このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第95回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
休憩時間の原則と法律の「盲点」
まずは休憩時間の基本を振り返ってみましょう。労働基準法では、労働時間が8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を与えなければならないという原則があります。また、休憩は自由に利用させなければならず、一斉に与えることが基本とされています。
しかし、ここに意外な「盲点」が存在します。実は、休憩時間には法的な上限の規制がないのです。極端な話をすれば、1日の休憩時間が5時間であったとしても、それ自体が即座に違法となるわけではありません。もちろん運送業などのように拘束時間の上限がある業種は例外ですが、原理原則としては休憩をいくら長く設定しても違法というわけではないのです。
この仕組みが、場合によっては望ましくない形で運用されているケースが見受けられます。法律上は問題がなくても、従業員の満足度や人材定着という観点から見ると、大きな課題を抱えている企業が少なくありません。

長すぎる休憩が生む従業員の不満と人材流出リスク
休憩が長くなりやすい代表的な業種が飲食業です。ランチとディナーの両方を営業している場合、その間の2時間から3時間をすべて休憩時間として設定していることがあります。また、学習塾の講師なども同様です。午前9時から1時間の授業を行い、次の授業が13時である場合に、その間の3時間を休憩とするようなケースです。
このような運用を行えば、企業側が支払う給与は実働した時間分だけで済みます。本当にその時間を自由に利用させていれば形式上は法令に沿った運用といえますが、働く側からすれば不満が溜まります。「拘束時間は長い」、「自由時間とはいえ職場に戻らなければならないため行動範囲が限られる」といった不満が生じやすくなります。
現代は激しい人材獲得競争の中にあります。他業界に人材を奪われないためにも、「法律上問題ないから」という理由だけで長い休憩を強いる運用は見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。従業員の満足度を高め、人材を定着させることこそが、企業の持続的な成長につながります。

休憩中の作業は労働時間、未払い賃金のリスクに要注意
特に注意が必要なのは、休憩の実態です。例えば建設現場などでは、拘束時間が長く労働時間が長くなりやすいため、昼の休憩の1時間に加えて、午前と午後にさらに15分前後の休憩時間を設定し、その休憩時間を「労働時間ではない」と整理している場合があります。狙いは残業時間の減少です。しかし、ここで重要なのは「本当に休憩が取れているか」という点です。
使用者の指揮命令下にある時間は休憩ではありません。就業規則や雇用契約上、休憩時間中であっても、会社の指示で業務に従事している場合は労働時間として扱う必要があります。
こうした運用を放置していると、後に従業員から未払い賃金として多額の請求を受けるリスクがあります。私としても、社労士としてこのような不安定な運用は決してお勧めできません。休憩時間と労働時間の区別を明確にし、適切な給与計算を行うことが、企業のリスク管理として極めて重要です。
時代に合った休憩のあり方を考える
個人的見解ですが、現在の労働基準法が定める休憩のあり方は、今の時代にそぐわなくなっている側面もあると感じています。例えば、1日の休憩が5時間もあるような不自然な状態であれば、その拘束時間に対して一定の補償を支払うような仕組みがあっても良いのではないでしょうか。
一方で、「8時間超えなら1時間の休憩」というルールそのものにも疑問を持っています。当法人で働く30代・40代の子育て世代のスタッフを見ていると、「1時間丸々休憩するくらいなら、休憩を30分に短縮して、その分30分早く帰って家事を済ませたい」と考える人もいます。
もちろん、すべての業種で休憩を短縮すべきだと言いたいわけではありません。例えば建設業のように、一歩間違えれば命に関わるような現場仕事であれば、集中力を維持するために現行通りのしっかりとした休憩が必要です。
しかし、事務職などのデスクワークであれば、労使協定や就業規則を適切に整備することを条件に、より柔軟な休憩時間の設定があっても良いのではないでしょうか。一律の規制ではなく、労働者の安全確保と「早く帰りたい」という現代的なニーズの双方を汲み取った、業種ごとの適切な設計が求められています。こうした働き方のデザインこそが、これからの企業経営における重要な鍵となります。

まとめ
休憩時間の運用は、一見単純に見えて、実は企業のコンプライアンスリスクと従業員満足度に直結する非常に深いテーマです。法律上問題がないからといって、長すぎる休憩時間を設定していると、人材流出のリスクが高まります。また、休憩時間中に業務を行わせている場合は、未払い賃金や労働時間管理上の重大な問題を引き起こす恐れがあります。
現代の人材獲得競争を勝ち抜くためには、従業員が働きやすいと感じる環境を整えることが不可欠です。休憩時間のあり方を見直すことは、その第一歩となります。
私たち社会保険労務士法人ONE HEARTでは、急成長を遂げる企業の皆様が後悔しない働き方を設計できるよう、法的な誠実さを保ちながら、現場の実態に即したアドバイスを提供しています。休憩時間の運用や拘束時間の長さに不安を感じている経営者様、または人材定着に課題をお持ちの担当者様は、ぜひ一度当社のホームページからお問い合わせください。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


