社会保険料と健康保険料は、給与明細でよく目にする項目ですが、その違いを正確に理解している人は少ないかもしれません。
社会保険料は公的保険制度の総称であり、健康保険料はその一部です。
この記事では、両者の関係性や社会保険料の内訳、具体的な計算方法を解説します。
また、会社員が加入する健康保険と自営業者などが加入する国民健康保険との違いについても比較し、退職時の選択肢まで網羅的に説明します。
社会保険料と健康保険料の基本的な関係性
社会保険料と健康保険料の関係を理解することは、自身の給与や公的な保障を把握する第一歩です。
社会保険料とは、万が一の事態に備えるための公的な保険制度の保険料全体の呼び名です。
一方、健康保険料とは、その社会保険料を構成する要素の一つであり、主に病気やケガをした際の医療費を保障する役割を担います。
つまり、社会保険料という大きな枠組みの中に、健康保険料が含まれているという関係性になります。
社会保険料とは5つの公的保険の総称
社会保険料とは、一般的に「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」という5つの公的な保険料をまとめた総称です。
これらは、病気やケガ、失業、労働災害、老齢といった生活上の様々なリスクに備えるための制度です。
社会保険は広義と狭義の2種類に分けられることもあります。
広義では5つすべてを指しますが、狭義では健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つを指し、雇用保険と労災保険は「労働保険」として区別される場合があります。
健康保険料は社会保険料を構成する要素の一つ
健康保険料は、社会保険料を構成する5つの保険のうちの一つであり、業務外の病気やケガ、出産、死亡といった事態に備える医療保険制度の掛け金です。
給与明細では「健康保険料」として個別に記載されていますが、これはあくまで社会保険料の内訳の一つに過ぎません。
したがって、社会保険料は健康保険料のみを指す言葉ではなく、厚生年金保険料や介護保険料などを含んだ合計の金額を意味する場合があるため、文脈に応じた解釈が必要です。
給与から天引きされる5種類の社会保険料の内訳
毎月の給与明細を見ると、総支給額から様々な項目が控除されていますが、その中心となるのが社会保険料です。
会社員の場合、原則として「健康保険料」「厚生年金保険料」「介護保険料(40歳以上)」「雇用保険料」「労災保険料」の5種類が給与から天引きされます。
ただし、労災保険料は全額が会社負担のため、従業員の給与明細には記載されません。
これらの保険料によって、私たちの生活は様々なリスクから守られています。
病気やケガに備える「健康保険料」
健康保険料は、業務外の病気やケガで医療機関を受診した際に、医療費の自己負担を原則3割に軽減するための保険料です。
この制度により、高額な医療費がかかる場合でも安心して治療を受けられます。
また、病気やケガで長期間仕事を休む場合に支給される「傷病手当金」や、出産時に受け取れる「出産育児一時金」、産休中の生活を支える「出産手当金」といった給付もあり、医療費の補填だけでなく、所得を保障する役割も担っています。
将来の年金のための「厚生年金保険料」
厚生年金保険料は、会社員や公務員が加入する公的年金制度である厚生年金のための掛け金です。
この制度は、すべての国民が加入する国民年金(基礎年金)に上乗せされる2階建て構造になっています。
将来、原則として65歳から受け取れる「老齢厚生年金」だけでなく、病気やケガで障害が残った場合に支給される「障害厚生年金」や、加入者が亡くなった場合に遺族の生活を保障する「遺族厚生年金」の機能も備えています。
支払う厚生年金保険料が多いほど、将来受け取る年金額も増える仕組みです。
40歳から支払いが始まる「介護保険料」
介護保険料は、高齢化に伴い介護が必要となった際に、費用負担を社会全体で支えるための介護保険制度の保険料です。この保険料の支払いは、40歳に達した月から始まります。40歳から64歳までの人は「第2号被保険者」として健康保険料と一緒に介護保険料が徴収されます。
