コラム

問題社員への正しい対応│懲戒処分の進め方

問題社員への正しい対応│懲戒処分の進め方

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第205回および206回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

事実を認めない社員への懲戒処分で注意すべき法的リスク

事実を認めない社員への懲戒処分は、慎重に進めなければ法的なリスクを伴います。

十分な証拠や手続きがないまま処分を下すと、後に「懲戒処分」として法的トラブルに発展する可能性があります。

懲戒処分は企業に認められた人事権の行使ですが、その行使が客観的に合理的で社会通念上相当と認められない場合、「権利濫用」として無効になるため、注意が必要です。

懲戒処分が無効になるケースとは 

懲戒処分が無効になるのは、主に「懲戒権の濫用」と判断された場合です。

労働契約法第15条では、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効と定められています。

具体的には、処分の根拠となる事実が存在しない、就業規則に懲戒事由の定めがない、弁明の機会を与えていないといった手続き上の不備がある、問題行動の程度に対して処分が重すぎるといったケースが該当します。

不当解雇として訴えられる可能性を理解する 

懲戒処分、特に懲戒解雇は、社員の地位を一方的に奪う極めて重い処分です。

そのため、裁判所は有効性を厳しく判断します。

事実認定に誤りがあったり、手続きに不備があったりして懲戒解雇が無効と判断されると、企業は従業員としての地位の確認や、解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払いを命じられるリスクを負います。

本人が事実を否認している状況では、このリスクはさらに高まります。

【ステップ1】本人の否認を覆すための客観的な証拠収集と事実認定

社員が事実を否認する場合、懲戒処分の根拠となるのは本人の自白ではなく客観的な証拠です。

したがって、処分を検討する最初のステップは、徹底した調査と証拠収集です。

収集した証拠に基づき、誰が見ても疑いようのないレベルまで事実を固める「事実認定」の作業が、後の手続き全体の正当性を支える基盤となります。

まずは5W1Hで問題行動の事実関係を整理する 

調査を開始するにあたり、まずは問題となっている行動について「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)」の観点から情報を整理します。

