ダブルワークの雇用保険とは、複数の仕事を掛け持ちしている場合の雇用保険の加入ルールを指します。
原則として、最も賃金が高い1社でのみ加入が可能です。
この記事では、雇用保険の基本的な加入条件から、ダブルワークの方が失業手当を受け取るための要件、注意点について詳しく解説します。
二重加入のリスクや、65歳以上の方を対象とした特例制度についても触れていきます。
ダブルワークの雇用保険は原則1社のみ!二重加入はできません
雇用保険は、複数の勤務先で同時に加入する「二重加入」は認められていません。
これは、1人の労働者に対して1つの雇用保険被保険者番号しか割り当てられないためです。
複数の勤務先で加入条件を満たしていたとしても、二重で被保険者になることはできません。
したがって、複数の仕事を掛け持ちしている場合、いずれか1社を選択して雇用保険に加入する形になります。
雇用保険に加入できるのは主たる賃金を受ける会社だけ
複数の勤務先が雇用保険の加入条件を満たす場合、労働者が任意で加入する会社を選ぶことはできません。
「主たる賃金を受ける会社」、つまり生計を維持するために最も多くの賃金を得ている勤務先で加入するのが原則です。
どちらの会社で加入すべきか迷う場合、基本的には給与額が高い方が「主たる」勤務先と判断されます。
どっちの会社になるかは、客観的な事実に基づいて決まります。
まずは雇用保険の基本的な加入条件をチェックしよう
ダブルワークであっても、まずは雇用保険の基本的な加入条件を満たす必要があります。
主な条件は「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」と「31日以上の雇用見込みがあること」の2点です。
例えば、2つの勤務先のどちらも週20時間未満の労働時間である場合、原則としてどちらの会社でも雇用保険には加入できません。
この週20時間という基準が、加入資格を判断する上で重要なポイントとなります。
ダブルワークで雇用保険に加入する事業所の選び方
ダブルワークの場合、複数の勤務先で加入条件を満たすケースがあります。
その際にどの事業所で雇用保険に加入するかは、労働者が自由に選べるわけではなく、一定のルールに基づき決定されます。
基本的には最も賃金が高い事業所が優先されますが、状況によっては変更手続きが必要になることもあります。
ダブルワーク先の状況が変わった際は、加入する事業所を見直す必要が出てくるかもしれません。
判断基準は月々の賃金が多い方の勤務先
雇用保険の被保険者資格は原則として1つの事業所で取得しますが、複数の勤務先で加入条件を満たす場合、「主たる事業所」を決定する必要があります。主たる事業所の判断には、月々の賃金額だけでなく、労働時間、給与額、雇用の安定性、雇用形態などが総合的に考慮されます。
ハローワークは、労働者の生計を最も支えている勤務先で保険関係が成立すべきだと考えているため、これらの基準が採用されています。
労働時間が長い方を主たる勤務先とすることも可能
賃金額による判断が難しい場合、例えば2つの勤務先の給与が同程度である場合などは、労働時間が判断基準となることがあります。
具体的には、それぞれの勤務先で週20時間以上の労働条件を満たしており、一方の労働時間がもう一方より明らかに長い場合、その労働時間が長い方を主たる勤務先とすることがあります。
ただし、これはあくまで賃金で判断できない際の補足的な基準です。
【ケース別】ダブルワークにおける失業手当の受給要件
ダブルワークをしている方が失業した場合、失業手当(基本手当)をもらえるかどうかは、仕事の辞め方によって異なります。
雇用保険に加入していた仕事を辞めても、もう一方の仕事を続けていれば「失業」状態とは見なされず、手当はもらえません。
ここでは、仕事を辞めた状況に応じた失業手当の受給要件について、具体的なケース別に解説します。
片方の仕事を辞めただけでは失業手当はもらえない
ダブルワークをしている場合、雇用保険に加入していた主たる勤務先を退職し、失業手当の受給条件を満たせば、失業手当を受給できる可能性があります。失業手当は、働く意思と能力があるにもかかわらず職業に就けない「失業状態」の方を支援する制度です。
ただし、失業手当の待機期間中にもう一方の仕事をしていないこと、受給期間中にもう一方の仕事の労働時間を週20時間未満かつ1日4時間未満に抑えることなどの条件があります。
両方の仕事を辞めた場合の失業手当の計算方法
失業手当を受給するためには、両方の仕事を退職し、完全に失業状態になる必要があります。
その場合、失業手当の金額を計算する際の基礎となる賃金は、雇用保険に加入していた1社分の給与のみです。
加入していなかった勤務先の収入は、たとえ長年働いていたとしても計算には含まれません。
そのため、加入していた会社の給与額によって、受け取れる手当の額が決まります。
失業手当の受給中にアルバイトをする際の注意点
失業手当の受給中に一時的にアルバイトやパートで働くことは可能ですが、厳しい制限があります。
原則として、ハローワークへの申告が必須です。
また、待期期間や給付制限期間が明けた後でも、労働時間が週20時間以上になると「就職した」と見なされ、手当の支給が停止されます。
扶養内で働くような短時間の労働であっても、収入額によっては手当が減額されるため、事前にハローワークへ確認することが重要です。
1社では条件を満たさない65歳以上のためのマルチジョブホルダー制度
2022年1月の雇用保険法改正により、65歳以上の労働者を対象とした「マルチジョブホルダー制度」が新設されました。
これは、複数の事業所で働く高齢者が雇用保険に加入しやすくするための特例制度です。
厚生労働省が推進しており、1つの事業所での労働時間が週20時間未満であっても、条件を満たせば雇用保険の被保険者となることが可能になりました。
2社以上の労働時間を合算して雇用保険に加入できる特例
マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者を対象に、2つ以上の事業所での労働時間を合算して週20時間以上になる場合に雇用保険への加入を認める特例です。
例えば、A社で週10時間、B社で週10時間働いている場合、合計で20時間となるため加入資格を得られます。
ただし、この制度を利用するには、それぞれの事業所での労働時間が週5時間以上であることが条件となっており、片方が極端に短い場合は対象外です。
マルチジョブホルダー制度の対象者と手続き方法
この制度の対象となるのは、複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者で、2つの事業所の労働時間を合算して週20時間以上になる方です。
手続きは、会社が行うのではなく、労働者本人が住所地を管轄するハローワークに申し出る必要があります。
申出には、それぞれの事業所の労働時間などを証明する書類が必要となるため、あらかじめ勤務先に確認し、準備を進めておくことが大切です。
雇用保険の手続きでダブルワークが会社にバレる可能性はある?