65歳になると「第1号被保険者」となり、原則として年金から天引きされる形で納付します。介護保険料の支払いは、40歳から生涯続きます。
失業時の生活を支える「雇用保険料」
雇用保険料は、労働者の生活や雇用の安定、そして再就職の促進を目的とする雇用保険制度のための保険料です。
最もよく知られているのは、会社を退職して失業状態になった際に、次の仕事が見つかるまでの生活を支える「基本手当(失業手当)」の給付です。
その他にも、育児や介護で休業する際の「育児休業給付」「介護休業給付」や、スキルアップを目指す際の「教育訓練給付」など、働く人のキャリアを様々な面から支援する役割を担っています。
業務上の災害を補償する「労災保険料」
労災保険料は、労働者が業務中や通勤中にケガ、病気、障害、あるいは死亡といった労働災害に見舞われた際に、本人やその遺族を保護するための保険料です。
正式名称を労働者災害補償保険といいます。
この保険により、治療費の給付や休業中の所得補償、障害が残った場合の年金などが支給されます。
他の社会保険料とは異なり、保険料の全額を事業主(会社)が負担するのが大きな特徴で、従業員の給与から天引きされることはありません。
【会社員向け】健康保険料の計算方法を3ステップで解説
会社員が負担する健康保険料は、給料の額に応じて決まります。
しかし、その具体的な計算方法を知らない方も多いでしょう。
ここでは、自身の給与から毎月いくらの健康保険料が引かれているのかを計算するための手順を、3つのステップに分けて分かりやすく解説します。
この方法を理解すれば、給与明細の控除額に対する理解が深まります。
給与計算のやり方については「給与計算のやり方を5つの手順で解説」で詳しく紹介しています。
Step1. 自分の給与がどの等級か「標準報酬月額」で確認する
健康保険料を計算する最初のステップは、自身の「標準報酬月額」を確認することです。
標準報酬月額とは、保険料の計算を簡略化するために、給与を一定の範囲で区切った等級のことです。
この等級は、原則として毎年4月、5月、6月に支払われた給与(基本給、残業代、通勤手当などを含む)の平均額を基に決定されます。
そして、その年の9月から翌年8月までの1年間、決定された標準報酬月額が保険料計算の基礎として適用されます。
Step2. 加入している健康保険組合の「最新の保険料率」を調べる
次に、自身が加入している健康保険組合の保険料率を確認します。
保険料率は加入先によって異なり、主に全国健康保険協会(協会けんぽ)と、大企業や同業種の企業が集まって設立する組合管掌健康保険(組合健保)の2種類が存在します。
協会けんぽの場合、保険料率は都道府県ごとに設定されており、毎年見直しが行われます。
そのため、勤務地がある都道府県の最新の保険料額表を協会けんぽの公式サイトで確認する必要があります。
令和6年度の料率表などを参考に、正確な数値を確認することが重要です。
Step3. 「標準報酬月額 × 保険料率」で保険料を算出する
標準報酬月額と保険料率がわかったら、いよいよ保険料を算出します。
計算式は「標準報酬月額×健康保険料率」です。
この計算で算出された金額が、会社と従業員が負担する保険料の総額となります。
実際に従業員が給与から支払う金額は、この総額を半分にした額です。
例えば、標準報酬月額が30万円で保険料率が10%の場合、保険料総額は3万円となり、自己負担額は1万5千円です。
なお、標準報酬月額には上限が設けられています。
社会保険料の上限については「社会保険料の上限について」で詳しく紹介しています。
会社と従業員で保険料を半分ずつ負担する「労使折半」が基本
健康保険料、厚生年金保険料、そして40歳以上が支払う介護保険料は、会社と従業員が半分ずつ負担する「労使折半」が原則です。
前述の計算で算出された保険料の総額のうち、半額分は会社負担となります。
給与明細に記載されている健康保険料は、すでに会社が半額を負担した後の、従業員の自己負担額です。
この労使折半の仕組みにより、従業員の保険料負担は大幅に軽減されています。
なお、雇用保険料も労使で負担しますが、負担割合は折半ではありません。
月々の給与だけでなく賞与(ボーナス)も保険料の対象になる
社会保険料は、毎月の給与だけでなく、賞与(ボーナス)からも徴収されます。
