試用期間の延長は、会社が社員の適性を判断するために必要な場合に行われることがあります。
しかし、この延長が違法ではないかと不安に思う社員や、適切な手続きが分からず悩む会社担当者も少なくありません。
試用期間の延長は、法律で定められた要件を満たし、正しい手続きを踏めば可能ですが、条件を満たさない場合は違法と判断されるリスクも伴います。
本記事では、延長が認められる条件から、具体的な手続き、そして延長後の本採用拒否に至るまでの注意点を解説します。
試用期間の延長は原則として可能だが条件がある
結論から言うと、企業が試用期間を延長することは原則として可能です。
ただし、無条件にできるわけではなく、延長が法的に有効と認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
これらの条件が満たされていない場合、延長は無効とされる可能性があります。
企業側は延長できないケースを理解し、従業員側は自らの状況が正当なものかを見極めることが重要です。
延長があり得る旨が事前に合意されているかどうかが、最初の判断基準になります。
そもそも試用期間が持つ法的な位置づけとは
試用期間とは、本採用を前提として、従業員の能力や勤務態度、適性などを評価するために設けられる期間のことです。
法律上の意味合いとしては「解約権留保付労働契約」が成立している状態と解釈されます。
これは、通常の雇用契約と基本的に同じであり、労働基準法をはじめとする各種労働法規の保護対象となります。
そのため、試用期間中であっても、客観的で合理的な理由なく、社会通念上相当と認められない解雇(本採用拒否)は認められません。
つまり、試用期間は企業が自由に従業員を解雇できる期間ではないということです。
延長が認められない違法性の高いケース
試用期間の延長が違法または無効と判断される可能性が高いのは、企業による一方的な決定や、手続きに不備があるケースです。
具体的には、就業規則や雇用契約書に延長の可能性に関する規定が一切ないにもかかわらず延長を通知した場合や、延長するにあたって客観的で合理的な理由がない場合が挙げられます。
また、従業員本人の同意を得る手続きを全く経ず、会社が一方的に延長を決定することも不当と見なされます。
理由の説明なしに行われる延長は、従業員の権利を侵害するものとして無効になるリスクがあります。
試用期間の延長が法的に認められるための3つの必須要件
試用期間の延長を適法に行うためには、法律上の根拠に基づいた3つの要件を満たす必要があります。
これらの要件は、過去の判例などでも重視されており、労使間のトラブルを避ける上で不可欠です。
企業が延長を検討する際は、これらの要件をすべてクリアしているかを確認しなければなりません。
これから、その3つの必須要件について具体的に解説します。
就業規則や雇用契約書に延長の可能性が明記されていること
試用期間を延長するための大前提として、就業規則や雇用契約書に「業務上の必要性や本人の勤務状況に応じて、試用期間を延長する場合がある」といった趣旨の規定が明記されていることが必要です。
入社時に交付される労働条件通知書への記載も有効な根拠となります。
このような事前の規定がなければ、原則として延長は認められません。
従業員は入社時に契約書の内容を理解し、企業側は採用時にこれらの規定を労働者に明確に示し、合意を得ておくことが後のトラブルを避けるために重要です。
延長する客観的かつ合理的な理由が存在すること
延長を行うには、その判断に至った客観的かつ合理的な理由が不可欠です。
例えば、「能力不足で判断に時間が必要」「遅刻や欠勤が多く勤務態度に問題がある」「長期の病欠で評価期間が不足した」などが挙げられます。
単に「もう少し様子を見たい」といった曖昧な理由では、合理的理由とは認められません。
過去の裁判の判例でも、延長の合理性は厳しく判断される傾向にあります。
企業は、なぜ延長が必要なのかを具体的な事実に基づいて説明できる状態にしておく必要があります。
この判例の傾向からも、客観的証拠の準備が重要です。
社会通念上、妥当な延長期間が設定されていること
延長する期間は、社会通念上、妥当な長さに設定する必要があります。
法律で延長期間の上限や限度が明確に定められているわけではありませんが、当初の試用期間と合わせて著しく長期にわたる延長は、公序良俗に反し無効と判断される可能性があります。
一般的には、当初の試用期間が3ヶ月であれば、さらに3ヶ月延長するなど、合計で半年程度が一つの目安とされています。
企業の裁量で自由に設定できるわけではなく、あくまで適性判断に必要最小限の、常識的な期間であることが求められます。
最大でも当初の期間と同程度が妥当でしょう。
試用期間の延長が検討される具体的な理由とケース
試用期間の延長は、なぜ行われるのでしょうか。
その背景には、従業員の適性や能力を当初の期間内では判断しきれない、やむを得ない事情が存在します。
