給与計算のやり方は、複雑で専門的な知識が必要だと思われがちですが、正しい手順と基礎知識を身につければ、初心者でも対応可能です。
この記事では、給与計算の具体的な手順をステップごとに解説し、担当者が押さえておくべき基本ルールや注意点も網羅的に紹介します。
正確な給与計算は従業員との信頼関係の基盤となるため、しっかりとした知識を身につけることが重要です。
まずは全体の流れを把握し、一つひとつのステップを着実に進めていきましょう。
給与計算とは?全体の流れを3ステップで理解しよう
給与計算の流れは、大きく3つのステップに分けることで、全体のフローをわかりやすく理解できます。
まず「総支給額の計算」で基本給や各種手当を合計し、次に「控除額の計算」で社会保険料や税金を算出します。
最後に、総支給額から控除額を差し引いて「差引支給額(手取り額)の決定」を行います。
この基本的な給与計算の流れを把握することが、正確な実務を進めるための第一歩となります。
【5ステップ】初心者でもわかる給与計算の具体的なやり方
初めて給与計算を行う方でも、正しい方法と手順に沿って進めれば、簡単かつ正確に業務を完結させることが可能です。
ここからは、実務で必要となる具体的な給与計算の方法を5つのステップに分けて解説します。
勤怠データの集計から給与の支払いまで、一つずつ確認しながら進めていきましょう。
ステップ1:従業員の勤怠データを正確に集計する
給与計算の最初のステップは、従業員の勤怠データを正確に集計することです。
タイムカードや勤怠管理システムから、出勤日数、労働時間、残業時間、休日出勤、深夜労働時間、欠勤、遅刻、早退などの情報を収集・入力します。
労働基準法では、労働時間は原則として1分単位で管理する必要があり、会社が一方的に労働時間を30分単位で切り捨てるなどの処理は認められません。
週40時間の法定労働時間を超える勤務は残業として割増賃金の計算対象となるため、勤怠の集計はすべての計算の土台となる重要な作業です。
ステップ2:総支給額(額面給与)を算出する
勤怠データを基に、従業員に支払う総支給額を計算します。
総支給額は、基本給に加えて、役職手当、資格手当、通勤手当などの各種手当を合計したものです。
時間外労働、休日労働、深夜労働があった場合には、労働基準法で定められた割増率を乗じた割増賃金を算出し、加算します。
一方で、欠勤や遅刻、早退があった場合は、就業規則の定めに従って給与から控除する計算も行います。
これらの要素をすべて合算したものが、税金や社会保険料が引かれる前の給与総額となります。
ステップ3:天引きされる控除額を計算する
総支給額が確定したら、次にそこから天引きする控除額を計算します。
控除する項目の主な内容は、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料といった社会保険料と、所得税、住民税の税金です。
社会保険料は、標準報酬月額に最新の保険料率をかけて算出します。
所得税は源泉徴収税額表を基に従業員の扶養家族の人数などに応じて計算し、住民税は前年の所得を基に市区町村が決定した金額を通知書に従って天引きする手続きとなります。
ステップ4:差引支給額(手取り額)を確定させる
総支給額と控除額の計算が終わったら、最終的に従業員へ支払う差引支給額を確定させます。
差引支給額は、一般的に「手取り額」と呼ばれるもので、「総支給額−控除額合計」の計算式で算出されます。
この金額が、従業員の銀行口座に実際に振り込まれる金額です。
計算ミスは従業員の生活に直接影響するため、総支給額の各項目や控除額に誤りがないか、最終確認を念入りに行うことが不可欠です。
ステップ5:給与明細書を作成し従業員へ支払う
差引支給額が確定した後、経理担当者は給与明細書を作成し、従業員に交付します。
給与明細書には、総支給額、控除額、差引支給額の内訳を明記する必要があり、所得税法により交付が義務付けられています。
明細書の準備と並行して、定められた支払日に従業員の指定口座へ給与を振り込む手続きを進めます。
例えば支払日が30日の場合、当日の0時には引き出せるよう、金融機関の営業日を考慮して前日までに手続きを完了させるのが一般的です。
