このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第146回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
給与設計を後回しにしてきた会社ほど、組織が大きくなったときに「実はバラバラだった」という事実が一気に表面化します。給与テーブルとは、等級・役職・スキルなどに応じた賃金の基準を体系化したものです。整備が遅れるほど修正のコストは増し、対応に追われることになります。今回は、給与テーブルの整備に着手すべきタイミングと、その考え方について整理します。制度の形よりも「いつ・なぜ整備するのか」という視点が、必要です。
給与テーブルが必要になる最初のシグナル
創業当初は、社長が一人ひとりの状況を見ながら個別に給与を決めるのが自然なスタイルです。意思決定が速く、創業期のスピード感には合っています。しかし、組織が拡大していくにつれ、このやり方は必ず限界を迎えます。
その決定的なシグナルが、「中間管理職に評価・採用の権限を移譲するとき」です。組織の成長とともに、社長が全員の給与を直接決め続けることは現実的ではありません。給与の基準が社長の頭の中にしかない状態では、権限を委ねられた担当者は「なぜこの金額なのか」を本人に説明できません。評価制度を仕組み化し、誰かにその役割を渡す段階になって初めて、給与テーブルという共通言語が不可欠になります。
早めに整えることに越したことはありませんが、権限移譲をするタイミングは、整備を先送りできない実質的な期限といえます。給与の基準が不明瞭なままでは、組織としての一貫性が保てず、評価への不信感が生まれる温床にもなります。信頼できる評価制度を機能させるためには、その前提となる給与テーブルを整備する必要があるのです。
給与設計で見直したい「バラつき」の問題
スタートアップや急成長企業でよく見られるのが、「同じ仕事をしているのに、人によって給与が異なる」という状態です。採用交渉や前職給与を基準にしてきた結果、内部基準ではなく外部基準で給与が決まってしまっているケースです。前職の年収がそのまま持ち込まれる構造になっていると、職務内容に対する公平な評価とはかけ離れた状態が慢性化します。
放置すれば社内の公平感が損なわれ、モチベーション低下や離職につながりかねません。そこで有効なのは、資格等級表やグレード制を導入し、給与水準を適正な形に収束させていくプロセスです。まず社内基準に照らして現状を可視化し、基準より高い給与をもらっている社員に対しては差額を「調整給」として支給しながら水準を維持しながら、「次の評価サイクルでこのレベルを目指しましょう」とコミュニケーションを重ねていくことで、実力と報酬のギャップを段階的に解消していくことができます。
組織の方向性に合わせた報酬設計の選択
給与テーブルを整備する際に意識したいのが、「自社がどのような組織を目指しているのか」という視点です。正社員中心の雇用モデルを採用するのか、業務委託のプロフェッショナルを主軸に置くのかによって、必要となる制度の設計方法は変わります。
正社員が中心であれば、まず正社員向けの給与テーブルを整備することが先決です。等級ごとの職務要件と評価基準を明確にすることで、正社員が安心して長く働き、会社に貢献できる土台が生まれます。
一方、少数精鋭の正社員と業務委託メンバーで組織を回すモデルであれば、「給与テーブル」よりも業務発注の基準を整理した一覧表の方が効果的な場合があります。「この仕事ならこの報酬」という基準を明確にし、複数案件を引き受けた場合にインセンティブを設けることで、人手不足の中でも優先的に動いてもらえる仕組みをつくることもできます。
どちらの方向性が自社に合っているかを先に整理してから、制度設計をすることが大切です。雇用形態の多様化が進む現代において、この「組織像の明確化」こそが、報酬設計の質を左右する前提条件になっています。正社員と業務委託を混在させている会社では特に、それぞれに適したルールを分けて整理しておくことが重要です。
評価と報酬を「あえて切り離す」という考え方
「給与テーブルを作ったら、必ず評価結果と連動させなければならない」という思い込みがありますが、必ずしもそうである必要はありません。評価と報酬を別々に運用することも、有効な賃金制度設計のひとつです。
たとえば報酬を「市場価値」で決めるという考え方があります。外部の労働市場との連動性を重視し、他社からのオファーに相応する水準を提示するスタイルです。この場合、社内評価は給与決定のツールではなく、キャリア形成や自己成長を支援するための対話として機能します。
評価面談が「査定のための場」ではなく「成長のための対話」になることで、スタッフのエンゲージメント向上にもつながります。給与と評価の関係を自社の哲学に基づいて定義し直すことで、社員にとってより納得感のある報酬制度を構築できます。仕組みの形よりも「なぜこの設計なのか」を社員に説明できることの方が、長期的には信頼につながります。
まとめ|給与テーブルの整備は「経営判断」
給与テーブルの整備は、単なる事務作業ではなく、組織の将来を左右する経営判断です。公正で誰もが納得できるルールを早めに整えることが、トラブルを防ぎ、社員からの信頼獲得にもつながります。賃金制度は一度作って終わりではなく、会社の成長フェーズに合わせて継続的に見直していくものです。その土台をしっかりと作っておくことが、長く安定した組織運営の第一歩になります。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、給与テーブルの設計から人事評価制度の構築まで幅広くサポートしています。「今の給与体系が適切か不安がある」「評価の仕組みを一から整えたい」「業務委託メンバーとの報酬ルールを整理したい」といったお悩みをお持ちの経営者・人事労務担当者の方は、ぜひ一度、無料相談をご活用ください。貴社の状況と方向性に寄り添い、後悔しない制度設計をお手伝いします。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


