コラム

役員 社会保険の加入義務と条件を解説|報酬ゼロの場合は?

役員 社会保険の加入義務と条件を解説|報酬ゼロの場合は?

会社の役員になった場合、社会保険への加入義務があるのか、また加入条件はどうなっているのかは、多くの経営者が直面する疑問です。
特に役員報酬がゼロの場合や少額の場合の取り扱いについては、正確な知識が求められます。
この記事では、役員の社会保険に関する加入義務の原則から、報酬額に応じた保険料の計算、未加入時のリスクまで、網羅的に解説します。

会社の役員は社会保険への加入が原則として義務

法人の場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は法律で定められた義務です。
これは強制適用事業所と呼ばれ、株式会社や合同会社はもちろん、一般社団法人なども含まれます。
企業の規模は関係なく、たとえ社長役員1人の会社であっても、法人を設立した時点で社会保険への加入義務が生じます。

従業員が51人以上といった条件も関係なく、中小企業も法人化すれば強制適用の対象となります。
会社設立や法人化を検討する際は、役員自身の社会保険加入が必須であると認識しておく必要があります。

社会保険への加入義務が発生する役員の具体的な条件

役員が社会保険の被保険者となるかどうかは、その働き方の実態に基づいて判断されます。
会社の取締役や理事などに就任し、法人から労働の対償として報酬を受けていれば、原則として加入対象です。
形式上の役職だけでなく、実質的に経営に参加している「みなし役員」も同様に扱われることがあります。

社会保険の加入要件は、常勤か非常勤か、また報酬の額など、いくつかの条件によって変わるため、個別のケースに応じた確認が必要です。
この要件を満たす場合、役員は被保険者として加入手続きを行わなければなりません。

常勤役員は報酬があれば加入対象となる

常勤の役員は、法人から労務の対価として報酬を受けている場合、原則として社会保険の加入対象となります。
「常勤」に明確な労働時間の定義はありませんが、代表取締役のように会社の経営に日常的に従事し、役員室などを有して継続的に業務を行っている状態を指します。

たとえ出勤日数が少なくても、経営の主要な意思決定に関与し、それに対する報酬が支払われていれば、常勤性が高いと判断され、社会保険への加入が必要です。

非常勤役員の加入義務を判断する3つの基準

非常勤役員の社会保険への加入義務は、勤務実態に基づいて個別に判断されます。
主な判断基準は以下の3つです。
第一に、会社の事業所に定期的に出勤しているか。
第二に、会社の経営に関与しているか。

これには、役員会への出席や重要事項の決定への参画などが含まれます。
第三に、受けている報酬が労務の対価としての性格を持つか。
これらの基準を総合的に勘案し、常勤役員と同様の勤務状態にあると判断されれば、非常勤であっても加入義務が発生します。
単に名目上の役員で、労働時間が極端に短い場合は対象外となることもあります。

役員報酬がゼロまたは支払えないほど少額の場合の取り扱い

役員報酬がゼロの場合は、社会保険料の算定基礎となる報酬が存在しないため、社会保険に加入することはできません。
したがって、加入は不要です。
同様に、報酬が支払われていても、その額が著しく低額で、健康保険・厚生年金保険の最も低い標準報酬月額の等級に満たない場合も、保険料を計算・徴収できないため加入しない扱いとなります。

この場合、役員は国民健康保険と国民年金に加入することになります。
保険料が免除されるわけではなく、加入する制度が変わると理解しておく必要があります。

役員の社会保険料はいくら?計算方法と報酬月額別の具体例

役員の社会保険料の金額は、毎月の役員報酬の額を基に計算されます。
この報酬には、給与や役職手当など、労働の対価として会社から受ける全てが含まれます。
計算された保険料は、会社と役員個人が半分ずつ負担する「労使折半」が原則です。

つまり、役員個人の負担額と同額を、会社も負担する必要があります。
したがって、会社経営の観点からは、役員報酬を設定する際に、会社負担分の社会保険料もコストとして考慮することが重要です。

