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【法律】いまだに解決されない無期転換ルールの謎

【法律】いまだに解決されない無期転換ルールの謎

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第170回の配信をもとに書かれた記事です。

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「高齢者の中途採用を増やしたいのですが、無期転換のことが引っかかって踏み切れずにいます。」

こうした声を、人事担当者の方からしばしば耳にします。2013年の労働契約法改正によって導入された無期転換ルールは、施行から10年以上が経過し、多くの企業にすでに定着した制度です。ところが今もなお、制度の「盲点」として現場を悩ませ続けている問題が、解消されないまま残っています。

とりわけ高齢者雇用において、他社を定年退職したシニア人材を中途採用する場面では、思わぬ落とし穴になりかねません。制度の概要を把握していても、こうした細部になると「自社の対応で本当に問題ないのか」と自信が持てないという担当者も多いのではないでしょうか。今回は、その実態と実務上の対応方針を整理してお伝えします。

無期転換ルールの基本と「5年の壁」

無期転換ルールとは、有期雇用労働者が同一企業との間で契約を繰り返し更新し、通算の契約期間が5年を超えた時点で、本人の申し込みによって無期労働契約へ転換できる権利が発生する仕組みです。

1年更新の契約を5回重ねると、6年目に入った段階で権利が生じます。本人が転換を申し込んだ場合、企業にはこれを断る手立てがありません。

制度の趣旨は雇用の安定にありますが、高齢者雇用においては「どこまで雇用を継続すべきか」という判断に頭を悩ませる企業も少なくありません。健康状態や就業能力が変化しやすい年代だけに、一律の無期化に戸惑いを感じるのは自然なことです。加えて、無期転換後に雇用を終了させようとしても、解雇には客観的かつ合理的な理由が求められ、法的な難易度は決して低くありません。こうした現実を踏まえ、国は高齢者雇用に限定した特例措置を設けています。

定年後再雇用に活用できる「第二種計画」の特例措置

特例措置を利用するには、都道府県労働局に「第二種計画」を届け出て認定を受ける必要があります。この認定を取得した企業では、自社で定年を迎えた従業員を引き続き有期契約で再雇用する場合、5年を超えても無期転換権が発生しないという取り扱いが認められます。

多くの企業がこの仕組みを取り入れており、高齢者雇用の安定と人員配置の柔軟性を両立させています。ただし、この特例には看過できない適用要件があります。それは、「自社で定年を迎えた従業員を、引き続き雇用するケースに限る」という条件です。一見すると当然の前提に思えますが、ここに現場を悩ませる問題があります。

「他社定年退職者」の受け入れで生じる無期転換の盲点

例えば、A社を定年退職した60歳の方をB社が嘱託社員として中途採用をしたとします。B社が第二種計画の認定を受けていたとしても、この方には特例を適用することができません。理由は単純で、その方はB社においてまだ定年を迎えていないからです。

つまり、他社を定年退職したシニア人材を採用した場合、その方は通常の有期雇用労働者と同じ扱いを受けます。1年更新を5年繰り返せば通算して5年超となり、無期転換の申込権が発生します。本人が転換を希望すれば、企業はその方を無期契約で雇用し続けなければならない事態も生じてしまうのです。

自社出身者には特例が適用されるのに、他社出身者には適用されない。この非対称性こそが、人手不足の時代にシニア層の中途採用を積極化したい企業の大きな足かせになっています。加えて、採用される高齢者本人も、まさか自分に無期転換の権利が生じるとは想定していないケースがほとんどです。後になって「そんな話は聞いていない」というトラブルに発展しないよう、採用時点での丁寧な説明と書面による確認が不可欠です。

「第二定年」の活用と就業規則整備の考え方

現実的な対応策のひとつとして、就業規則に「第二定年」を定める方法が挙げられます。65歳や70歳を第二の定年として明示し、たとえ無期転換が生じた場合でもその年齢で雇用関係が終了するよう設計しておく考え方です。

しかし、このような65歳や70歳という年齢を明示した第二定年の定めの場合、その年齢よりも高い年齢で入社した労働者が入社した場合、第二種計画の対象にならないという問題があります。

そこで「60歳以降に無期転換した1年後を第二定年とする」というような定年の定め方をする場合があります。

ただし、この方法は慎重な取り扱いが求められます。労働局の見解は「直ちに違法とはいえないが、制度の趣旨に照らして好ましくない」という回答が多く、いわゆるグレーゾーンの対応です。無期転換を形式的に無効化するような設計は、後に紛争の火種となるリスクをはらんでいます。

より大切なのは、目先の問題を回避する工夫よりも、自社の実態に即した雇用方針を誠実に整備することです。「誰を、いつまで、どのような条件で雇用するのか」を就業規則に明文化し、採用の段階できちんと伝えておくことが、長期的なリスク管理の要となります。高齢者雇用に関わる就業規則は特に、労働者が先行きを見通せるよう配慮した内容であることが求められます。

制度の不均衡と今後の展望

私自身は、この非対称性は早期に是正されるべき問題だと考えています。

労働者派遣法では、60歳以上の派遣労働者について、同一組織での派遣期間に関する制限が適用されない取り扱いとなっています。年齢という明確な基準で一律に例外を認めているのです。無期転換ルールにおいても、「60歳以上の有期雇用であれば、自社・他社の定年退職を問わず一律に特例を適用する」という形に整理することが、もっとも合理的で公平な解決策ではないかと思います。

現状では法改正を待つほかありませんが、それまでの間も各企業が自社の雇用方針を明確に定めておくことが重要です。豊富な経験と知見を持つシニア層は、深刻な人手不足に直面する現代の企業にとって得難い戦力です。その方々が安心して活躍できる環境を整えることが、今の企業に求められる労務管理の核心のひとつと言えるでしょう。

まとめ

無期転換ルールにおける「他社定年退職者問題」は、制度の盲点として見落とされがちな論点です。第二種計画の認定を受けていても、他社を定年退職したシニア層の中途採用には特例が適用されない点は、採用実務において必ず押さえておくべき事項です。

就業規則の整備や再雇用制度の設計については、社会保険労務士法人ONE HEARTでも個別のご相談に対応しています。「自社の対応に問題がないか確認したい」「就業規則を一度整理したい」といった段階からでも、どうぞお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料で承っています。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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