これにより、事実関係の全体像が明確になり、何が争点となっているのか、どのような証拠を追加で収集すべきかの方向性が定まります。

この初期段階での正確な状況確認が、その後の効率的かつ的確な調査の土台を築きます。

メールやチャット履歴など客観的な証拠を確保する方法 

本人の供述に頼らない事実認定のためには、客観的な証拠の確保が不可欠です。

具体的には、業務メールやビジネスチャットの履歴、PCのログイン・閲覧履歴、勤怠管理システムの記録、監視カメラの映像、GPSの記録などが挙げられます。

これらの証拠は、問題行動があった日時や内容を具体的に裏付ける強力な材料となります。

調査の過程でこれらのデータが削除・改変されないよう、速やかに保全措置を講じる必要があります。

【注意点あり】関係者へのヒアリング調査の正しい進め方 

関係者へのヒアリングは、客観的証拠を補完する上で有効な調査手法ですが、進め方には注意が必要です。

対象者のプライバシーに配慮し、高圧的な態度や誘導尋問は避けなければなりません。

ヒアリングは複数人で行い、質問事項を事前に準備しておくとスムーズです。

また、対象者の同意を得た上で会話を録音するか、詳細な議事録を作成し、内容に相違がないか本人に確認・署名をもらうことで、後々の証拠としての価値が高まります。

【ステップ2】懲戒処分の妥当性を担保する適正な手続きの進め方 

強固な事実認定ができた次に重要なのが、就業規則に定められた適正な手続きを踏むことです。

いかに明白な問題行動であっても、手続きに瑕疵があれば処分が無効と判断されるリスクがあります。

人事部門は、これから解説する手順を一つひとつ正確に実行し、手続きの正当性を確保するための確認作業を怠らないように進める必要があります。

就業規則の懲戒事由に該当するかを正確に確認する 

懲戒処分を行う大前提として、対象となる行為が就業規則に定められた懲戒事由に明確に該当するかの確認が必要です。

就業規則に記載のない理由で社員を処分することはできません。

調査報告書で認定した事実と就業規則の条文を照らし合わせ、「○○条○項の『△△』に該当する」というように、根拠を具体的に特定します。

この根拠が曖昧なまま手続きを進めることは避けるべきです。

弁明の機会を付与する通知書の作成と交付方法 

懲戒処分を検討する際は、対象となる社員に弁明の機会を与えなければなりません。

これは、本人の言い分を聞き、事実誤認がないかを確認するための重要な手続きです。

通常、「弁明通知書」といった書面を交付し、処分の原因となる事実、該当する就業規則の条文、弁明を提出する期限や方法を明記します。

書面は人事担当者から直接手渡しし、受領のサインを求めるのが望ましいです。

社員が弁明を拒否・無視した場合に「機会を与えた」と証明する方法 

社員が弁明通知書の受領を拒否したり、期限までに弁明書を提出しなかったりする場合もあります。

その場合でも、会社としては「弁明の機会を与えた」という客観的な事実を残すことが重要です。

通知書を手渡そうとした日時、場所、同席した人事担当者名、本人が拒否した旨などを詳細に記録しておきます。これにより、適正な手続きを踏んだと証明できます。

始末書の提出を拒否された際の適切な対応 

戒告や譴責といった懲戒処分の結果として始末書の提出を命じることがあります。

しかし、始末書は反省の意を示すものであり、内心の自由に抵触する可能性があるため、提出を強制することはできません。

本人が提出を拒否した場合、その行為自体を理由に再度懲戒処分を検討することが可能です。

ただし、始末書不提出に対する処分は、元の懲戒事由より重くならないようバランスを考慮する必要があります。

【ステップ3】処分の重さを決める「相当性の原則」とは? 

懲戒処分の種類を決める際には、「相当性の原則」を遵守しなければなりません。

これは、問題となった非違行為の性質、態様、結果の重大性、本人の意図や動機、日頃の勤務態度や過去の人事考課、反省の度合いなどを総合的に考慮し、行為と処分の重さのバランスが取れていなければならないという原則です。

このバランスを欠くと、処分が重すぎるとして無効になる可能性があります。

懲戒処分の種類とそれぞれの内容を理解する 

就業規則に定められる一般的な懲戒処分には、重さによっていくつかの段階があります。

最も軽いものが口頭または文書での注意である「戒告」、始末書の提出を求める「譴責」。

さらに重くなると、給与から一定額を差し引く「減給」、一定期間の出社を禁じる「出勤停止」、役職や職位を引き下げる「降格」があります。

最も重い処分が「懲戒解雇」です。

過去の裁判例から見る懲戒処分の判断基準 

処分の重さを判断する際に、最初に確認すべきことは就業規則の記載内容です。就業規則に規定していない処分はできないため、まずは就業規則に処分の根拠となる条文があるか確認をします。

次にその会社での処分歴を確認します。これまで行ってきた懲戒処分とのバランスが求められるためです。

また、過去の裁判例は重要な参考資料となります。

類似の事案でどのような処分が有効とされ、どのような処分が無効と判断されたかを知ることで、自社の判断の客観性を高められます。

例えば、業務上横領のような悪質な事例では懲戒解雇が有効とされる一方、一度の遅刻や軽微な業務命令違反でいきなり重い処分を下すと無効とされる可能性が高いです。

自社の事例と類似の裁判例を比較検討することが求められます。

事実を認めず反省がない態度は処分の重さに影響するのか? 

社員が事実を認めず反省の態度を示さないことは、懲戒処分の重さを決定する際の情状の一つとして考慮されます。

ただし、反省がないこと自体を新たな懲戒事由としたり、それだけで処分を不相当に重くしたりすることはできません。

あくまで中心となる非違行為があり、その上で本人の態度から改善の見込みが薄いと判断される場合、より重い処分が相当とされる可能性があります。

これは日頃の人事考課と同様、勤務態度の評価の一環と見なされます。

【ステップ4】懲戒処分を本人に通知する際の手順と注意点 

懲戒処分が正式に決定したら、本人へ通知します。後のトラブルを避けるため、通知は書面で行うことが推奨されます。通知の場には、複数名で臨むことが望ましい場合もあります。

感情的にならず、決定事項と根拠を事務的に、かつ明確に伝える冷静な対応が求められます。

懲戒処分通知書に記載すべき必須項目 

懲戒処分通知書には、後日の紛争を防ぐために以下の項目を正確に記載する必要があります。

  • 社員の氏名
  • 通知年月日
  • 会社名および代表者名
  • 処分の名称
  • 根拠となる就業規則の条文
  • 処分の原因となった具体的な事実
  • 処分の効力発生日
  • 始末書の提出期限など

これらの記載に漏れがないか、人事部門で最終確認します。

【トラブル回避】事実を認めない社員への懲戒処分でやってはいけないこと

事実を認めない問題社員への対応では、感情的な行動が事態を悪化させます。

以下のような行為は絶対に避けるべきです。

十分な証拠がないまま憶測で処分を決定する

密室で本人を問い詰め、自白を強要する

認めなければ解雇するといった威圧的な退職勧奨を行う

他の従業員の前で本人を晒し者にするなど、名誉を毀損する

こうした不適切な対応は、不祥事そのものとは別に、会社側が訴えられる新たな火種を生むことになります。

まとめ 

事実を認めない問題社員への懲戒処分を適正に進めるには、「客観的な証拠に基づく事実認定」「就業規則に則った適正な手続き」「処分の相当性」という3つの原則が極めて重要です。

人事担当者は、いかなる状況でも感情的にならず、法的な観点から一つひとつの手順を確実に実行することが、最終的に会社を守ることに繋がります。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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