保険料の基準となる「標準報酬月額」の仕組みと決まり方

社会保険料は、実際の報酬額そのものではなく、「標準報酬月額」という区分に当てはめて計算されます。
標準報酬月額は、役員報酬を一定の範囲で区切った等級のことで、毎年4月〜6月の報酬月額の平均を基にその年の9月から翌年8月までの標準報酬月額が決定されます。

また、会社設立時や役員就任時、あるいは事業年度の途中で役員報酬を大幅に変更した際にも見直されます。
年3回以下の賞与に対しても、税引前の総支給額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」を基に保険料が計算されます。
報酬変更は社会保険料に直接影響します。

【報酬月額別】社会保険料のシミュレーション早見表

社会保険料が具体的にいくらになるのか、東京都の協会けんぽ(令和6年度)を例に見てみましょう。
保険料は、報酬月額を「標準報酬月額」に当てはめて算出します。
例えば、報酬月額が30万円の場合、標準報酬月額は30万円となり、健康保険料(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)と厚生年金保険料の合計は約88,000円、本人負担はその半分の約44,000円です。

社会保険料には最低等級があり、報酬が例えば8万円でも標準報酬月額は88,000円として計算されます。

役員と従業員では違う?社会保険と労働保険(雇用保険・労災保険)の関係

役員と従業員では、社会保険の扱いに大きな違いがあります。
健康保険や厚生年金といった「社会保険」については、役員も従業員も加入要件を満たせば被保険者となる点は共通しています。
しかし、「労働保険」と総称される雇用保険と労災保険の扱いは根本的に異なります。

労働保険は、労働者の保護を目的とした制度であるため、原則として使用者である役員は対象外となります。
この違いを正しく理解しておくことが重要です。

役員は雇用保険には原則加入できない

雇用保険は、労働者が失業した際の生活保障などを目的とした制度です。
会社の経営者である役員は、労働基準法上の「労働者」には該当しないため、原則として雇用保険に加入することはできません。
ただし、例外として「兼務役員」と呼ばれるケースがあります。

これは、取締役でありながら部長や工場長といった従業員としての身分も併せ持ち、実際に労働者としての業務を行って給与を得ている場合です。
この場合、従業員としての部分について、ハローワークで一定の要件を満たすと認められれば雇用保険に加入できる可能性があります。

役員が労災保険の特別加入制度を利用するケース

労災保険も、労働者の業務中や通勤中の災害に対する補償を目的としているため、原則として役員は対象外です。
しかし、中小企業の役員など、業務の実態が従業員と変わらず、同様に業務災害のリスクにさらされているケースも少なくありません。

このような実情を考慮し、役員が任意で労災保険に加入できる「特別加入制度」が設けられています。
この制度を利用することで、業務中にケガをした場合などに、従業員と同様の補償を受けることが可能になります。

こんな場合はどうなる?役員の社会保険に関する特殊ケース

役員の社会保険手続きでは、一般的な従業員とは異なる特殊なケースが発生することがあります。
例えば、複数の会社で役員を兼務している場合や、年齢によって取り扱いが変更になる場合などです。

これらの状況では、通常とは異なる手続きや保険料の計算方法が求められるため、正しい知識を持っておく必要があります。
特に役員報酬の変更は社会保険料に直接影響するため、注意が必要です。

複数の会社で役員を兼務している場合(二以上事業所勤務)

複数の会社で役員を兼任し、両方から役員報酬を受けている場合、「二以上事業所勤務届」を年金事務所へ提出する必要があります。
この手続きにより、2か所以上の事業所での報酬を合算した額で標準報酬月額が決定されます。
社会保険料の総額は、その合算された標準報酬月額に基づいて計算され、各社の報酬額に応じて按分された金額を、それぞれの会社で納付します。

これにより保険料が二重加入になることはなく、適切な保険料負担が実現されます。
個人事業主が法人を設立して役員を兼務する場合も、この手続きが必要になることがあります。
副業で複数の会社に関わるケースも増えているため、注意が必要です。