企業が延長の理由とするのは、主に本人の勤務状況や健康状態に関連するケースです。
ここでは、試用期間の延長が具体的にどのような理由で検討されるのか、代表的な3つのケースを紹介します。
勤務態度や能力の評価にもう少し時間が必要な場合
最も一般的な理由として、従業員の勤務態度や業務遂行能力の評価に、もう少し時間が必要と判断されるケースが挙げられます。
例えば、仕事の覚えが遅く、独り立ちできるレベルに達していない場合や、業務上のミスが頻繁に発生する場合などです。
また、遅刻や早退を繰り返したり、協調性に欠ける行動が見られたりするなど、勤務態度に改善の余地がある場合も、改善を促し、その経過を観察するために延長が検討されます。
病気や怪我による長期欠勤で出勤日数が不足している場合
従業員が病気や怪我を理由に長期間欠勤し、当初予定していた試用期間中の出勤日数が大幅に不足した場合も、延長の正当な理由となり得ます。
これは、従業員の適性や能力を評価するための十分なデータが得られなかったためです。
無断欠勤はもちろんですが、正当な理由がある病欠であっても、評価自体が困難であった事実に基づき、不足した期間を補う形で延長が認められることがあります。
本人の責に帰すべき事由でなくとも、評価期間の確保という観点から延長が必要と判断されます。
別の部署や職種で適性を判断したい場合
採用時に想定していた部署や職種では能力を発揮できなかったものの、他の分野であれば活躍できる可能性があると会社が判断した場合も、延長の理由となります。
このケースは、従業員の解雇を回避し、社内での活躍の可能性を探るというポジティブな側面を持っています。
例えば、営業職としては不向きでも、事務職や企画職としての適性を見極めるために、配置転換とともに試用期間を延長して様子を見る、といった判断が行われます。
これは、採用した人材のポテンシャルを最大限に活かすための措置です。
【企業向け】試用期間を延長する際の手続き5ステップ
試用期間の延長をしたいと考えても、正しい手続きを踏まなければ法的なリスクを伴います。
従業員との無用なトラブルを避け、円滑に延長を行うためには、段階的なアプローチが重要です。
ここでは、企業が試用期間を延ばす際に踏むべき具体的な方法を、必要な書類の準備から面談の進め方まで含めて5つのステップで解説します。
この手順を守ることが、適切な労務管理の第一歩です。
ステップ1:指導記録や面談記録など客観的な事実を整理する
延長を検討する最初のステップは、その根拠となる客観的な事実を整理することです。
日々の業務における指導記録、注意した内容と日時、それに対する本人の反応、定期的な面談の議事録などを証拠としてまとめます。
例えば、「〇月〇日、〇〇の業務でミスがあったため、〇〇と指導した」といった具体的な記録が重要です。
これらの記録は、後の面談で延長理由を具体的に説明するため、また万が一のトラブルの際に会社の正当性を主張するための重要な資料となります。
ステップ2:本人と面談し延長理由と改善課題を具体的に伝える
次に、対象の従業員と直接面談の場を設けます。
この際、メールなどの文面だけでなく、口頭で丁寧に説明することが不可欠です。
面談では、ステップ1で整理した客観的な事実に基づき、なぜ延長が必要なのかという理由を具体的に伝えます。
同時に、延長期間中に何を、いつまでに、どのレベルまで改善すれば本採用に至るのかという明確な課題と目標を提示します。
感情的にならず、あくまで育成の視点からの伝え方を心がけることが重要です。
ステップ3:「試用期間延長通知書兼同意書」を準備し交付する
面談で口頭説明を行った後は、必ず書面で通知と同意の確認を行います。
そのために「試用期間延長通知書兼同意書」という書類を準備し、従業員に交付します。
この通知書には、延長の理由、延長期間、延長後の労働条件、達成すべき改善課題などを明記する必要があります。
この書面に関する同意書は、後のトラブルを防ぐための重要な証拠となります。
通知のタイミングは、いつまでという決まりはありませんが、試用期間が満了する前に余裕をもって行うのが一般的です。
ステップ4:本人から署名・捺印済みの同意書を回収し保管する
「試用期間延長通知書兼同意書」を従業員に交付し、内容について十分な説明を行った後、本人に署名・捺印をしてもらいます。
従業員が内容に納得し、署名・捺印した同意書を回収し、会社で大切に保管します。
このプロセスは、従業員が延長に合意したことを証明する法的な証拠となり、一方的な延長ではないことを明確にします。
万が一、将来的に労働問題に発展した場合でも、この同意書の存在が会社の正当な手続きを裏付ける重要な要素となります。
ステップ5:延長期間中の具体的な指導計画を立てて実行する
同意書を回収したら、延長期間中の具体的な指導・育成計画を立て、それを実行に移します。
延長期間は、単に様子を見るだけの期間ではなく、設定した改善課題をクリアできるよう、会社側が積極的にサポートする期間です。
