コラム

残業80時間は過労死ライン!36協定の法律違反と罰則、対処法を解説

残業80時間は過労死ライン!36協定の法律違反と罰則、対処法を解説

月80時間の残業は、従業員の健康を著しく害する「過労死ライン」と呼ばれる危険な水準です。
この残業時間は、36協定で定められた法律上の上限を超える可能性があり、違反した場合は企業に罰則が科されるリスクを伴います。
本記事では、残業80時間がもたらす問題、違法となる法的根拠、そして企業が取るべき具体的な対処法について、社会保険労務士が解説します。

残業80時間を超えると何が問題?「過労死ライン」と呼ばれる健康上の根拠

月80時間の残業が深刻な問題とされる最大の理由は、それが「過労死ライン」の目安とされているからです。
過労死ラインとは、長時間労働と、脳・心臓疾患や精神障害といった重篤な健康障害との間に強い因果関係が認められる時間外労働の基準を指します。
この基準は、過去の労災認定事例の医学的知見から設定されており、従業員の生命や健康を守る上で重要な指標となります。

脳・心臓疾患の発症リスクが著しく高まる

長時間の労働は、心身に極度の緊張と疲労を強いるため、血管や心臓に大きな負担をかけます。
特に月80時間を超えるような過重な労働は、睡眠不足やストレスの蓄積を招き、高血圧や動脈硬化を進行させる要因となります。
これにより、脳梗塞、くも膜下出血、心筋梗塞といった、命に関わる脳・心臓疾患の発症リスクが著しく高まることが医学的に指摘されています。

企業の安全配慮義務の観点からも、このような健康リスクは看過できません。

うつ病など精神疾患の労災認定基準にも該当する

過重労働の影響は、身体だけでなくメンタルヘルスにも及びます。
恒常的な長時間労働は、うつ病や適応障害などの精神疾患を引き起こす大きな要因です。
厚生労働省が定める精神障害の労災認定基準においても、長期間にわたる時間外労働は「特別な出来事」として評価されます。

特に月80時間を超える残業は、心理的負荷が極度に強いと判断される可能性が高く、うつなどの精神疾患が労災と認定される重要な要素の一つとなります。

過労死ラインの具体的な基準:月100時間と月80時間の壁

脳・心臓疾患に関する過労死ラインには、具体的な2つの基準が設けられています。
一つは「発症前1ヶ月間におおむね100時間」、もう一つは「発症前2ヶ月間から6ヶ月間までの平均で、1ヶ月あたりおおむね80時間」を超える時間外労働です。
これらは、業務と発症との関連性が強いと判断される医学的な目安です。

この時間外労働の計算には、法定休日に行った労働時間も含まれるため、正確な労働時間の把握が健康管理の前提となります。

複数月平均80時間の基準(長期的な過重負荷)

発症前の2ヶ月から6ヶ月までのいずれかの期間で、1ヶ月あたりの時間外・休日労働が平均して80時間を超える場合も、過労死との関連性が強いと評価されます。
1ヶ月単位では100時間に達していなくても、月80時間レベルの残業が2ヶ月以上続けば、過労死ラインに該当するのです。
月80時間の残業は、1日の労働時間が12時間を超える状態が常態化している水準であり、慢性的な疲労が回復しないまま蓄積し、健康を蝕んでいきます。

残業80時間を超えたらどうなる?違法?法律上の上限規制を社労士が解説

従業員の残業が月80時間を超えた場合、それは単なる健康問題に留まらず、労働基準法に違反する可能性があります。
法律では、時間外労働に対して厳格な上限が定められており、80時間以上の残業は、原則としてこの上限を超えています。
企業は、法律上の規制を正しく理解し、コンプライアンスを遵守する責任があります。

36協定とは?

