このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第9回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
2021年、希望退職を含めた人員削減を100人規模で行ったとあるスタートアップがあります(以降 “B社” とします)。この人員削減は業界でもかなり話題になりました。このニュースののちに業績は回復し、今は採用活動も積極的に行っています。
今回はこの事例を参考に、日本の雇用形態について解説します。
「人員削減」という経営のタブーに切り込んでみましょう。
日本の会社経営において「人員削減」のハードルはとても高い!
日本の労働法は、経営者にとって不利に作られていることが多いです。過去の記事でも紹介したように「給与の引き下げ」を容易に行うことができません。「人員削減」についても高いハードルが存在します。
今回のB社の事例では、340人の従業員を200人にまで削減したとされており、いわゆる「リストラ」といわれる希望退職の募集や整理解雇をおこなったと推測されます。
会社が人員削減を行う際には、整理解雇を行う前に希望退職を募集します。その希望退職で、必要な削減人数までに達しない場合、「整理解雇」を検討することになります。
「整理解雇」を実施するにはいくつかの条件があります。例えば、赤字によって人員削減しないと会社が存続できない状況にある、経費削減や希望退職の募集を行っている、整理解雇対象者の選定基準が合理的である、対象者への説明や労働組合と協議などを行っている、といった場合でなければ認められません。
▼整理解雇の四要件(要素)
使用者が、不況や経営不振などの理由により、解雇せざるを得ない場合に人員削減のために行う解雇を整理解雇といいます。これは使用者側の事情による解雇ですから、次の事項に照らして整理解雇が有効かどうか厳しく判断されます。
・人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
・解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
・人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
・解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと
日本の労働法は正社員を手厚く保護し、非正規社員を冷遇する仕組みになっている。
日本の労働法は正社員を手厚く保護し、非正規社員を冷遇する仕組みになっています。
こうしたバックグラウンドのもと、日本では契約社員、パート、派遣労働、業務委託といった「非正規型の人材市場」が拡大してきました。
1990年代のバブル崩壊や2000年代のリーマンショックといった大型の不景気に直面した際には、非正規雇用の人材が、人件費の調整弁となることで乗り越えてきたという時代背景があります。
これは裏を返すと「派遣切り」などの社会問題を生みだす原因でもあります。しかし、こと「会社経営者」という目線に立ってみると、非正規雇用の枠があるからこそ経営の自由度が保たれ、不景気を乗り越えられたとも受け取ることができます。
実は多く寄せられる「人員削減したい」という相談。鍵は “制度設計”
今の日本は長い不景気のトンネルに突入しています。こうした背景もあり「人員削減を検討している」という相談は当社にも寄せられています。
適切な人員削減に向けたプロセス構築・手続きは、社労士としてもちろんサポートします。しかし、経営者にとって「人員削減」はあくまで手段のひとつであり、その先にある目的(≒会社を持続的に成長させ、収益を生み出すこと)を見失ってはいけないと私は考えます。
スタートアップの場合、曖昧な人事制度のもとで会社を運営しているケースも散見されます。「なんとなく、人材派遣は割高そう」、「なんとなく、新卒採用してみたい」などの理由で、正社員ばかりを採用しているケースはよくみかけます。
正社員を採用することはよいことですが、人員削減が必要になった際に経営の自由度を確保しづらいです。例えば、正社員100%の会社であれば、業績が悪化した際に退職させる非正規雇用のスタッフがいません。そのような状況で人員削減する場合、希望退職の募集を行います。実際に希望退職を募集したら、「優秀な人ばかりが希望退職に応募して困った」という事態が発生する可能性があります。
正規雇用と非正規雇用の割合を適切に保つことで、人員削減が必要になった時、会社の自由度を確保できます。一度、自社の正規雇用と非正規雇用の理想的なバランスを考えてみてはいかがでしょうか?
まとめ
会社経営の自由度を保つためのポイントは「正規雇用と非正規雇用のバランス」にあります。業界や職種によっても勝ちパターンはさまざま。ぜひ、労務の専門家である社労士にご相談いただけたらと思います。
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社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。