定期的な面談(週に1回など)を実施して進捗を確認し、具体的なフィードバックや追加の研修を行うなど、改善に向けた具体的なアクションを取り続けます。
計画的で丁寧な指導を行うことで、本採用の可否をより客観的に判断できるようになります。
延長後も改善が見られない場合の本採用拒否(解雇)における注意点
試用期間を延長して指導を尽くしたにもかかわらず、残念ながら改善が見られなかった場合、会社は最終的に本採用拒否(解雇)という判断を下すことがあります。
この本採用拒否は、法的には「解雇」に該当するため、非常に慎重な対応が求められます。
延長後、退職や転職を考える従業員にとっても、この段階での会社の対応は重要です。
ここでは、本採用拒否が法的に正当と認められるための要件や、手続き上の注意点を解説します。
本採用拒否が正当と判断されるための要件
本採用拒否が正当な解雇として認められるためには、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が必要です。
具体的には、採用時に知ることができなかった事実が判明した場合や、延長時に具体的に示した改善課題が、十分な指導・教育を行ったにもかかわらず達成されなかった場合などが要件となります。
単に能力が期待に満たなかったという抽象的な理由だけでは不十分であり、具体的な事実に基づいた客観的な証拠が求められます。
14日を超えて勤務している場合は解雇予告が必要になる
試用期間中の従業員を本採用拒否する場合、解雇予告に関するルールに注意が必要です。
労働基準法では、試用期間の開始から14日以内に解雇する場合は解雇予告が不要とされています。
しかし、14日を超えて勤務している従業員を解雇する場合は、通常の解雇と同様の手続きが必要となります。
具体的には、少なくとも30日前に解雇の通知を行うか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
この手続きを怠ると、不当解雇として争われるリスクがあります。
試用期間延長に関するよくある質問
試用期間の延長は、企業担当者にとっても従業員にとっても、疑問や不安が生じやすいテーマです。
ここでは、現場でよく聞かれる質問とその回答をまとめました。
試用期間の延長を従業員が拒否した場合、どう対応すべきですか?
まず従業員がなぜ拒否するのか理由を丁寧にヒアリングし、再度協議します。
認識の齟齬があれば解消に努め、延長の必要性を真摯に説明することが重要です。
それでも合意が得られず、延長に客観的・合理的な理由がある場合、会社は本採用を拒否(解雇)せざるを得ないことがあります。
この場合でも、一方的な対応は避け、慎重な手続きを踏むべきです。
延長された期間中の給与や社会保険の扱いはどうなりますか?
原則として、給与や社会保険(健康保険、厚生年金保険など)の扱いは延長前と変わりません。
試用期間中も正規の労働契約が成立しているため、労働条件が一方的に引き下げられることはありません。
また、有給休暇の付与条件となる継続勤続期間にも、延長された試用期間は通算して計算されます。
試用期間の延長は最大で何ヶ月まで可能ですか?
法律で延長期間の最大値や明確な期限は定められていません。
しかし、社会通念上妥当な範囲に限られ、あまりに長期の延長は無効と判断される可能性があります。
例えば、当初の試用期間と合わせて1年を超えるような設定は、合理的とは言えないでしょう。
最大でも当初の期間と同程度、数ヶ月程度が一般的な限度と考えられます。
5年といった極端な延長は認められません。
まとめ
試用期間の延長は、就業規則の根拠、合理的な理由、従業員の同意といった要件を満たせば、法的に可能です。
企業にとっては、従業員の適性を慎重に見極め、ミスマッチを防ぐメリットがありますが、手続きを誤ると不当な措置としてトラブルになるデメリットも抱えています。
従業員側は、延長を告げられた際にその理由や条件を冷静に確認し、自身の権利を理解しておくことが重要です。
延長が双方にとって有益な期間となるよう、適切なコミュニケーションと法に基づいた手続きが求められます。
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執筆:吉田 優一(社会保険労務士法人ONE HEART 代表・社労士)
社会保険労務士法人ONE HEARTの代表社労士。慶應義塾大学中退後、社会保険労務士試験に合格。その後社会保険労務士法人に勤務し、さまざまな中小企業の労務管理アドバイス業務に従事する。その中で、正しいノウハウがないためヒトの問題に悩む多くの経営者に出会う。こうした経営者の負担を軽減しながら、自らも模範となる会社づくりを実践したいという想いから、社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。