70歳以上の役員における社会保険の取り扱い

役員の年齢によって社会保険の取り扱いは変わります。
まず、70歳になると厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、保険料の納付は不要となります。
ただし、在職中に老齢厚生年金を受給している65歳以上の役員は、報酬額に応じて年金額が調整される「在職老齢年金」の仕組みが適用されます。

次に、75歳になると健康保険の被保険者資格も喪失し、すべての人が後期高齢者医療制度へ移行します。
これにより、それまでの健康保険料の支払いはなくなります。

社会保険に加入義務があるのに未加入だった場合の罰則

社会保険の加入義務があるにもかかわらず、手続きを怠り未加入の状態を続けていると、いくつかのペナルティが科される可能性があります。
これは意図的であるかどうかにかかわらず、法律上の義務を履行していないと見なされるためです。
未加入が発覚した場合、金銭的な負担だけでなく、企業の信用問題にもつながるリスクがあります。

最大2年分の保険料を遡って徴収される

日本年金機構(年金事務所)による調査などで社会保険の未加入が発覚した場合、過去に遡って保険料を支払うよう求められます。
法律上の時効は2年であるため、最大で過去2年分の保険料を一括で納付しなければなりません。
この徴収額には、本来会社が負担すべき分と、役員個人が負担すべき分の両方が含まれます。

一度に大きな金額の支払いが必要となるため、会社の資金繰りに重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、悪質なケースでは6年の遡及が認められた判例もありますが、原則は2年です。

本来の保険料に加えて延滞金が発生するリスク

遡って徴収される保険料には、本来の納付期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、延滞金が加算されます。
延滞金の利率は年によって変動しますが、高率に設定されているため、未加入の期間が長くなるほど負担は大きくなります。
遡及適用された保険料は、定められた期限までに納付しないと、この延滞金がさらに膨らんでいくことになります。

懲役または罰金が科される可能性もある

社会保険への加入は法律で定められた義務であり、健康保険法や厚生年金保険法には罰則規定が設けられています。
正当な理由なく加入手続きを行わなかったり、年金事務所からの指導や調査に応じなかったりするなど、悪質なケースと判断された場合には、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。

実際に刑事罰に至ることは稀ですが、法律違反であるという認識は必要です。

役員の社会保険に関するよくある質問

ここでは、役員の社会保険に関して頻繁に寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. 役員と従業員で社会保険の扱いに違いはありますか?

健康保険・厚生年金保険の加入要件や保険料計算方法は、基本的に役員と従業員で違いはありません。
会社の代表者であっても、法人から報酬を受けていれば被保険者となります。
ただし、労働保険(雇用保険・労災保険)の扱いは大きく異なり、役員は原則として加入対象外となる点が大きな違いです。

Q2. 役員は家族を社会保険の扶養に入れることはできますか?

はい、入れることが可能です。
社会保険に加入している役員に生計を維持されている家族は、年収が130万円未満であるなど、健康保険組合が定める一定の要件を満たせば被扶養者として認定されます。

被扶養者となった家族は、自身で保険料を負担することなく健康保険の給付を受けられます。

Q3. 社会保険料を抑えるために役員報酬を低く設定するデメリットは?

将来受け取る老齢厚生年金の受給額が減少することが最大のデメリットです。
年金額は現役時代の報酬額(標準報酬月額)に基づいて計算されるため、報酬を低くするとその分年金も少なくなります。

また、病気やケガで働けなくなった場合に支給される傷病手当金の額も低くなるため、節税効果と将来の保障を天秤にかけて慎重に判断する必要があります。

まとめ

会社の役員は、常勤で報酬を得ている場合、原則として社会保険への加入が義務付けられています。
加入手続きとしては、事実発生から5日以内に「被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所へ提出することが必要です。
資格取得日は会社の設立日や役員就任日となります。

また、役員を退職する際には「被保険者資格喪失届」の提出を忘れてはいけません。
保険料の計算や特殊なケースの判断が難しい場合は、専門家である社労士に相談することも有効な手段です。
退職後には国民健康保険に加入するか、任意継続被保険者制度を利用する選択肢もあります。


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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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