コラム

【組織設計】スタッフが30名になる前に考えること

【組織設計】スタッフが30名になる前に考えること

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「給与設計相談室」” 第87回の配信をもとに書かれた記事です。

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目次

はじめに:「30名の壁」が訪れる前に

「最近、社員の動きが見えにくくなってきたなぁ…」 「自分が全部決めているせいか、いつも会社に縛られている気がする」

スタッフが20名を超えたあたりから、こんな悩みを抱える経営者の方が増えてきます。

企業の成長には「10名の壁」や「50名の壁」といった法的な境界線がありますが、実は経営の実務において最も乗り越えにくいのが「30名の壁」です。法令上の義務が急増するわけではありませんが、社長個人のマネジメント能力の限界と、組織としての自立が交差する重要な分岐点になります。

30名という数字は、創業期の少人数の阿吽の呼吸が通用しなくなり、仕組みで回さなければ組織が崩壊するリスクを抱えたフェーズです。このコラムでは、スタッフが30名になる前に経営者が整えておくべき組織設計のポイントについてお伝えします。

マネジメントの限界値|なぜ「30名」なのか

なぜ30名が組織の壁になるのでしょうか。その答えは、私たちが経験してきた学校教育の現場にヒントがあります。

小中学校の1クラスは、概ね30名から40名程度で構成され、1人の担任教師が配置されています。これは経験則として、1人の大人が全体を把握し、管理できる人数の限界がこのあたりにあることを示しています。

1人の上司が直接かつ効果的に管理できる部下の人数は、業務の複雑さにもよりますが、一般的に5名から10名程度が適切とされています。30名という規模は、社長が一人で全社員の顔色、業務進捗、メンタルコンディションを把握し、適切な指示を出すことができる物理的・精神的な限界値といえるでしょう。

多くのベンチャー企業では、創業から20名程度までは社長のカリスマ性と馬力で牽引できます。しかし30名に近づくにつれて、社長の目は届きにくくなり、指示の滞留やコミュニケーション不全が発生し始めます。

「まだ自分一人で見れる」という過信は禁物です。30名を迎える前に、社長依存からの脱却を意図的に進める必要があります。

文鎮型組織からの脱却|機能別組織への移行

組織拡大に向けた具体的な第一歩は、適切な組織図の再構築です。

創業期の企業の多くは、社長の下にフラットにスタッフが並ぶ「文鎮型組織」を採用しています。この形態は意思決定が速い反面、30名規模になると社長に決裁が集中することがボトルネックとなり、組織全体のスピードを緩めてしまいます。

30名の壁を越えるためには、組織を機能別に分化させる構造への移行が不可欠です。

・ビジネスサイド(売上を作る部門) :営業部、開発部、製造部など

・バックオフィス(組織を支える部門) :経理部、人事部、総務部など

このように、役割に応じて部門を明確に区分します。特に重要なのは、これまで社長や一部の兼務者が担っていたバックオフィス業務を、専任の部門として独立させることです。

組織図を作成する際は、現在のメンバーを当てはめるだけでなく、将来的に必要な機能を網羅した「あるべき姿」を描くことがポイントになります。

中間管理職の設置と3階層への進化|権限委譲の実践

組織図の作成に伴い、組織の構造を「社長 ⇔ スタッフ」の2階層から、「社長 ⇔ 管理職 ⇔ スタッフ」の3階層へと進化させる必要があります。

ここで鍵となるのが中間管理職の育成と配置です。単に「部長」や「課長」という役職を与えるだけでは機能しません。最も避けるべきは、権限を与えずに責任だけを負わせる「名ばかり管理職」を生み出してしまうことです。

中間管理職を機能させるために、経営者は以下の2点を徹底する必要があります。

明確な権限委譲

「あなたの役割はここまでで、この範囲の決定権を委譲する」と明示し、その権限の中で自律的に成果を出すよう促します。どこまでは自分で決めていいのか、どこから上司に相談すべきなのかが明確でないと、管理職は動けません。

指揮命令系統の遵守

社長が中間管理職を飛び越えて、現場のスタッフに直接指示や指導を行う「頭越しの命令」は厳禁です。これをやってしまうと、スタッフは「部長に相談しても無駄だ、社長に直接言えばいい」と感じ、中間管理職の求心力は失われます。

