コラム

【労務DX】社歴の長い会社のDXについて

【労務DX】社歴の長い会社のDXについて

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第89回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

はじめに

「うちは昔ながらの会社だから、IT化なんて無理だよ」

労務相談の現場でこんな言葉を聞くたびに、私は少し残念な気持ちになります。

長年続いてきた企業だからこそ、今変わらなければならない切実な理由があるのです。本コラムでは、老舗企業が労務DXを成功させるための具体的なステップを、実例を交えながら解説します。

衝撃の事実:人事労務のDX導入率は2割程度

労務管理分野におけるHRテクノロジーの導入率は、2割程度に留まっているというデータがあります。

つまり、日本の企業の約8割は、いまだに紙やExcel、あるいは手書きといったアナログな手法で従業員の勤怠や給与を管理しているということです。

当社のクライアント様においては、ほぼ全ての企業がクラウドシステムを導入し、効率化を実現されています。そのため、私自身この数字を見たときは大変驚きました。

しかし、現実はそう甘くありません。特に、創業から数十年続く「社歴の長い会社」ほど、このDXの波に乗り遅れている傾向が顕著に見られます。

なぜ、歴史ある企業ほど新しい技術の導入が阻まれてしまうのでしょうか。その背景には、単なる「食わず嫌い」では済まされない、構造的な課題が潜んでいます。

なぜ社歴の長い会社ほど労務DXが進まないのか

社歴の長い企業でDXが進まない理由は、「現状のやり方で業務が回ってしまっていること」にあります。

創業当時から在籍しているベテランの事務員さんが、複雑な給与計算や社会保険の手続きを、独自のやり方で完璧にこなしているケースをよく見かけます。経営者からすれば、「問題が起きていないなら、お金をかけてシステムを入れる必要はない」と考えるのも無理はありません。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。それは「業務の属人化」と「ローカルルール」の存在です。

長年の歴史の中で、こんな独自ルールが積み重なっていませんか?

Aさんは昔の約束で特別手当がついている、Bさんは遠方だから遅刻のペナルティを免除している、といったローカルルールです。

こうした例外処理の塊は、標準化されたパッケージシステムにとって「天敵」です。システムに入れようとしても、「この手当の計算式はシステムでは再現できない」という壁にぶつかり、結局導入を断念してしまう。これが、多くの長寿企業が陥るDX失敗のパターンです。

「ローカルルールがあっても、ベテランの事務員さんに任せておけば安心」は危険

「ローカルルールがあっても、ベテランの事務員さんに任せておけば安心」という考え方は、今後の経営においてリスクとなり得ます。

その理由は、外部環境の変化にあります。

まず、採用難の加速です。

かつて事務職といえば、1つの求人に多数の応募が殺到する人気の職種でした。しかし現在は、少子高齢化による生産年齢人口の減少に伴い、状況は一変しています。

先行してデジタル化が進んでいる会計分野では、すでに簿記の資格を持つような基礎スキルがある人材の採用すら困難になっています。この波は確実に労務分野にも押し寄せています。

「紙とハンコで仕事をする会社」と「クラウドでスマートに働ける会社」、若く優秀な人材がどちらを選ぶかは明白です。テクノロジーを導入していないというだけで、採用の土俵にすら上がれない時代が来ているのです。

次に、人件費の高騰です。

最低賃金は年々大幅に引き上げられており、今後も上昇傾向が続くと見られています。付加価値を生まない事務作業に高コストな人件費をかけ続けることは、企業の利益を直接圧迫します。

さらに見落とせないのが、「ベテラン社員が突然いなくなるリスク」です。

病気や介護、あるいは予期せぬ退職など、どんなに優秀な方でもいつかは職場を離れる日が来ます。その際に、誰も業務を引き継いでいないまたは引き継ぐことができない状態では、会社の機能が一瞬で麻痺してしまいます。

労務DX成功の鍵は「ツール導入」ではなく「物語」の構築

では、ローカルルールだらけの長寿企業は、どうやってDXを進めればよいのでしょうか。

やってはいけないのは、「システムを入れるから、明日からこの手当を廃止します」と一方的に通告するというやりかたです。これは労働条件の不利益変更にあたり、従業員の同意が得られないばかりか、法的なトラブルに発展する可能性が高くなります。

重要なのは、制度変更に向けた「物語」を作ることです。

単に「効率化したい」という会社都合ではなく、経営理念やビジョンに基づいた「大義名分」を掲げてください。

例えば、

「会社が次の世代を生き残るために、不透明な手当を整理し、頑張った人が正当に報われる評価制度を作りたい」

このように、制度変更を「未来への投資」として位置づけ、従業員に誠実に説明することが不可欠です。

不明瞭な手当を廃止する代わりに、明確な評価基準に基づく新しい給与体系を提示し、「こうすれば給与が上がる」という道筋を見せることで、従業員の納得感を得ることができます。

急激な環境の変化を緩和する措置で人件費の壁を乗り越える

新しい制度へ移行する際、どうしても給与が下がってしまう従業員が出てくることがあります。その場合、いきなり給与を下げるのではなく、「急激な環境の変化を緩和する措置」を設けることが実務上のポイントです。

具体的には、新制度との差額を「調整手当」として支給し、数年程度の期間をかけて段階的に減額・解消していく方法があります。

「3年は全額保証します。その間に新しい評価制度で成果を出し、自力で給与を上げてください」

このように猶予期間を設けることで、従業員の生活を守りながら、スムーズな移行を図ることができます。

また、正確な勤怠システムを導入すると、これまであいまいだった残業管理が厳格化され、一時的に人件費が跳ね上がるケースがあります。

これを防ぐためにも、固定残業代制度の導入や基本給の見直しなど、緻密なシミュレーションが必要です。ここは非常に専門性が高い領域ですので、専門家の知見を借りることをおすすめします。

労務DXで得られる3つのメリット

労務DXのメリットは、単なる事務作業の効率化だけではありません。

業務効率化とコスト削減

クラウドシステムを導入することで、給与計算や勤怠管理にかかる時間を削減できます。ベテラン社員に依存していた業務を標準化することで、誰でも対応できる体制が整います。

事業継続計画(BCP)の強化

クラウドシステムであれば、災害時やパンデミック時でもリモートで給与計算が可能になります。BCP(事業継続計画)の観点からも極めて強固な組織を作ることができます。

採用力の向上

法令を遵守したクリアな労務管理は、企業の社会的信用を高め、「選ばれる企業」としてのブランド力を向上させます。特に若い世代にとって、デジタル化された働きやすい環境は大きな魅力です。

まとめ:労務DXは企業の生存戦略そのものです

社歴の長い会社にとって、長年の慣習を変えることは確かに大変です。しかし、その痛みを乗り越えた先には、次の時代を生き抜くための強い組織が待っています。

ポイントをまとめると、労務DX導入率は約2割で、特に社歴の長い会社ほど遅れている傾向にあります。ベテラン依存と採用難は深刻な経営リスクであり、成功のカギは「物語の構築」と「急激な環境の変化を緩和する措置」にあります。労務DXは効率化だけでなく、BCP強化や採用力向上にもつながる重要な施策です。

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、単なるツールの導入支援にとどまらず、貴社の歴史と文化を尊重しながら、人事制度設計と労務DXの実現をサポートいたします。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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