ダブルワークを会社に秘密にしている場合、雇用保険の手続きがきっかけで発覚する可能性があります。
特に、それぞれの勤務先で加入条件を満たしており、意図せず二重加入の手続きを進めてしまった場合にリスクが生じます。
会社側が良かれと思って手続きをした結果、ハローワークからの指摘で別の勤務先の存在が明らかになるケースが考えられます。
会社が手続きした際に二重加入が発覚する仕組み
新しい勤務先がハローワークで雇用保険の加入手続きをしようとした際に、すでに別の会社で加入済みであることがシステム上で判明します。
すると、ハローワークは手続きに来た会社に対し、「この方はすでに他の事業所で被保険者になっています」と連絡を入れます。
この時点で、会社は本人が他でも働いていることを知るため、二重の雇用関係が明らかになります。
マイナンバーの提出で過去の加入歴が分かることはない
入社手続きなどで会社にマイナンバーを提出したとしても、その情報から会社が直接個人の職歴や過去の雇用保険加入歴を調べることはできません。
マイナンバーは、あくまで行政機関が税や社会保障の手続きを効率的に行うために利用されるものです。
会社側がマイナンバーを使って従業員の副業を調査する権限はないため、提出自体が直接ダブルワークの発覚につながるわけではありません。
ダブルワークの雇用保険に関するよくある質問
ダブルワークにおける雇用保険の基本的なルールを解説してきましたが、ほかにも社会保険や税金など、関連する疑問が生じることがあります。
ここでは、ダブルワークをしている方が抱きやすい雇用保険やその他の手続きに関するよくある質問について、簡潔に回答します。
Q1. 雇用保険料はどのように計算されて給与から引かれますか?
雇用保険料は、加入している会社の賃金総額に保険料率を掛けて計算され、毎月の給与から控除されます。
雇用保険は、原則として一つの勤務先で加入しますが、例外として65歳以上の労働者を対象とした「マルチジョブホルダー制度」では、複数の勤務先の労働時間を合計して加入要件を満たす場合に、それぞれの会社で雇用保険に加入できます。雇用保険料の計算は、加入している各勤務先の収入に基づいて行われます。
保険料率は事業の種類により異なり、労働者と事業主の双方が負担します。
Q2. ダブルワークの場合、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入はどうなりますか?
社会保険(健康保険・厚生年金)は、雇用保険と異なり、複数の会社で加入要件を満たす場合はそれぞれで加入します。
各社で被保険者となり、保険料はそれぞれの会社の給与額に応じて按分され、給与から天引きされる仕組みです。
これを二以上事業所勤務届といいます。
Q3. 収入が増えたら自分で確定申告をする必要はありますか?
2か所以上の会社から給与を受け取り、主たる給与以外の所得が年間20万円を超える場合は、自分で確定申告を行う義務があります。
これは個人事業主やフリーランスとして副収入がある場合も同様です。
年末調整されていない収入がある方は、申告漏れがないよう注意が必要です。
ダブルワークの雇用保険手続きに迷ったら社労士へ相談を
社会保険労務士法人ONE HEARTでは、ダブルワークの普及やマルチジョブホルダー制度の導入といった複雑な雇用情勢に対応し、貴社の実情に合わせた最適な労務サポートを提供しています。
雇用保険の加入条件を誤認したまま手続きを進めると、ハローワークからの指摘で思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。特に週20時間以上の勤務者が複数社で重複する場合の判断や、法改正への迅速な対応は、企業のコンプライアンス維持において極めて重要です。現状のルールに潜むリスクが不安な経営者様や、現場の実態に即した運用を目指す労務担当者様は、ぜひ一度当社のホームページよりお問い合わせください。
また、私たちは最新のITツールを活用し、労働時間の正確な把握やミスのない労務管理体制の構築を支援することで、企業の持続的な発展に貢献します。急成長中のスタートアップから歴史ある老舗企業まで、規模や業種を問わず幅広いクライアント様をご支援しております。
雇用保険の二重加入の防止や適切な被保険者資格の取得について、専門家による丁寧なヒアリングをご希望の方は、まずは無料相談フォームからお気軽にご連絡ください。個別の事例に合わせ、リスクを最小限に抑えた管理体制をご提案します。
まとめ
ダブルワークにおける雇用保険は、原則として最も賃金が高い「主たる事業所」1社でのみ加入します。
二重加入はできません。
片方の仕事を辞めただけでは失業手当の対象にならず、両方の仕事を辞めた場合に、加入していた会社の賃金を基に手当が計算されます。
65歳以上の方は、複数社の労働時間を合算できる特例制度も利用可能です。
正社員や派遣、パートなどの雇用形態にかかわらず、これらのルールを理解しておくことが重要です。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