給与計算を始める前に押さえておくべき4つの基本ルール
給与計算は、単に計算作業を行うだけでなく、労働基準法をはじめとする法律に基づいた基本ルールを守る必要があります。
これらのルールを理解せずに業務を進めると、意図せず法令違反となってしまうリスクがあります。
実務を始める前に、すべての企業に共通する4つの重要な基本ルールを必ず押さえておきましょう。
ルール1:賃金支払いの五原則を守る
給与を支払う際は、労働基準法第24条で定められている「賃金支払いの五原則」を遵守しなければなりません。
この原則は、正社員やパート・アルバイトといった雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されます。
原則の内容は、通貨で支払う「通貨払いの原則」、労働者に直接支払う「直接払いの原則」、全額を支払う「全額払いの原則」、毎月1回以上支払う「毎月1回以上払いの原則」、決まった期日に支払う「一定期日払いの原則」の5つです。
ただし、労働者の同意があれば銀行口座への振り込みも認められています。
ルール2:都道府県ごとの最新の最低賃金を確認する
従業員に支払う賃金は、事業所が所在する都道府県の最低賃金額を上回っている必要があります。
最低賃金は原則として毎年10月1日に改定されるため、常に最新の金額を確認し、自社の給与体系が基準を満たしているかチェックすることが不可欠です。
特に、時給制のパート・アルバイトの給与を計算する際は注意が必要です。
また、社会保険料率は毎年3月や4月に、労働保険の年度更新は6月から手続きが始まるなど、年間を通して法改正の動向を把握しておく必要があります。
ルール3:労働時間の端数処理ルールを把握する
労働時間の管理は、労働基準法に基づき1分単位で行うのが原則です。
ただし、事務処理を簡素化するため、1ヶ月における時間外労働、休日労働、深夜労働の総労働時間数について、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは例外的に認められています。
ルール4:給与計算に関する書類は法律で定められた期間保存する
給与計算に関連する書類は、法律によって保存期間が定められています。
具体的には、賃金台帳、労働者名簿、タイムカードなどの勤怠記録といった労働関係の重要書類は、労働基準法により5年間(当分の間3年)の保存が義務付けられています。
また、源泉徴収簿や扶養控除等申告書などの税務関連書類は、国税通則法により7年間の保存が必要です。
これらの法定保存期間を遵守し、適切な管理スケジュールを立てて保管しなければなりません。
給与計算でミスを防ぐための3つの重要チェックポイント
給与計算は1円の誤差も許されない、極めて正確性が求められる業務です。
計算ミスや手続きの漏れは、従業員からの信頼を損なうだけでなく、法的な問題に発展する可能性もあります。
ここでは、給与計算で起こりがちなミスを防ぎ、トラブルを未然に回避するために特に注意すべき3つの重要チェックポイントを解説します。
法改正による保険料率の変更を見逃さない
社会保険料率は毎年見直されるため、法改正による変更点を見逃さないように注意が必要です。
特に、健康保険料率は都道府県ごとに異なり、毎年3月分(4月納付分)から改定されるのが通例です。
また、雇用保険料率も社会情勢に応じて年度で変更されることがあります。
これらの料率を古いまま計算してしまうと、控除額に誤りが生じ、後日、追加徴収や還付といった煩雑な手続きが発生するため、常に最新の情報を確認する癖をつけましょう。
従業員の入退社や扶養家族の変更を正確に反映する
従業員の状況変化を給与計算にタイムリーに反映させることも重要です。
月の途中で入社または退社した従業員がいる場合、給与の日割り計算が必要になることがあります。
また、結婚、出産、子供の独立などにより扶養家族の人数に変動があった場合、所得税の計算が変わります。
パート従業員の労働条件の変更によって社会保険の加入義務が発生するケースもあります。
これらの人事情報を正確に把握し、給与データに速やかに反映させる仕組みを整えておくことがミスの防止につながります。