結果として、報告も相談も全て社長に直接上がってくるようになり、元の文鎮型組織に逆戻りしてしまいます。

社長は現場への直接の介入を堪え、中間管理職を通して間接的に組織をコントロールする。この「我慢」と「任せる勇気」こそが、30名以上の組織を率いる経営者に求められる資質です。

阿吽の呼吸の排除|社内ルールの明文化

組織が大きくなるにつれ、「言わなくてもわかるだろう」という期待は通用しなくなります。

創業メンバーや古参社員の間で共有されていた阿吽の呼吸は、新しく入社するスタッフには伝わりません。業務の属人化を防ぎ、権限委譲をスムーズに進めるためには、細かい社内実務ルールの明文化が急務となります。

就業規則の作成は法律上の義務ですが、ここで求められるのは、現場レベルの具体的なマニュアルやガイドラインです。

・備品の発注ルール:誰の承認を得て、どの業者に、どのような手順で発注するのか 

・郵送物の取り扱い:受領時の振り分けルール、発送時の手続き

・問い合わせ対応:電話やメールの一次対応フロー、担当者へのエスカレーション基準 

・経理処理フロー:請求書発行のタイミング、経費精算の締め日と提出方法

これまでは「社長のアシスタント的な総務担当者」が一手に引き受けていた業務も、組織化に伴い複数の担当者に分散されます。ルールが明文化されていれば、判断基準が明確になり、スタッフは迷わず業務遂行が可能となります。

「ルールで縛る」のではなく、「ルールを作ることで迷いをなくし、自律的な行動を促す」という視点を持つことが大切です。

育成制度の確立|先行投資型の採用戦略

最後に、人材の採用と育成について考えます。

30名規模を目指す段階では、「背中を見て覚えろ」式のOJTや、「忙しくなったら採用する」という場当たり的な対応からは卒業しなければなりません。

体系的な育成制度の構築

新入社員が早期に戦力化するための教育カリキュラムを作成します。

・入社初日:企業理念の共有、社内ルールの説明、セキュリティ研修 

・1ヶ月目:基礎業務の習得、メンターによる振り返り 

・3ヶ月目:独り立ちに向けた実務研修、顧客対応の開始

「いつ」「誰が」「何を」教えるのかを標準化することで、教える側の負担を減らしつつ、教育の質を均一化できます。これは、従業員満足度の向上にも直結します。

計画的な採用戦略への転換

多くの企業では、業務量が限界に達し、現場が疲弊してから慌てて求人を出します。しかし、逼迫した状況での採用は、じっくりと人選する余裕がなく、ミスマッチのリスクを高めます。

さらに、受け入れ側に新人を教育する余裕がないため、放置された新人が早期離職し、現場はさらに疲弊するという悪循環を招きがちです。

理想は「仕事が溢れる前」の採用です。経営計画に基づき、将来の業務量を見越して先行投資的に採用を行う。社内に精神的・時間的な余裕がある状態で新人を受け入れることで、丁寧な教育が可能となり、結果として定着率の向上と組織の安定成長に繋がります。

まとめ|30名の壁を見据えた組織づくり

スタッフが30名になる前に行うべき組織設計について、4つの観点から解説しました。

・組織図の再構築:文鎮型から階層型へ移行し、機能別の部署を作る 

・中間管理職の機能化:明確な権限委譲を行い、指揮命令系統を遵守する

 ・社内ルールの明文化:暗黙知を形式知化し、実務フローを統一する 

・育成と採用の仕組み化:教育カリキュラムを整備し、先行投資型の採用を行う

これらの準備は、一朝一夕でできるものではありません。スタッフ数が少ないうちから少しずつ着手し、企業文化として根付かせていくことが、成長痛を最小限に抑えるポイントです。

組織の壁にぶつかってから慌てるのではなく、成長を見越した「先手の組織づくり」こそが、企業の永続的な発展を支えます。

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、就業規則の作成や法令対応といった労務管理はもちろん、企業の成長フェーズに合わせた組織設計、評価制度の構築、運用のアドバイスも行っております。30名の壁を前に組織づくりにお悩みの経営者様や人事担当者様は、ぜひ一度、弊社の無料相談をご活用ください。貴社の持続的な成長を、組織と人の側面から全力でサポートいたします。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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