このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第64回の配信をもとに書かれた記事です。
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労基署調査は決して他人事ではありません
労働基準監督署(以下、「労基署」といいます。)から“労基署調査”実施の通知を受け取ったとき、多くの経営者や労務担当者の方は不安を感じるかもしれません。しかし、“労基署調査”は決して特別なことではないのです。実は、労基署による監督指導は毎年多数の事業場に対して実施されており、いつ自社が調査の対象となっても不思議ではありません。
調査の始まりは、多くの場合、労基署からの一通の書面です。主に、監督官が会社を訪問する日時が指定されているケースと、指定の日時に労基署へ出頭を求める「呼び出し」のケースがあります。事前通知なしに監督官が訪問する「臨検監督」が行われることもあります。
初動対応が調査全体を左右する
労基署から通知を受け取った際、何よりも重要なのが「誠実な対応」です。
指定された日程の都合がつかない場合は、理由を説明すれば変更は可能です。しかし、連絡を無視したり、訪問してきた監督官を長時間待たせたりするような対応は避けるべきでしょう。不信感を招き、かえって調査が厳しくなる可能性があります。
監督官も人です。真摯に対応する企業に対しては、その姿勢を汲んでくれるものです。最初の対応が、その後の調査全体の流れを左右することを心に留めておくべきでしょう。

労基署調査で見られる3つの重要ポイント
では、労基署の調査では具体的にどのような点がチェックされるのでしょうか。業種によって細かな論点は異なりますが、監督官が重視するポイントは大きく分けて3つに集約されます。
ポイント1:労働者の生命と安全
労働基準法は、元来、労働者の健康や命を守るための法律です。そのため、危険な作業環境ではないか、安全対策は講じられているかといった、生命の安全が脅かされていないかが最優先で確認されます。特に建設業や製造業などでは、この点が厳しく見られます。
ポイント2:時間とお金の管理
多くの企業にとって関係が深いのが、この「時間とお金の管理」です。
具体的には、まずタイムカードなどの記録から、過度な長時間労働が発生していないかを確認します。そして、その記録された労働時間に対し、正確に賃金が支払われているか、未払残業代がないかを精査します。労働時間や割増賃金に関する違反は、常に指摘事項の上位を占めています。
ポイント3:書類の整備状況
常時10人以上の労働者を使用する事業場で義務付けられている就業規則や、時間外労働を行わせるために不可欠な36協定などが、適切に作成・届出されているかといった、基本的な書類が揃っているかを確認します。これらの書類に不備があれば、法律違反を指摘される可能性があります。

是正勧告を受けた後の対応が重要です
一通りの調査が終わると、その結果に基づいて労基署から文書が交付されます。
交付される文書は主に2種類あります。一つ目は「是正勧告書」です。これは調査の結果、確認された法律違反を指摘し、是正を命じるものです。二つ目は「指導票」です。法律違反ではないものの、改善が望ましい事項についてのアドバイスが記載されています。多くの中小企業では、この両方が交付されるケースが多いです。
改善報告は期限内に確実に
重要なのは、これらの文書を受け取って終わりではない、という点です。
是正勧告書には通常、期限が明記されています。企業は、指摘された事項をどのように改善したかを具体的に記した「是正報告書」を作成し、期限内に労基署へ提出しなければなりません。
この改善報告書の内容が不十分であったり、実態と異なると判断されたりした場合は注意が必要です。報告書が受理されず再提出を求められるだけでなく、後日、改善状況を確認するための「再監督」が行われることがあります。一度の調査で指摘された事項は、一度の報告で確実に対応を完了させることが、結果的に企業の負担を軽減する方法と言えるでしょう。

調査を企業成長の機会として活用する
“労基署の調査”と聞くと、多くの経営者は時間的・心理的な負担を感じ、面倒なものだと捉えがちです。しかし、視点を変えれば、これは自社の労務管理体制を専門家の視点から診断してもらう機会と捉えることもできます。
実際、定期監督等において何らかの法違反が指摘される事業場は少なくありません。これは、多くの企業が自社では気づかないうちに、何らかの労務リスクを抱えていることの裏返しです。
調査で指摘された事項を真摯に受け止め、根本的な改善に取り組むことは、単に法律違反を是正するだけでなく、より健全で強固な組織を築くための基礎となります。
例えば、労働時間管理の仕組みを見直し、賃金制度を整備することは、従業員の不満を解消し、エンゲージメントを高めることに直結します。働きやすい職場環境は、優秀な人材の採用競争において大きなアドバンテージとなり、離職率の低下にも繋がるはずです。
労基署の調査を、受動的に対応すべき厄介事としてではなく、組織の成長を促すための重要な契機として前向きに活用することが、経営者には求められます。
まとめ
労基署の調査は、企業経営において当然起こりうる、ごく一般的な出来事です。重要なのは、通知が来た際に慌てず、誠実に対応すること。そして、調査で指摘される「生命と安全」「時間とお金の管理」「書類の整備」という3つのポイントを理解し、自社の体制を日頃から見直しておくことが重要です。
万が一、調査で是正勧告を受けたとしても、それは企業の労務管理を改善し、より良い組織へと成長させるための機会です。指摘事項を真摯に受け止め、改善報告を確実に行うことで、従業員が安心して働ける環境を整えることができ、ひいては企業の業績向上にも繋がっていくでしょう。
労基署の調査対応には、専門的な知識と慎重な対応が求められます。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、初動対応から改善報告書の作成まで、あらゆる段階で企業様をサポートしてきた豊富な経験がございます。この困難を、組織を強化する機会へと変えるお手伝いをいたします。
労基署から通知が届いた、あるいは自社の労務管理に不安をお持ちの経営者様は、ぜひ一度、当法人の無料相談をご利用ください。貴社の状況に応じた具体的な対応策を、専門家がご提案いたします。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


