このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第188回の配信をもとに書かれた記事です。
Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!
「うちは残業なんてほとんどないよ」。
建設業の経営者からこのような言葉を聞くたびに、私は詳しく状況を確認するようにしています。実態を掘り下げると、週6日勤務が常態化していて、土曜日の労働が時間外として一切計上されていない、というケースに行き着くことが少なくないからです。
建設業の労務管理は、他の業種と比べて特殊な背景を持ちます。現場ごとに状況が異なるのはもちろん、業界に根付いた独自の慣習があるため、一般的な労務管理の考え方をそのまま持ち込んでも、現場の感覚との間に埋めがたいズレが生じてしまいます。この業界ならではの構造を正しく理解することが、適切な労務管理への出発点です。
今回は、建設業の労務管理においてとくに注意が必要なポイントを、実務の視点から整理してお伝えします。
建設業の労務管理が難しい理由
建設現場では、何よりも「安全管理」が最優先事項です。高所作業をはじめ、一歩判断を誤れば重大事故に直結するリスクと日々向き合いながら、同時に労働時間管理や社会保険といった労務の根幹にも気を配らなければなりません。
加えて、長年にわたって形成されてきた業界固有の慣習があります。他業種の成功事例や法改正の考え方をそのまま導入しても、現場ではうまく機能しないことが多いのはそのためです。「建設業ならでは」という視点を持ちながら、現場の実態に即した仕組みを構築すること。これまで多くの建設業者のご相談に関わってきた経験から、それがいかに重要かを繰り返し実感しています。
社会保険加入が進んだ背景と、業界の構造的特徴
建設業の労務管理を語る上で、避けては通れない歴史があります。2010年代、業界全体で「社会保険加入ラッシュ」と呼ばれる動きが起きました。法律が急に改正されたわけではありません。国土交通省が「社会保険未加入の業者は建設現場に入場させない」という強力な方針を示したことが、その引き金となりました。
それまで未加入が慣習化していた側面もありましたが、この方針によって「加入していなければ仕事が成り立たない」という現実が業界を一変させました。
この出来事が示すのは、建設業が元請・下請の階層構造のなかで、発注者や行政の判断に労務管理が強く左右されるという特性です。業界のコンプライアンス意識が急速に変化した背景には、こうした構造的な力学があります。現在の労務環境を読み解く上でも、この文脈を理解しておくことは欠かせません。
週6日勤務と労働時間管理の落とし穴
社会保険の問題が一段落した現在、建設業が向き合っている最大の課題が「労働時間管理」です。月曜から土曜まで現場が稼働し、休みは日曜のみという週6日勤務のスタイルは、今なお業界の標準として根付いています。
ここに構造的な問題があります。1日8時間を5日間働くだけで、週の法定労働時間の40時間に達してしまいます。そこに6日目の勤務が加われば、土曜の労働はすべて時間外として適切に管理する必要が生じます。「残業はほとんどない」とおっしゃる経営者様でも、週6日勤務という働き方そのものが、すでに長時間労働の温床になっているケースがあるのです。
大切なのは「実態の正確な把握」です。感覚や慣習に頼るのではなく、実際の労働時間を数字で確認することが、健全な労務管理の起点となります。
直行直帰と移動・準備時間の見落とし
労働時間管理をさらに難しくしているのが、移動時間や準備時間の扱いです。「うちは直行直帰だから問題ない」とおっしゃる事業者でも、実態を丁寧に確認すると、純粋な直行直帰ではないケースが想像以上に多く見られます。
たとえば、会社に一度集合してから乗り合いで現場へ向かうケース、倉庫で資材を積み込んでから現場入りするケース、あるいは早朝から準備作業を行うケースなどは、移動時間も労働時間として扱うことを検討する必要があります。こうした時間を積み上げていくと、経営者が想定していた以上の労働実態が浮かび上がることがあります。
一つひとつ丁寧に確認する作業は手間に感じるかもしれません。しかし将来的なリスクを未然に防ぐためにも、現状を正確に把握しておくことは、経営上の重要な責務と言えます。
なぜ是正が進まないのか:三者に共通する「現状維持の論理」
長時間労働の問題が認識されていても、業界全体として是正が容易に進まない背景には、構造的な理由があります。週6日勤務が、経営者・労働者・発注者それぞれにとって合理的に映る側面があるのです。
労働者の立場からは、休日を増やすよりも出勤日数を確保して収入を守りたいと考える層が一定数います。経営者の立場からは、工期を圧縮することで現場の固定費(警備費や機材のリース代など)を抑え、利益を確保しやすくなります。発注者の立場からは、1日でも早い竣工が歓迎されます。
三者がそれぞれ「今のままでよい」と感じてしまう構造がある以上、「労働時間を減らしましょう」という一般的な呼びかけだけでは、経営者の意識はなかなか動きません。この現実を正面から受け止めた上で、持続可能な働き方へどう移行するかを考えることが、これからの建設業経営における本質的な問いだと思っています。
まとめ
建設業の労務管理には、業界特有の慣習と構造的な問題が複雑に絡み合っています。社会保険加入の歴史的経緯、週6日勤務に潜む長時間労働のリスク、見落とされがちな移動・準備時間の問題、そして是正を阻む三者の利害構造。いずれも、画一的なアドバイスでは解決しにくいテーマです。
「週6日が当たり前」だった時代から、従業員が安心して長く働ける職場環境をいかに整えるかが問われる時代へ、建設業も確実に変わりつつあります。業界の慣習をむやみに否定するのではなく、その実態を深く理解した上で、将来のリスクを回避しながら持続的に成長できる仕組みを設計すること。それが、これからの建設業経営に求められる方向性だと考えています。
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、建設業界ならではの労務管理の課題に対し、現場の実情をふまえながら丁寧にご対応しています。「自社の労働時間管理、本当に問題ないだろうか」「週6日勤務の現場をどう整理すればよいか分からない」といったお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ一度ホームページからお問い合わせください。初回相談は無料で承っておりますので、お気軽にご連絡ください。
また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


