このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第145回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
年俸5000万円アップ。プロ野球選手の契約更改で耳にするこの言葉には、成果が直接報酬に反映される華やかさがあります。ビジネスの現場でも、高度な専門職や管理職の採用に年俸制を導入する企業が増えています。しかしいざ導入しようとすると、月給制とは異なる特有のルールや、誤解されがちなリスクが数多く潜んでいます。
厚生労働省の調査結果においても、賃金形態の多様化が進む中で年俸制を採用する企業は一定数存在します。しかしその運用を一歩間違えると、思わぬ労務トラブルを招きかねません。今回は年俸制の基礎知識と、企業が健全に成長していくための注意点を解説します。
年俸制が採用市場で発揮する求人力
企業が年俸制を採用する最大のメリットは、求人力の強さにあります。時給制や月給制では、月々の給与額は分かっても、賞与がいくら出るか、最終的な年収がいくらになるかは不透明です。それに対して年俸制は、最初から想定年収が明確に提示されるため、求職者にとって非常に魅力的な求人に映ります。
年俸制という言葉には、どこかハイグレードな印象が伴います。役職者や専門性の高い人材を他社から引き抜く際や、重要なポジションへのオファーを出す際、年俸制で提示することであなたの能力を高く評価しているというポジティブなメッセージを伝えることができます。
特にIT業界や金融業界、コンサルティング業界など、専門性が高く流動性のある業界では、年俸制が採用されているケースが珍しくありません。転職市場で戦っていくためには、この制度の導入が競争力の源泉になり得ます。優秀な人材を確保するための強力な武器になる。これが年俸制の大きな特徴です。
年俸制でも毎月払いの原則は変わらない
年俸制に関して最も多い誤解の一つが、支払いのタイミングです。年俸1200万円だから年に一度まとめて支払えばいい。そう考えてしまうケースがありますが、これは認められません。賃金は、毎月1回以上、一定の期日に支払わなければならないという基本原則があります。年俸制であっても毎月分割して支払う必要があるのです。
例えば年俸を12分割して毎月100万円ずつ支払う、あるいは賞与分を含めて14分割や16分割にする。こうした工夫が必要です。上半期と下半期に分けて支払うといった半年ごとの支払いも不適切です。労働者の生活の安定を守るという制度の趣旨を理解し、誠実な運用を心がけることが求められます。
年俸制でも残業代と休日手当の支払いは必須
経営者と話していると、年俸制を導入していれば残業代は払わなくていいんですよねと聞かれることがあります。しかしこれは明確な間違いです。年俸制であっても、時間外労働や休日出勤、深夜労働が発生した場合には、それに応じた手当を支払わなければなりません。
年俸制はあくまで1年間の賃金総額を決める方法です。残業や休日出勤に対する賃金支払いの義務を免除するものではありません。この点を誤解している企業は意外と多く、後になって未払い残業代を請求されるケースが後を絶ちません。
もし固定残業代として年俸の中に含める場合は、基本給部分と残業代部分を明確に区分し、それを超えた分については別途支払う旨を雇用契約書や就業規則に明記しておく必要があります
人件費カットのために残業代をゼロにする。こうした考え方は労働者の保護に反し、結果として企業の信頼を大きく損なうリスクがあることを忘れてはなりません。
年俸制でも給与変更には高いハードルがある
年俸制を導入する経営者の本音として、パフォーマンスが低ければ翌年の年俸を下げやすいのではないかという期待があるかもしれません。確かに年ごとに給与を決め直す制度です。
給与を下げる場合には、原則として労働者本人との合意が必要になります。合意なしに一方的に不利益な変更を行うことは、たとえ年俸制であっても認められにくいのが実情です。無理な引き下げは労働者の意欲を削ぐだけでなく、法的なリスクも高まります。
適切な評価制度を導入し、客観的な基準に基づいて年俸を更改することはできますが、本人の納得を得る努力を惜しまない。これが健全な組織運営には不可欠です。
まとめ
年俸制は、正しく設計し運用すれば、優秀な人材を引きつけ、社員のモチベーションを高める優れた制度になります。しかしその裏側には、毎月払いの原則や残業代の支払いといった、避けては通れないルールが厳然と存在します。安易な導入は、後に大きなトラブルへと発展しかねません。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、貴社のビジョンや業績、そして社員の幸福を両立させるための最適な賃金制度の設計を支援しています。就業規則の改定から評価制度の構築まで、本記事のような複雑なケースにも柔軟に対応いたします。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


