このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第157回の配信をもとに書かれた記事です。
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「社員が体調不良で長期欠勤になりそうなのですが、どこから手をつければよいのかわからなくて…」
このような相談を、労務担当の方からいただくことがあります。休職は、会社や本人の双方にとって、手続き・気持ちの面において負担が重くなりやすい局面です。だからこそ、対応を誤ると後になって深刻なトラブルに発展することがあります。
休職制度は、正しく運用することで会社と社員の双方を守る仕組みになります。今回は、休職の入口となる手続きから復職の判断に至るまで、労務担当の方が押さえておきたい実務のポイントを順を追って整理します。
休職制度とは何か|「解雇の猶予」という本質を理解する
まず押さえておきたいのが、休職制度そのものの意義です。一言で言えば、休職制度とは、「解雇を一時的に猶予する制度」というのが最もわかりやすい説明になります。
労働契約の根本は、会社が賃金を支払い、労働者がその対価として働くという相互の約束です。病気やケガによって働けない状態が続けば、その約束を果たせなくなります。契約の原則に照らせば、解雇という対応が選択肢として浮かび上がること自体は、やむを得ないことす。
しかし、採用から研修・教育に至るまで時間をかけて育ててきた社員を、体調不良を理由にすぐに退職させてしまうのは、経営的な観点からも大きな損失です。一定期間の休みを認め、回復を待ちながら復職を目指す道を設ける。それが休職制度の本来の意義です。
適切に運用することで、「この会社は自分のことを大切にしてくれる」という社員の安心感にもつながります。その安心感は組織全体の信頼関係を支える土台となり、人材の定着や職場風土の向上にも寄与します。休職制度は単なる手続きのルールではなく、会社と社員が長期的な関係を築いていくための仕組みとして捉えることが大切です。
就業規則に基づく入口手続きが、休職トラブルを防ぐ
休職の実務において最初に徹底すべきことは、就業規則に定められたルール通りに手続きを進めるという点です。
たとえば、就業規則に「一定期間の欠勤を経てから休職へ移行する」という条件が設けられている場合、その要件を満たした上で休職に入ることが前提となります。実務でよく見られるのが、一か月欠勤で休職という休職ルールで、その一か月間の全部または一部について年次有給休暇をさせ、本来の要件を満たさないまま休職扱いにしてしまうケースです。
後から退職手続きを進める段階で「そもそも休職の入口の手続き自体に問題があったのではないか」と指摘されると、話は振り出しに戻り、大きなトラブルへと発展します。本人の権利を守りながら、同時に会社自身を守るためにも、就業規則に沿った正確な運用を徹底することは欠かせません。
また、休職が決まった際には書面の交付も重要なステップです。休職命令書や休職辞令を作成し、開始日・期間・期間中の条件を記録として残しておくことで、後々のトラブルを予防できます。「口頭では伝えた」という状態は、時間が経つにつれて双方の記憶が食い違う原因になります。書面で残すことを日頃から習慣づけておきましょう。
休職期間中の連絡体制と費用負担は、事前に共有しておく
休職中のコミュニケーション方法も、あらかじめルールを整えておくことが欠かせません。
特にメンタル不調で休職している場合、複数の担当者からたびたび連絡が届くと、それ自体がストレスとなり回復を遅らせてしまうことがあります。会社側の連絡窓口を一名に絞り、連絡手段もメールや郵送といった特定の方法に限定しておくとよいでしょう。窓口が一本化されていると、本人も連絡を受け取りやすく、情報の行き違いも防ぐことができます。
あわせて、休職を開始する前に本人と確認・共有しておくべき事項があります。休職期間中は原則として無給になること。社会保険料や住民税の自己負担分をどのように精算するか。そして、休職期間が満了しても復職できない場合は退職になる可能性があること。これらを丁寧に説明し、本人が心の準備を整えられるよう合意形成のプロセスを踏むことが、後のトラブル防止に直結します。「そんな話は聞いていなかった」という事態は、説明不足から生まれます。
なお、業務外の傷病による休職の場合、健康保険から傷病手当金が支給される可能性があります。本人への案内をあわせて行っておくと、経済的な不安が和らぎ、安心して療養に専念してもらいやすくなります。
復職の可否判断は会社が行う|主治医・産業医との連携を丁寧に
復職の判断は、休職対応の中で最も見解が食い違いやすいプロセスです。ここでひとつ押さえておきたいのは、復職させるかどうかの最終的な可否判断は会社が行うという点です。
主治医の診断書は重要な判断材料であり、復職判断において最も重視すべきものです。ただし、主治医は「特定の会社の具体的な業務を遂行できるか」まで把握しているとは限らないという可能性があります。
産業医が選任されている場合には、会社の業務内容を踏まえた医学的な見解を得ることが有効です。主治医と産業医の意見を総合的に参考にしながら会社が最終判断を行うことで、リスクを抑えた意思決定につながります。
主治医から「復職可能」という診断書が出ていても、現場として「現時点での業務対応は難しい」と感じる場合には、ひとつ有効な手段があります。本人の同意を得た上で、会社の具体的な業務内容を書面にまとめて主治医へ伝え、改めて見解を確認するという方法です。夜間業務や車両の運転を伴う職種など、特殊な条件がある場合はとりわけ、この情報共有が判断を左右することがあります。主治医が会社の実情を正確に把握できるよう、丁寧に情報を整理して共有するひと手間が、会社と本人の双方にとって適切な対応へとつながるのです。
まとめ
休職制度の運用は、入口の手続きから復職・退職の判断に至るまで、丁寧さと正確さが求められる実務です。就業規則に基づいた手続きを着実に踏み、主治医や産業医と情報を適切に共有しながら進めることが、安定した労務管理の土台になります。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、休職制度の設計や就業規則の整備、個別ケースへの対応についてご相談を承っております。状況が複雑な事案でも、貴社の実情を丁寧に伺いながら、ともに対応策を検討します。「うちのケースはどう考えればいい?」と思うことがあれば、ぜひホームページよりお気軽にお問い合わせください。初回のご相談は無料です。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


