コラム

【業種別】飲食店の労務管理(労務管理の基本編)

【業種別】飲食店の労務管理(労務管理の基本編)

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第183回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

「うちの業種は、他よりも労務トラブルが多い気がして…」

飲食業の経営者・人事担当者からこうした言葉を聞くたびに、その感覚は決して思い込みではないと感じます。現金を日常的に扱う環境、職人的な気風が根づいた職場文化、感染症リスク、繁閑差の大きい変則的な労働時間。これほど多様な労務上の論点が一つの業種に凝縮している例は、なかなかありません。

飲食店の労務管理において特に注意を要する四つの領域として、「現金・資産の管理」「ハラスメントの防止」「感染症への対応」「労働時間の適正管理」を取り上げ、それぞれの実務上のポイントを整理します。

横領トラブルを防ぐために、飲食店が整えるべき「仕組み」

飲食店の労務相談において、繰り返し持ち込まれる問題の一つが現金にまつわる横領です。レジの近くに常に現金が存在する環境は、管理の目が行き届きにくい時間帯が重なると、見えにくいリスクを生みやすい構造を持っています。

留意すべきは、横領の対象が現金に限らない点です。販売促進用のクーポンを私的に転用する、金券相当の資産を個人的な目的に流用する、売れ残りの商品を無断で持ち帰るといった行為も、広義では同様の問題として捉えられます。そして厄介なのは、こうした行為が「まさかこの人が」と思うスタッフによって行われることが珍しくない点です。接客も調理の質も高く評価されていた店長が、後日横領の発覚によって懲戒処分に至った、というケースは現実に存在します。

対策の起点となるのは、就業規則への明文化です。横領行為が懲戒の対象となり得ることを規定し、採用時や入職後の教育を通じて全スタッフへ周知徹底する。「知らなかった」が通らない環境をルールとして整備することが、抑止力となります。加えて、近年ではキャッシュレス決済に特化することで現金の取り扱い自体をなくす運営モデルを採用する店舗も増えており、仕組みによって不正の余地を構造的に排除するという考え方も実効性があります。

飲食店のハラスメント対策は、職場の「文化」に踏み込むことから

厨房という空間には、職人的なこだわりと厳格さが根づいています。「よいものを作りたい」という職人の熱量は、本来、店舗の品質を支える原動力です。しかしその熱量が、新人スタッフのパフォーマンスへの苛立ちに転化したとき、怒鳴り声や身体的な圧力を伴う言動へと変質することがあります。それはパワーハラスメントにほかなりません。「職人の世界には厳しさがつきもの」という認識は、現代の職場規範においては通用しないものとなっています。

飲食店の構造上もう一点注意が必要なのが、セクシャルハラスメントのリスクです。ホールや接客を女性が担い、厨房管理や管理職を男性が担うという配置になりやすい環境では、立場の非対称性が生まれやすく、不適切な言動や誘いが問題化するケースがあります。こうした事案が本社やチェーン全体の信頼を揺るがす規模に発展することも、決して珍しくありません。厚生労働省はハラスメント防止措置を事業者に義務づけていますが、形式的なガイドラインの整備にとどまらず、定期的な教育と、問題が生じた際の迅速な事実確認・対応体制を実際に機能させることが重要です。ハラスメントへの組織的な対応力こそが、優秀なスタッフの定着を支える基盤となります。

感染症対応と衛生管理に潜む、見落とされやすい労務リスク

食中毒の発生が店舗の存続に直結するリスクであることは、飲食業に携わる方であれば身をもって知るところでしょう。衛生管理への感度の高さはこの業種の特性でもありますが、そこには「労務管理」との接点が潜んでいます。

典型的な場面が、ノロウイルスなどの感染症への対応です。「症状は治まったので出勤したい」とスタッフが申し出る場面は少なくありませんが、保菌の可能性が残る段階での出勤は、店舗全体への感染拡大を招く障害となります。問題はその際の賃金の扱いです。会社の判断で出勤を止めた場合、どこまで賃金を補償するかというルールが就業規則に定められていなければ、いざという局面で経営者とスタッフの双方に混乱が生じます。日常の衛生教育と並行して、休業時の取り扱いを規定として明確にしておくことは、感染拡大の防止とともに、組織としてのリスク対応力を整えることにもつながります。

変形労働時間制の運用リスクと、飲食店の長時間労働問題

「飲食業は長時間労働が当たり前」という認識はかつてよりも薄らいでいますが、実態としての改善度合いは店舗によって大きく異なります。大手チェーンでは労働時間管理の整備が進む一方、中小の飲食事業者では依然として時間外労働のコントロールに課題を抱えているケースが見受けられます。

また、繁閑の波に対応するために変形労働時間制を採用している店舗は多いものの、この制度の設計と運用には一定の専門的な知識が必要であり、形式的な導入では十分ではありません。シフト設計や労働時間の集計方法を誤ると、経営者の意図にかかわらず未払いの残業代が発生している状態に陥ることがあります。離職率の高さゆえに問題が顕在化しにくいという側面もありますが、だからこそ「どこに問題があるか」を能動的に把握し、継続的に是正していく姿勢が求められます。長時間労働の環境にハラスメントが重なれば、メンタル不調を訴えるスタッフが生まれることも自然な帰結です。労働時間の適正管理は、スタッフの健康を守る手段であると同時に、経営上の法的リスクを未然に防ぐ根幹をなす課題です。

まとめ

飲食店の労務管理は、横領の防止、ハラスメントへの対応、感染症対策、そして労働時間の適正管理と、論点の幅が広く、それぞれに実務的な専門知識を要します。これらの課題に共通する出発点は、自社の実態に即した就業規則の整備です。明確なルールを設け、それを組織全体に定着させることが、問題の未然防止とトラブル発生時の対応力、その両面において経営の土台を支えます。

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、飲食業界固有の労務課題を踏まえた就業規則の作成・改定、ハラスメント防止体制の構築、労働時間管理の適正化など、現場の実情に沿ったサポートをご提供しています。「自社の労務管理に不安がある」「就業規則を飲食業の実態に合わせて整えたい」とお感じの経営者・人事担当者の方は、まずは無料相談をご活用ください。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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