36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条に基づく労使協定のことです。
法律で定められた法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて従業員に時間外労働(残業)をさせたり、法定休日に労働させたりする場合に、必ず締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
この協定がない状態での残業は、それ自体が法律違反となります。

原則は「月45時間・年360時間」が残業時間の上限

36協定を締結した場合でも、残業時間には原則として上限が定められています。
その上限は「月45時間・年360時間」です。
したがって、月80時間の残業は、この原則的な上限を大幅に超えている状態です。

月平均の残業時間が45時間を超える状態が常態化しているのであれば、企業の労務管理体制に根本的な問題がある可能性が高いと言えます。

「特別条項付き36協定」を締結しても超えてはいけない上限

臨時的な繁忙期などに対応するため、36協定には「特別条項」を設けることができます。
しかし、特別条項を適用しても、無制限に残業が認められるわけではありません。
超えてはならない絶対的な上限が法律で定められています。

具体的には、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、複数月平均で80時間以内、月45時間を越えることができるのは年間6回まで、という全ての条件を満たす必要があります。
残業が1ヶ月でも100時間を超えた場合や、複数月平均で80時間を超過した場合は違法となります。

36協定の上限規制に違反した場合の罰則

36協定で定めた上限時間を超えて労働させたり、特別条項の上限規制に違反したりした場合、企業には労働基準法第119条に基づき、罰則が科される可能性があります。
その内容は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」であり、単なる行政指導に留まらない刑事罰です。
法令違反は企業の社会的信用を大きく損なうことにも繋がります。

【注意】管理監督者だからといって長時間労働が許されるわけではない

労働基準法上の「管理監督者」には、労働時間、休憩、休日の規定が適用されません。
しかし、これは無制限の長時間労働を許容するという意味ではありません。
企業にはすべての従業員に対する安全配慮義務があり、管理職であっても健康を害するほどの労働は問題となります。

また、深夜労働に関する割増賃金の支払義務や、年次有給休暇の付与義務は管理監督者にも適用されます。
公務員についても別途規定はありますが、健康管理の重要性は同様です。

従業員の残業80時間超が発覚した際に企業がすぐに行うべきこと

もし従業員の残業が1ヶ月でも80時間超となった場合、企業は事態を深刻に受け止め、迅速に対応しなければなりません。
特に、2ヶ月連続、3ヶ月連続で月を超えるような状況は極めて危険な兆候です。
放置すれば、従業員の健康問題や法的なリスクが現実化する可能性が高まります。

まずは労働時間の実態を客観的な記録で正確に把握する

最初に行うべきは、事実確認です。
タイムカードやPCのログ、入退室記録といった客観的なデータを用いて、対象従業員の正確な勤務時間を把握してください。
自己申告制の場合は、実態と乖離がないかを確認することが重要です。

正確な労働時間の計算が、すべての対応の出発点となります。
この計算方法が曖昧だと、後の対応も不正確なものになってしまいます。

法律で義務付けられている医師による面接指導の希望を確認する

労働安全衛生法では、時間外・休日労働時間が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合、企業は医師による面接指導を実施する義務があります。
対象者には、産業医等との面談が可能であることを速やかに通知し、希望を確認してください。
申し出がなくても、企業側から積極的に産業医面談を勧奨し、健康状態を確認することが望ましい対応です。

未払い残業代の請求リスクに備え、支払い状況を確認する

月80時間を超える残業が発生している場合、残業代が正しく支払われていない「サービス残業」が黙認されているケースも少なくありません。
給与計算を再確認し、法定の割増率(時間外25%以上、休日35%以上、深夜25%以上)に基づいた残業代が全額支払われているかを確認してください。

固定残業代(みなし残業代)を導入している場合でも、超過分は別途支払う義務があります。
未払い分の代金は、将来的な訴訟リスクに直結します。

恒常的な長時間労働を解消し再発を防ぐための具体的な改善策

場当たり的な対応だけでは、長時間残業は再発します。
働き方改革の視点を持ち、組織全体で恒常的な長時間労働を反映するための仕組みを構築することが不可欠です。
ここでは、4つの具体的な改善策を紹介します。

残業の事前申請・許可制を導入し形骸化させない運用を行う

残業を例外的なものと位置づけるため、事前申請・許可制を徹底します。
重要なのは、制度を形骸化させないことです。
上長は申請された残業の必要性を厳しく吟味し、不要な残業は認めない運用を確立します。
これにより、毎日のように行われる「なんとなく残業」を抑制し、時間管理の意識を高めます。

翌月の残業予測を立てるなど、計画的な業務遂行を促すことも有効です。

業務の棚卸しと役割分担の見直しで非効率をなくす

特定の部署や従業員に業務負荷が集中していることは珍しくありません。
チーム全体の業務内容を可視化する「業務の棚卸し」を行い、業務プロセスに非効率な点がないか、不要な作業がないかを確認します。
その上で、個々のスキルや経験に応じて役割分担を最適化し、業務負荷が平準化されるように見直します。

