このコラムは、Podcastラジオ “社労士 吉田優一の「給与設計相談室」” 第19回の配信をもとに書かれた記事です。
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皆さんの会社には同じ仕事を行っているのに、業務委託契約や雇用契約など異なる雇用形態の方はいませんか?契約形態ごとの特性を理解していない経営者が知らない落とし穴があります。今回は多くの経営者がよく誤解しがちな業務委託契約と雇用契約の違いについて解説します!
業務委託契約と雇用契約の違い
業務委託契約と雇用契約の1番の違いは、働く人が会社の指揮命令下に置かれているかどうかです。会社の指揮命令下に置かれるというのは、会社が働く人に対して業務上の指示を細かく出し、それに基づいて働かせることをいいます。雇用契約を締結している方は、そのような働き方で、賃金を受け取ります。
一方で、業務委託契約は業務の依頼を受け、その結果に基づく報酬を受け取る形態の契約を指します。働く時間の制約や仕事の進め方の細かい手順の指示を受けることはありません。
その他にも厚生労働省の研究会で出した業務委託契約か雇用契約かの判断基準の中には、仕事の諾否権の有無、専属性、仕事で使用する道具等の費用や機材の費用負担などが判断基準として挙げられています。
経営者にとって有利なのは
それでは、経営者にとって有利なのはどちらの契約でしょうか。多くの意見としては、経営者にとって業務委託契約が有利だとされています。その理由は、雇用契約よりも契約を終了しやすいからというのが一般的です。雇用契約と比較すると「この業務が終わったら契約終了です。」とすることが比較的容易にできます。いざというときに人件費を調整できるという点は、経営者にとって安心材料となり、メリットがあると言えるでしょう。
雇用契約の場合、会社が「雇ってみたけどこの人はうちの会社に合わないな…」や「他のスタッフさんとうまくやれない…」などの理由で、会社から一方的にスタッフを辞めさせることが難しいとされています。経営が少し苦しいという程度では、会社の都合で一方的に従業員を解雇することはできません。
労働者が雇用契約を好む理由
労働者の目線で考えると、契約終了の可能性がある業務委託契約よりも、雇用契約を締結して安定的に報酬をもらいたいと思うでしょう。他にも労働者からみる雇用契約のメリットはいくつかあります。
まず、会社が労災保険に加入しているところです。労働者が就業中や通勤中にけがをした場合は、労災保険が治療費等を保障してくれます
次に、雇用保険にも加入しているので、失業した場合は失業保険をもらうことができます。
業務委託の契約の場合、無職になっても失業保険を受け取ることはできません。
その他にも社会保険に加入できることにより、プライベートのけがや病気では健康保険から給付があり、厚生年金保険に加入することで老後の年金が手厚くなります。さらに社会保険料の半分は会社が負担してくれます。
税金面では一般的にサラリーマンは確定申告が不要なケースが多く、手続き面では手間が省けると言えるでしょう。
一方、デメリットは税金や社会保険料が天引きされるので、手取り額が低くなることです。また、サラリーマンだと、仕事に関連した支出であっても、さまざまな理由から経費を入れることが難しいことが多いでしょう。このため、税金面では不利になってしまうケースが多いと思われます。
業務委託契約のメリットとデメリット
労働者目線での業務委託契約のメリットは、仕事の諾否権があるところです。例えば、「会社の掃除はやるけれど、コピー取りはやりません」など引き受けた業務の範囲外のことは断ることができます。仕事を選ぶ側になるので、得意や不得意を考慮しながら仕事を選べます。また、報酬単価を基に仕事を取捨選択することも可能で、これは大きなメリットと言えます。
同時にデメリットもあります。一番のデメリットは、労災保険に加入することができないことです。したがって、業務委託契約では、仕事中にケガをしても労災保険の給付受けることはできません。また、健康保険証は使用することができないので、治療にかかった費用の10割を負担しなくてはなりません。
気を付けなくてはならないポイントは
社内に業務委託契約と雇用契約の両方の方がいるけれど、実際の業務内容に違いが何もないことがあります。本来は細かい指示が出ているか、時間的な制約があるかといったことを確認して明確に契約形態の区分をし、それをお互いが把握した状態で働くことが望ましいです。
業務委託者の理解が足りておらず、労災保険に加入していると思っていたのに使用できなくて揉めてしまうケースもあります。そのような事態にならないよう、契約はお互いに内容を理解したうえで契約締結することがポイントです。
業務委託契約と雇用契約の判定方法
業務委託契約か雇用契約かどうかは、実態で決まります。契約書等の書面など、形式で決まらない点に注意が必要です。
形式上、業務委託契約を締結していたが、実態を確認すると労働基準法上の労働者に該当することはよくあります。これは、大きなリスクが伴います。
たとえば、多くの業務を委託し、実態として会社の指揮命令下で長時間労働させていた場合、リスクが伴います。そういった状況では、実際に働いた時間に応じて時間外労働の賃金を支払う必要が生じる可能性があります。そのようなことが起こらないためにも、実態と形式を合致させた状態で契約を結ぶことが大切です。
まとめ
- 業務委託と雇用の大きな違いは「指揮命令」の有無
- 契約形態は実際の業務内容と実態によって決まるため、形式と実態の一致が重要
経営者からすると業務委託契約の方が、人件費部分の調整をしやすいといった意味で有利になります。しかし、業務委託契約と雇用契約は実態に沿って判断されるため、有利だからという理由で業務委託契約を締結してしまうと、後々トラブルになる可能性があります。
お互いに気持ちよく仕事をするためにも、業務内容や時間的制約の有無等を確認し、実態に沿った契約を締結しましょう。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。