賞与にかかる保険料は、「標準賞与額×各保険料率」で計算されます。
標準賞与額とは、税引前の賞与総額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額です。
この標準賞与額に対して、健康保険料や厚生年金保険料などが、毎月の給与と同じ保険料率でかかります。
賞与が支給された月の給与明細では、通常の給与分の保険料と賞与分の保険料がそれぞれ計算され、合算して天引きされます。
会社員の健康保険と国民健康保険の主な違いを比較
会社員などが加入する「健康保険(社会保険)」と、自営業者や退職者などが加入する「国民健康保険(国保)」は、同じ公的医療保険制度ですが、いくつかの重要な違いがあります。
特に、保険料の計算方法や扶養の考え方、負担割合などが大きく異なります。
転職や独立を考える際には、これらの違いを正しく理解しておくことが、将来の家計を計画する上で不可欠です。
加入対象者の違い:会社員や公務員か、自営業者や無職者か
最も基本的な違いは、加入対象者です。
会社の健康保険は「被用者保険」とも呼ばれ、企業に雇用されている会社員や公務員、そしてその扶養に入っている家族が加入します。
一方、国民健康保険は、自営業者、フリーランス、農業従事者、パート・アルバイトで勤務先の社会保険の加入要件を満たさない人、退職して無職になった人など、他の公的医療保険に加入していないすべての人が対象となる「地域保険」です。
運営主体も、健康保険は健康保険組合や協会けんぽであるのに対し、国民健康保険は市区町村です。
社会保険における扶養については「社会保険の扶養について」で詳しく紹介しています。
保険料の算出基準の違い:給与を基にするか、所得を基にするか
保険料の計算方法にも大きな違いがあります。
会社員の健康保険料は、給与額を基にした「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出されます。
給与が高いほど保険料も高くなりますが、一定の上限が設けられています。
一方、国民健康保険料は、前年の「総所得金額等」を基に計算される「所得割」と、加入者全員が等しく負担する「均等割」などの組み合わせで決まります。
そのため、所得がなければ保険料は低くなりますが、前年に高所得だった場合、退職して収入がなくても高い保険料を支払う必要があります。
社会保険料がかからない手当については「社会保険料がかからない手当の一覧」で詳しく紹介しています。
扶養家族の保険料の考え方の違い:追加負担の有無
扶養の概念は、両者の最も大きな違いの一つです。
会社員の健康保険では、被保険者に生計を維持されている配偶者や子どもなどの家族を「扶養家族」として加入させることが可能です。
扶養家族が何人増えても、被保険者が支払う保険料は変わりません。
つまり、扶養家族分の追加保険料は実質0円です。
一方、国民健康保険には「扶養」という考え方がなく、世帯の加入者一人ひとりに対して保険料が計算されます。
そのため、世帯の人数が増えれば、その分だけ保険料の負担も増えることになります。
保険料の負担割合の違い:労使折半か、全額自己負担か
保険料の負担割合も異なります。
会社員の健康保険料は、事業主(会社)と従業員が半分ずつ負担する「労使折半」が基本です。
従業員は保険料の半額を負担するだけで済みます。
これに対し、国民健康保険には事業主が存在しないため、保険料は加入者が全額自己負担しなければなりません。
この負担割合の違いは、特に退職して国民健康保険に切り替える際に、保険料が想像以上に高額に感じられる一因となります。
退職後に必要な健康保険の切り替え手続きと選択肢
会社を退職すると、これまで加入していた健康保険の資格を失います。
そのため、速やかに何らかの公的医療保険に加入し直す必要があります。
日本は国民皆保険制度を採用しているため、無保険の状態になることは認められていません。
退職後の選択肢は主に3つあり、それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、自身の状況に最も合った方法を選ぶことが重要です。
選択肢1:お住まいの市区町村で国民健康保険に加入する