計算ミスや転記漏れがないかダブルチェックを徹底する
手計算やExcelで給与計算を行っている場合、単純な計算ミスや入力ミス、転記漏れといったヒューマンエラーは避けられません。
これらのミスをなくすためには、複数人によるダブルチェック体制を構築することが最も効果的です。
担当者自身が計算後に見直しを行うのはもちろん、別の担当者が客観的な視点で再度確認することで、間違いを簡単に発見しやすくなります。
チェックリストを作成し、それに沿って確認作業を進めることで、チェック漏れを防ぎ、業務の精度を高めることが可能です。
給与計算の負担を減らすための効率的な方法
毎月の給与計算は、法改正への対応や複雑な計算が求められるため、担当者にとって大きな業務負担となります。
特に、リソースが限られる中小企業では、手作業によるミスや属人化が課題となりがちです。
ここでは、そのような負担を軽減し、より正確で効率的な給与計算を実現するための具体的な方法を紹介します。
給与計算ソフトを導入して作業を自動化する
給与計算ソフトとは、勤怠データや従業員情報を入力するだけで、総支給額から社会保険料、税金を自動で計算してくれるシステムのことです。
最大のメリットは、毎年のように行われる法改正や保険料率の変更に自動でアップデート対応してくれる点にあります。
freee人事労務のようなクラウド型のソフトであれば、インターネット環境さえあれば場所を選ばずに作業でき、Webサイトから簡単に申し込みが可能です。
手作業による計算ミスや法改正の確認漏れを防ぎ、業務を大幅に自動化できます。
Excelのテンプレートを活用して計算ミスを減らす
コストを抑えながら効率化を図りたい場合には、Excelのテンプレートを活用する方法も有効です。
インターネット上には、給与計算用に数式が組まれた無料のテンプレートが多数公開されています。
これらを利用すれば、一から計算式を組む手間が省け、手計算に比べて計算ミスを減らすことができます。
ただし、社会保険料率の変更や法改正があった際には、自分で料率や計算式を更新する必要があるため、その管理は自己責任となります。
給与計算に関するよくある質問
ここでは、給与計算の担当者が疑問に思いやすい点について、よくある質問形式で回答します。
給与計算はいつまでに行う必要がありますか?
給与計算は、就業規則などで定められた給与支払日までに、従業員への支払いが完了するように逆算して終わらせる必要があります。
一般的には、給与支払日の5〜10営業日前までには計算を確定させ、振込手続きや給与明細書の作成に取り掛かります。
定められた期日を守ることが給与支払いにおける基礎となります。
給与計算を間違えた場合、どのように対処すればよいですか?
計算ミスが発覚した場合、速やかに該当従業員へ誠実に謝罪し、間違いの内容と正しい金額を説明することが重要です。
不足分については、次回の給与で精算するか、別途早急に支払います。
過払い分は、従業員の同意を得た上で次回の給与から相殺するか、返金してもらう手続きを取ります。
迅速で誠実な対応が基礎です。
パートやアルバイトの給与計算で特に注意すべき点は何ですか?
パートやアルバイトの給与計算では、労働時間や日数などの条件によって社会保険の加入義務が発生する点に注意が必要です。
また、時給が事業所の所在地の最低賃金を下回っていないか、常に確認しなくてはなりません。
年次有給休暇の付与日数も、所定労働日数に応じた比例付与となるため、正社員とは異なる管理が基礎となります。
まとめ
給与計算は、従業員の勤怠データを集計し、総支給額、控除額、そして差引支給額を順に算出する流れで進めます。
業務を遂行する上では、賃金支払いの五原則や最低賃金といった労働基準法の基本ルールを遵守することが不可欠です。
また、社会保険料率の改定など、法改正の情報を常に把握し、計算に正確に反映させなければなりません。
これらの基礎を理解し、給与計算ソフトなどを活用することで、ミスを減らし効率的な業務を実現できます。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


