。
問題1:上司の指示なく、勝手に働き始めている
前回のコラムでも書きましたが、そもそも残業は従業員の判断で行うことはできません。会社のルールに則り、「会社が残業命令を出したとき」や「従業員の残業申請に対して上長が許可したとき」にはじめて残業が可能になるのです。
問題2:機密情報の漏洩の可能性
自分が乗っている電車の中に、ライバル会社の従業員がいないと断言できますか?開いている画面から、機密情報や顧客情報が盗み見られる可能性も否めません。
もし情報漏洩に発展した場合、守秘義務違反になる可能性や、懲戒処分になる可能性があります。もし情報漏洩をしてしまうと、損害賠償を求められるなど顧客とのトラブルに発展してしまう可能性があります。
このような問題を回避するために、会社(経営者)は従業員が通勤時間に仕事していることが発覚した場合、「通勤時間中に働かないように」と注意指導しなければなりません。
通勤時間が労働時間に認められる場合
「原則として通勤における自主的な仕事は労働時間に入らない」と書きましたが、例外があります。2つのパターンを紹介します。
パターン1:電話やweb会議をしている場合
最近の新幹線には、web会議や電話、パソコンを使った仕事や勉強を目的とした専用の車両があります。そういった場所で行った電話で業務連絡をしたりweb会議などをしている場合、通勤時間内のことだったとしても労働時間として扱われます。
パターン2:「黙示の指示」に該当する場合
「黙示の指示」とは、上司から到底就業時刻までには終わらない仕事量をおしつけられ、従業員が上司の指示なく残業し、それを上司が黙認している状況のことを言います。
このパターンでは上司から残業命令がなかったとしても残業として認定される可能性があります。
このように従業員の判断で残業していることを会社が発見した場合、「残業しないように」注意指導しなければなりません。
まとめ
原則として、通勤時間は労働時間に含まれません。しかし労働時間に認定される例外もあることを、本記事を通して解説してきました。
意外に多い「黙示の指示」。自分の会社は大丈夫か、一度見直してみる必要はありそうです。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。