退職後の最も一般的な選択肢が、居住地の市区町村が運営する国民健康保険への加入です。
自営業者やフリーランスになる人、すぐに再就職しない人が主にこの方法を選びます。
手続きは、退職日の翌日から14日以内に、健康保険の資格喪失証明書や本人確認書類などを持参して、市区町村の役所の担当窓口で行います。
保険料は前年の所得を基に算出されるため、退職前に所得が高かった場合は保険料が高額になる可能性があります。
業務委託で入るべき保険については「業務委託で入るべき保険」で詳しく紹介しています。
選択肢2:会社の健康保険を「任意継続」して加入し続ける
退職前に加入していた会社の健康保険に、退職後も継続して加入できる「任意継続被保険者制度」を利用する方法もあります。
この制度を利用できるのは、健康保険の被保険者期間が継続して2ヶ月以上ある人で、退職日の翌日から20日以内に手続きが必要です。
在職中と同じ保険給付を受けられるメリットがありますが、これまで会社が負担していた保険料も全額自己負担となるため、保険料は約2倍になります。
ただし、保険料には上限があるため、国民健康保険料と比較して有利になる場合もあります。
加入期間は最長で2年間です。
選択肢3:家族が加入する社会保険の扶養に入る
配偶者や親、子どもなど、家族が会社の健康保険や共済組合に加入している場合、その被扶養者として加入する選択肢もあります。
この方法の最大のメリットは、自身で保険料を支払う必要がない点です。
ただし、被扶養者として認定されるには、年間の見込み収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であることなど、厳しい収入要件を満たす必要があります。
これらの条件を満たせるのであれば、最も経済的負担の少ない選択肢といえます。
社会保険料と健康保険料に関するよくある質問
ここでは、社会保険料や健康保険料に関して、多くの人が抱きやすい疑問について回答します。
給与明細の見方から、パート・アルバイトの加入義務、正確な保険料率の確認方法まで、具体的な質問を取り上げます。
厚生年金保険料など、他の社会保険料との関係性も踏まえながら、分かりやすく解説していきます。
給与明細を見ると「社会保険料」と「健康保険料」の金額が違うのはなぜですか?
「社会保険料」は、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料などの総称だからです。
給与明細の「社会保険料合計」のような欄にはこれらの合計額が記載され、「健康保険料」の欄にはその内訳の一つが記載されています。
したがって、両者の金額が異なるのは当然です。
パートやアルバイトでも社会保険に加入する義務はありますか?
はい、一定の条件を満たす場合は加入義務があります。
具体的には、「週の所定労働時間が20時間以上」「月額賃金が8.8万円以上」「勤務期間が2ヶ月を超える見込み」などの要件をすべて満たす場合、パートやアルバイトでも社会保険の被保険者となります。
自分が支払うべき正確な健康保険料率を確認する方法は?
加入している健康保険組合の公式サイトで確認するのが最も正確です。
全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している場合は、公式サイトに掲載されている都道府県別の最新の「保険料額表」を参照します。
会社の健康保険組合の場合は、組合のウェブサイトや案内資料で確認できます。
まとめ
社会保険料とは健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険、労災保険の5つの保険料の総称であり、健康保険料はその中の一つです。
会社員の健康保険料は、標準報酬月額と保険料率を基に計算され、会社と従業員で折半します。
一方、国民健康保険は所得を基に計算され、全額が自己負担となるなど、多くの違いがあります。
これらの保険料は、年末調整や確定申告において社会保険料控除の対象となり、所得税や住民税の負担を軽減する役割も果たしています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