仕事が多い従業員の業務を減らすための具体的な検討が必要です。

適切な人員配置と中長期的な採用計画を立てる

業務量に対して、慢性的に人員が不足している場合は、増員を検討することが根本的な解決策となります。
退職者が出た際の欠員補充だけでなく、事業計画に基づいた中長期的な視点で採用計画を策定し、必要な人員を計画的に確保する体制を整えます。
安易な人員削減は、結果として長時間労働と生産性の低下を招き、さらなる退職や転職に繋がる悪循環を生み出します。

十分な休息を確保できる勤務間インターバル制度を導入する

勤務間インターバル制度は、1日の勤務終了後、次の勤務開始までに一定時間以上の休息時間(インターバル)を設ける仕組みです。
例えば「11時間」のインターバルを設ければ、深夜までの残業をした場合、翌日の始業時間を遅らせることになります。
これにより、従業員の睡眠時間を確保し、疲労回復を促します。

休日や法定休日だけでなく、日々の休息を保障することが健康維持には不可欠です。

残業80時間に関するよくある質問

ここでは、企業の労務担当者から寄せられる残業80時間に関するよくある質問にお答えします。
建設業など、これまで上限規制の適用が猶予されていた業種においても、2024年4月以降は同様の規制が適用されるため、注意が必要です。

Q1. 特別条項付き36協定があれば、月80時間の残業をさせても問題ないのでしょうか?

特別条項付き36協定を締結していれば、繁忙期などに月80時間の残業は可能です。
しかし、「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、複数月平均80時間以内」であり、かつ「月45時間超は年6回まで」というすべての法的上限を遵守する必要があります。
恒常的に月80時間近い残業をさせることはできず、あくまで臨時的な措置の範囲内である必要があります。

Q2. 残業80時間を超えた従業員がいた場合、会社としてまず何をすべきですか?

まず客観的な記録で正確な労働時間を把握することが最優先です。
次に、労働安全衛生法に基づき、対象従業員に医師による面接指導の希望を確認し、申し出があれば速やかに実施する義務があります。
併せて、残業代が適正に支払われているかを確認し、未払いがあれば是正しなければなりません。

Q3. 労働基準監督署の調査は、どのような場合に実施される可能性が高いですか?

従業員や退職者からの申告が最も多いきっかけです。
また、過労死や過労自殺などの重大な労働災害が発生した場合や、長時間労働が疑われる企業を対象とした重点的な監督指導の際に調査が入る可能性が非常に高くなります。
月60時間を超える残業が常態化している場合も、調査の対象となりやすい傾向にあります。

過労死ラインのリスク管理と適正な労務環境の構築は社労士にご相談ください

月80時間の残業は、従業員の健康を脅かす過労死ラインであり、企業の安全配慮義務違反や法的紛争を招く重大な経営リスクに直結します。
当法人では、労働時間の実態把握から36協定の適正な運用、産業医面談の勧奨まで、実務経験豊富な社労士が貴社の状況に即して的確にアドバイスいたします。

長時間労働を放置したり、法的な根拠のない誤った管理を続けたりすることは、優秀な人材の離職や行政処分を招く恐れがあります。
リスクを早期に解消し、再発防止に向けた風通しの良い職場環境を再構築するためにも、専門家の視点を取り入れることが重要です。
最新の労務管理ノウハウを活かし、企業の健全な運営を強力にバックアップいたします。

問題解決の第一歩として、まずは無料相談フォームよりお気軽にお問い合わせください。
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まとめ

月80時間の残業は、一般的に従業員の健康や生活を脅かす「過労死ライン」の目安とされており、この水準の残業が発生した場合、労働安全衛生法上の通知や面談指導の対象となる「黄色信号」の状態であるとされています。企業にとっては、36協定の特別条項の有無や、複数月の平均残業時間によっては直ちに36協定違反とはならないケースもありますが、過労死の危険が高まる水準であるため、重大な問題として認識する必要があります。
この水準の残業が発生した場合、企業は事態を深刻に受け止め、労働時間の実態把握、医師による面接指導、業務内容の見直しといった迅速な対応が求められます。従業員の安全と健康を守り、企業の法的リスクを回避するためにも、労務管理体制を根本から見直し、持続可能な働き方を構築することが不可欠です。


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吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)

社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。

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