このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第8回の配信をもとに書かれた記事です。
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2022年春、長時間残業や残業代未払いなどの理由から大手映画会社が労働基準監督署から是正勧告を受けた報道は、記憶に新しいのではないでしょうか。
今回はこの報道を元に「裁量労働制」について解説していきます。
裁量労働制とは
裁量労働制とは限られた業務や職種に適用できる制度で、労働者自身が仕事の進め方や時間配分を自分で決められる制度です。(裁量労働制ではない)通常の働き方の場合、会社や上司から仕事の進め方や働く時間は強くコントロールされます。裁量労働制が適用されている場合、このコントロールが弱まり、労働者の働き方の自由度が増します。その代わりに「実際の労働時間が、契約上の労働時間と比較して、短い場合でも長い場合でも、契約上の労働時間を働いたものとしてみなします」という制度です。
裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類あります。
報道では、専門性が高い職業に適用できる「専門業務型裁量労働制」が問題となりました。今回のコラムでは専門業務型裁量労働制についてお伝えしていきます。
まず厚生労働省による「専門業務型裁量労働制」の定義をご紹介します。
「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」
出典:「専門業務型裁量労働制」厚生労働省
この制度の対象となる職業は、弁護士や公認会計士などの士業や、デザイナー、テレビや映画のディレクターなど、19の職業が当てはまります。
今回の報道で何が問題だったのかを次の見出しから解説します。
報道内容の問題点
今回の報道のケースが、なぜこのようなトラブルになってしまったのか。
それは、報道にあった従業員は法律上、裁量労働制が適用できない状況にもかかわらず、会社が裁量労働制を適用できると判断した点だと思われます。
その従業員はアシスタントディレクター、いわゆるADという報道です。ADはディレクターの指示を受けて仕事をすることが一般的です。このため裁量権はあまりないと推測されます。そうなると「大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」とはいえないため、専門業務型裁量労働制が適用できません。
裁量労働制に対する経営者のよくある誤解
多くの経営者が誤解していることがあります。それは、「どんな労働者にも裁量労働制が適用できて、その従業員が何時間働いたとしても、追加で給与を支払わなくていい」という誤解です。
裁量労働制が適切に運用されている場合、実際の労働時間が契約上の労働時間を超えても、残業代を支払う必要はありません。しかし、裁量労働制が適切に運用されていない場合、会社は従業員に残業代を支払う必要があります。
休日出勤や深夜労働には、裁量労働制が適用できない点も注意が必要です。タイムカードなどで従業員の労働時間を把握し、休日出勤や深夜労働の割増賃金の支払いが必要となります。
裁量労働制を適用する時の注意点
裁量労働制を完璧に運用している会社は、珍しいという印象です。例えば、法律上作成が必要な書類が正しい手順で作成されていないケースや法律的に適用できない職種の労働者に適用しているケースをよくみかけます。
従業員が労基署に相談し、そこから調査に発展し、不適切な裁量労働制の運用が発覚し、会社が高額な残業代を支払うケースは珍しくありません。
上述のリスクを回避するためにも、無理に裁量労働制を適用することは絶対にやめましょう。毎月の人件費を一定金額にコントロールしたい場合、賛否両論ありますが固定残業手当を導入することが考えられます。
裁量労働制を適用する場合は以下の2点に注意しましょう。
- 裁量労働制が適用される職種や業務と一致しているか
- 就業規則や労使協定書の内容など導入手順が正しいかどうか
まずは厚生労働省のサイトを確認しましょう。導入手順はいくつかの複雑な手続きをおこなう必要があります。
まとめ
今回は「裁量労働制」について解説しました。
大きなポイントとして、「裁量を決める権利は、経営者ではなく労働者にある」ことを知っていただきたいです。
裁量労働制が適用できる否かの判断が難しい状況も珍しくありません。私の意見としては、裁量労働制を使わずに済むのならそれがよいと思っています。ただ、会社にとっては労務管理がしやすい、労働者にとっては働きやすいなどのメリットもあります。適用する場合は、専門家に相談した上での導入をおすすめします。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。効率的な労務管理の手法を広めつつ、自ら会社経営を実践するために社会保険労務士法人ONE HEARTを設立し独立開業。