コラム

【労務】上司として知っておきたい労基法の基礎知識

【労務】上司として知っておきたい労基法の基礎知識

このコラムは、Podcastラジオ “社労士吉田優一の「10分で労務がわかるラジオ」” 第171回の配信をもとに書かれた記事です。

Spotifyはこちら

Apple podcastはこちら

Podcastでは、給与・報酬の設計を中心に、会社を経営していくうえでぶつかる人事の課題についてお話ししています。ぜひフォローをお願いします!

目次

「管理職に昇進したはいいけれど、労働基準法のことは正直よくわかっていなくて。」

こうした打ち明け話を、現場のマネージャーや新任の管理職の方からしばしば耳にします。上司という立場になって初めて、人を管理することの法的な重みを実感する方は決して少なくありません。しかし、労働基準法(以下、労基法)の基礎を欠いたまま現場のマネジメントに当たることは、本人の善意とは関係なく、組織を法的リスクへと引き込む可能性があります。知識の空白が、気づかぬうちに違反状態を生み出したり、部下への不用意な一言がトラブルの発端になったりすることも珍しくないのです。

今回は、上司として最低限押さえておきたい労基法の要点と、現場に潜みやすい「思い込み」について整理してお伝えします。

労基法の基礎はまず「部下の労働条件を知る」ことから

上司として着任した際にまず取り組むべきことは、担当する部下一人ひとりの労働条件を正確に把握することです。今日の職場では働き方が多様化しており、「全員が同じ条件で働いている」と思い込むこと自体がリスクになりえます。

時短勤務の社員、所定労働時間が短く設定されたパートタイマー、育児や介護を抱えて配慮が必要なスタッフ。それぞれの契約内容や権利を理解しないまま一律の業務指示を出せば、部下の信頼を損ない、場合によっては法令違反に直結しかねません。労働条件は採用時や配置転換のタイミングで確認するにとどまらず、状況の変化に応じて継続的に把握し直すことが求められます。

例えば、短時間契約のスタッフに対して契約時間を超えた勤務を当然のように求めることは、本人に強い不信感をもたらします。「自分はそういう契約ではないのに」という思いが積み重なれば、離職や労使紛争の火種となります。育休から復帰したばかりのメンバーが残業免除の権利を行使しているケースも同様です。個別の事情を踏まえたうえで業務指示を出すこと、これが公正なマネジメントの出発点です。

残業の「黙認」が招く法的リスク

現場で意外と見過ごされやすいのが、残業の「黙認」です。部下の中には、熱意や責任感から自発的に長時間残る人もいます。しかし、その状況を上司が知りながら放置することは、大きなリスクをはらんでいます。

残業とは本来、会社が業務上の必要から命じ、それに応じて労働者が行うものです。明示的な指示がなくとも、上司が認識しながら黙って見ていた状態は、法的に「黙示の指示があった」と評価される場合があります。言葉で命じていなくとも、残業を承認したのと同義になりうるのです。

その状況下で部下の健康が損なわれるような事態が生じれば、会社の法的責任が問われることになります。「本人が自分の意志で残っていただけだ」という言い訳は通用しません。残業が生じる背景を把握し、業務量の調整や仕事の進め方の改善を部下とともに考えることが、上司に求められる本質的な役割です。残業を減らすことは部下の健康を守るだけでなく、割増賃金にまつわる賃金トラブルを未然に防ぐうえでも、欠かすことのできない視点です。

有給休暇と休憩時間の「社内ルール」に潜む落とし穴

有給休暇や休憩時間の運用では、社内で長年慣習として定着した「ローカルルール」が法律の定めと乖離しているケースに、しばしば出会います。

有給休暇の申請については、業務調整を円滑にするために一定の事前申請を促すこと自体は実務上合理的です。ただし、法律が労働者に認めた権利の性格上、一定の条件を満たす申請を一方的に拒むことはできません。「申請のルールを守らなかったから有給は認めない」という対応は、行政の調査や法的トラブルへと発展するリスクをはらんでいることを、頭に置いておく必要があります。

休憩時間も同様の注意が必要です。一定の労働時間に対して義務付けられた休憩を、繁忙を理由に取らせないことは許されません。上司は、就業規則に定められた休憩が確実に取得されているかを日常的に意識し、それが困難な状況であれば業務の組み立て方そのものを見直す責任があります。休憩が取れない状態が常態化しているとすれば、それは組織として早急に対処すべき問題のサインです。

ハラスメントの放置と「退職引き止め」の問題

ハラスメントへの対応においても、残業の黙認と同様に「知っていて見過ごす」ことは許されません。部下が別の社員に対してハラスメント行為を行っているのを目にした際、「自分が直接行ったわけではない」という理由でやり過ごすことはできないのです。会社には従業員が安全に働ける環境を整える義務があり、上司はその実現に責任を持つ立場にあります。問題に気づいた際は速やかに当事者へ注意を促すか、労務担当部門と連携して対処し、放置しないという姿勢を組織に体現することが重要です。

退職の申し出への対応も、見落としがちな場面のひとつです。慰留すること自体は否定されませんが、長時間にわたって別室で翻意を迫ったり、退職を認めないと強圧的に告げたりする行為は、ハラスメントと判断される可能性があります。また、就業規則に長い予告期間を定めていたとしても、民法上のルールとの関係から、会社が一方的に退職を阻み続けることは難しいと解されています。「後任が決まらないから辞めさせない」といった発言は法的根拠を欠くものであり、無用なトラブルを招く元となります。退職の申し出を受けた際は感情的にならず、適切な手続きを整然と進めることが、組織にとっても本人にとっても誠実な対応です。

まとめ

労基法の知識は幅広く、そのすべてを一度に身につけることは容易ではありません。しかし、部下の労働条件を把握する、残業を黙認しない、ハラスメントを放置しない、退職手続きを適切に進める。この四つの姿勢を日常のマネジメントに根づかせるだけで、現場に潜む多くのリスクを防ぐことができます。制度の細部よりも、こうした「行動の原則」を地道に実践し続けることが、長く頼りにされる上司の条件だと私は考えています。

部下を守ることと会社を守ることは、決して相反しません。正しい知識を持ってマネジメントに向き合うことが、その両立を可能にする基盤となります。

社会保険労務士法人ONE HEARTでは、現場の労務管理に関する課題や、就業規則・労働条件の整備について個別のご相談をお受けしています。「自社の対応に問題がないか確認したい」「制度を一から整理したい」という段階からでも、どうぞお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料で承っています。

また、社会保険労務士法人ONE HEARTはITツールを組み合わせて、効率的な労務管理を作り、会社の発展に貢献します。急成長するスタートアップから、長年続く老舗企業まで、幅広いクライアント様をご支援させていただいています。

ONE HEARTに労務のご相談をしたい方、ONE HEARTでのお仕事に興味がある方、吉田とお話ししてみたい方など、ホームページの問い合わせフォームやX(旧twitter)のDMからお気軽にご連絡いただけると幸いです!

Spotifyはこちら

Apple podcastはこちら

X(旧twitter)はこちら

ONEHEARTのホームページはこちら


オンラインで完結

60分間

個別無料相談
ご利用ください

吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

代表 吉田がお話を聞きます!

60分間無料相談を申し込む

社会保険労務士法人ONE HEART